1.変化と絶望
作者の海神です。本作品、どうぞよろしくお願いします。
「はぁ……はぁ……ルージュ……」
「サテン、もうちょっとだけ、頑張って」
その日は、まるで本当のお母さんのように私達を育ててくれた、ルークおばさんの風邪を心配して、村から少し離れた森の中で、ルージュと一緒に薬草を取っていた。
風邪に聞くと言われている薬草を袋いっぱいに詰めて、私達は笑いながら村に帰ろうと、手を繋いで一緒に立ち上がった、その瞬間だった。
村から大きな爆発音が。次いで、微かな悲鳴。
私達は何が起こったのかと村の方を見ると、黒煙が立ち上り、オレンジ色の炎に包まれた家々が目に入ってきた。その光景は恐怖に変わって体を支配する。
足が震えて全身から力が抜ける。頭が真っ白になって何も考えられなくなる。心臓がとてつもない程に大きく鼓動して、その度にズキズキと胸を締め付けてくる。
「サテン……サテン!」
震えながらも握りしめ続けていた手をルージュに引っ張られて、私はハッとする。
「サテン、行こう」
ルージュのその声は私よりも震えていて……私とルージュは無理矢理体を動かして、走って村へと向かった。
長いようで物凄く短かった村までの道を走り切って、私達は着いた。元、村だった場所に。
まともに建っている家は一軒もない。悲鳴も、もう聞こえない。炎が家だった物たちを食らう音だけしか、そこには無い。
私の目から自然に涙が溢れる。頭の中はルークおばさんの事と、村の皆の事で一杯。
人は本当に悲しい時、きっと頭の中ではいい思い出でいっぱいになるんだ。もう無くなった一番良いものを見せられるんだ。
「サテン……ルークおばさんを、探そう」
私の手をぎゅっと握り込んで、ルージュは必死に涙を堪えていた。
私は泣きながらも頷いて、ルージュに手を引っ張られながら、ルークおばさんと三人で暮らしていた家に向かった。
家は案の定無かった。ただ、黒い家の残骸と、黒い塊が静かに横たわっていた。
まだ、ルークおばさんは生きている。そう思いたいのに、鼻は焼き焦げた肉の匂いを教えてくれる。目はルークおばさんが大切にしていた、指輪を見つけてくれる。
「わあ゛あぁぁぁ―――――」
先に膝をついて泣き叫んだのは、ルージュだった。
……あぁ、苦しいな
私はその時の最初で最後のルージュを、最初で最後の絶望をきっと死んでも忘れない。
●○
「……起きて、サテン」
「うぅ……」
体を揺らされて、目が覚める。どうやらもう朝らしい。地面で寝るなんて事、今までで一度もなかったからか、まだ全身が少し痛い。
私は起き上がって、近くので川で顔を洗う。
村が燃えてから、三日が経った。遅いような早いような、そんな感覚で……でも、不意に悲しくなって泣くことは無くなった。
ルークおばさんの目の前で一通り泣いた後、ルークおばさんの形見である指輪を貰い、私達は村から去った。
幸い、歩いて一時間もしないこの場所の川に向かって、私達はそこで一夜を過ごし、その後もここに残ることにした。
「はい、サテン」
木の実を二つ、私の手のひらの上に乗せてくれるルージュ。この三日、木の実や薬草でなんとか空腹を誤魔化してきたけれど、ちょっときつくなってきた。
でも、だからと言ってお金があるわけでもなく、魔物を捕まえれるわけでもない。
「うっ……苦い……」
心の中がざわつく。今の状況を正直に言えば……絶望的にまずい。
ここから王都である、ニールまでは歩けば最低四日。その距離を歩くか、このままここにいて、飢え、もしくは、魔物に襲われて死ぬのを待つか。
王都に行くほうが賢明ではあるが……その道中の水、食料はどうするのか。
この三日で、ルージュも私も少し痩せた。早くどうにかしないといけないのに……私達にはどうしょうも出来ない。
苦い木の実を食べ終わって、ルージュの方を向く。ルージュはそれに気付いて笑ってくれるけれど……その笑みはとてもか弱い。
考えないと……どうにかして生き残る方法を。
「サテ……ン」
少し経って、ルージュの掠れた声で顔を上げると、森の中からこちらを睨み、近付いてくる魔物が視界に入ってきた。四足歩行の白い魔物だ。
「ルージュ、逃げて」
私は立ち上がって、ルージュを守るように前に立つ。魔物はずっとこちらを睨み続けていて、隙がない。
私は一歩足を踏み出そうとして、思いっ切り服を引っ張られ、後ろによろける。
「サテンが、逃げてっ!」
ルージュのその声と共に、魔物は物凄い勢いでこちらに走り、ルージュは私を庇うように両手を広げる。
ルージュが……ルージュが……死んじゃう。
魔物は勢いそのまま飛び上がり、ルージュの頭めがけて口を開く。
「ルー……」
「『風刃』」
聞いたことのない誰かの声が聞こえると同時、魔物の首がスパッと切れて、ルージュの前に魔物の頭が転がり落ちた。
面白い、続きが読みたい、そう思った方ぜひブックマークそれと、
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