第二話 何事もチャレンジ!
前回行間を開けまくって見やすくしたのはいいんですが、僕自身、その技法があまり好きじゃなくてですね……。
なんかこう、空白が空いているとそこに心理的描写を入れたくなる、というか……。
今までのプライドを全部捨てて書いてるんですよね、実験的な意味もあって。
そんなこんなでスパイアさんの家に入れられた私だが、キッチンがポン、と置かれている、窓も碌にないような家の中だった。
スパイアさんは、皿を取り出して、包丁でトマトを切っていく。
輪切りにしたトマトにカマンベールチーズを乗せ、上からオリーブオイルと黒胡椒を振りかけた。
「……ほらよ……。食いな。平地から走ってきて疲れてんだろ?……顔見りゃわかる。」
スパイアさんなりの気遣いなのだろうか。
食事を振る舞ってくれたのだ。
「ありがとう……ございます……。では、いただきます!」
綺麗な果肉をしたトマトと、白いカマンベールチーズの紅白のコントラスト、そして上から掛けられたオリーブオイルの独特な香りと、胡椒の鼻にツン、と来る香り。
山を登った私には最高のご馳走に見えたのだった。
パクッ、と一口食べてみる。
それを口に含んだ瞬間にわかった。
トマトが引き立たせる甘味と酸味、どちらかといえば酸味が少し控えめで、甘味がガツンと来る。
それが口の中で猛烈に広がっていた。
カマンベールチーズも、表面のカビの苦さと内側の部分の強い旨味。
これがトマトと半端なく相性が良かった。
また、オリーブオイルの香り、胡椒の辛味もインスパイア的にトマトとカマンベールの濃厚な味を殺す事なく、上限まで引き上げられており、絶妙なバランスを保った、至極の一品と呼べる味だった。
口の中で広がる「美味」という名の幸福感で何も言えなくなった私に、スパイアさんは私に声を掛けた。
「……どうだ? 俺の作った奴は。」
低い野太い声でそう聞かれた私は、こう答えた。
「………すっっっっっっっっごく美味しいです!!!」
「……そうかい……。それなら俺も振る舞った甲斐があったってもんだ。」
こうして私は提供された料理を、その勢いのまま食べ尽くしたのだった。
こうして食べ終えた私に、スパイアさんは本題を聞いてきた。
「……アンタ……ルナ、って言ったな? 農業をしたくなったから俺を訪ねたってのは分かるが……、何故そこまでして農業をしたいと思うんだ?? 何か必ず理由があるだろ。中央から来たであろうアンタが。」
たしかにここ1ヶ月、私は何もせずに引きこもっていたのは事実としてあるし、「中央」というのは、おそらくフェミータ王国の城下町のことだろう。
ここまで思い立ったのは、“犯罪者”とレッテルを貼られた自分でも生まれ育った国に何か恩返しが出来るのではないかと考えたのもあるが、再起を図るときに手軽にできると思ったからだ。
私はそのことを答えた。
「……私は……1ヶ月前にフェミータ王国から追放処分を受けてここまで来たんです。だから中央から来たというのはあながち間違ってません。けれど……このままじゃやりきれない。確かに追い出されはしました。ですが、宮廷に少しでも……『食材提供』という形で恩返しがしたいんです!だからそのヒントがあると思ってここまで訪ねてきたんです!」
私の思いの丈はぶつけたが、スパイアさんは少々冷淡だった。
「……なるほどな。つまりは元々令嬢様だったってわけね……。俺もこの山でトマト栽培の事業を始めて20年になるが……、売れるようになってまともな生活が出来る様になったのはここ数年だ。それまでは試行錯誤の連続だ。うまく行かねえこともあるし、その間に借金を作んねーように町に出て道具屋で出稼ぎに行ったり、な。良いところから出ているルナが無理してやる仕事でもねえだろうとは思うが……、おそらく知られすぎていて国へ帰れねえってところだろうな。」
「……確かにそうですね……。一時国を騒がせてしまったものですから……。」
「……まあ、止めはしねえし、俺も援助は惜しまないぞ? まず一年、やってみろ。トマト栽培を、な。俺みてえな下でやっている人間がどれだけ苦労して、愛情を込めて作ってるかがわかるからよ。……失敗しても良いからまずやってみろ。本気で、トマト栽培で生活してえなら、な。」
「……え……!! それでは……!!!」
私は思い切り椅子から立ち上がった。
「ついてこい。渡したいものがある。」
そういってスパイアさんは外に出た。
私はスパイアさんを追った。
そうして連れてこられた倉庫で、あるものを見つけた。
家の中とは違い、多少日の当たる倉庫だ。
そこで目にしたのは、植木鉢に入ったトマトの苗だった。
「……まあ、何個か持っていけ。あとはこれを渡しておく。」
そういって、スパイアさんは何やら麻袋を私に渡した。
その瞬間、ズシっと抱えた腕が沈んだ。
「重っっっ!!! なんですか、これは!!」
「……肥やしだ。」
「こ、肥やしですか!? 何故このようなものを!?」
確かに独特な匂いがする。
何で作られているかはさておき、私には何故肥やしを渡されたのか全くわからなかった。
「…………まあ、俺が今使ってんのはそれだ。農業に欠かせねえのは『土の中の栄養分がどれだけ入っているか』だ。ソイツには町でかき集めた『生ゴミ』だったり、動物の死骸、はたまたその『ウ○コ』……だったりな。それ以外にも、もう二つ。重要なもんがある。」
……確かに糞を集めたり食べ残しを集めるなど、育ちのいい私からすれば考えたくもなかったが、再起のためだ。
なりふり構ってはいられなかった。
私はスパイアさんの話を固唾を飲んで聞いた。
「……『いかに自らがトマトのために汚れることが出来るか』、そしてもう一つが……『トマトにどれだけ愛情を持って、丹精を込めて作ることができるか』、だ。……確かに時間はかかる。今は4月だ。トマトのシーズンじゃねえ。だが、夏になればトマトは最高に美味くなる。その間だけ、どれだけモチベーションを保てるかだ。」
「……わかりました……。」
私は先程食べたよりもっと美味しいトマトができるのか、と聞いて脳裏にうまく行った時の想像を張り巡らせた。
「……まあ、俺で10数年も掛かったんだ。ここまで来るのにな。最初なんてそんな簡単にうまくいくわけがねえんだ。宮廷で提供させてえ、ってんならよ……。地道にやれ、まずは。だが……俺くらいは超えてみせろ。味も、品質も、何もかもな。」
ここまで煽られては、元・名家のお嬢様の名が廃る。
スパイアさんは、私の心に闘志という火を燃やしてくれた。
「色々、アドバイスありがとうございました!! それでは、失礼致します!!」
そういって、私は上機嫌で帰路についたのだった。
そして、家へ戻ってきた私だったのだが……ある事実に気づいてしまった。
そして愕然とした。
農具が自宅には何もなかったということに…………。
やると意気込んだは良いが、道具がなければ何も始まらないのもまた事実だった。
………そんなこんなで、私のトマト栽培奮闘記が始まったのであった。
良いところのお嬢様がいきなり農業をするって、相当な覚悟がないとしないと思う……wwww
「追放系」という、流行りのレッドオーシャンに飛び込んだ以上、面白くしないと後が続かねえなという思いもあるんで、今回は恥もプライドも全部捨てて頑張ろうと思います!




