「拙者はこれまで剣一筋に生きてまいりました」
17世紀の砲は大型化に進んでいるのだが、今回の作戦では小型を多用しようと考えている。取り回しが楽で敏速に移動出来るからだ。射程圏外から複数の大砲で集中砲火を浴びせて、無力化させることが出来ればいいのだが。敵の砲も射程距離が伸びているだろう……
ガレオン船に搭載されている大砲は脅威だが、沿岸を離れてしまえば問題ない。あとは上陸して来る大砲だけを何とかすればいいのだ。
何処に上陸して来るか分からない状況で、湾岸の砲台など無駄な防備をする必要はない。大型の大砲は既にイングランドの方が勝っている。百隻を超えるかもしれないガレオン船の大砲に、立ち向かえる装備は間に合わない。勝手に上陸させて、その後有利な場所で迎え討てばいいだけだ。
ちなみにスペインの無敵艦隊がイングランド沖で放った大砲の弾は十二万発とも言われ、単純計算ではスペイン船一隻当たりの弾丸保有数は九百発にもなる。
と言う事は仮に百隻のガレオン船が来た場合、放たれる砲弾の数は九万発となるではないか!
「幸村」
「はい」
「これはやり方を変える必要があるな」
「…………」
仁吉と幸村とで銃の製造現場を見て回ったおれの感想だった。
日本刀を作る鍛冶工房の風景を思い浮かべたらいい。数人の職人が一丁の鉄砲を最初から完成までかかりっきりだ。これでは到底間に合わない。流れ作業でもっと効率的に仕事を進める必要がある。
幸村にその解決法を説明して、仁吉には細かい行程別の職人を育てれば良いと言って聞かせた。それなら早く養成出来るはずだ。流れ作業に昔ながらの職人は必要ない。
大平洋戦争では銃弾薬の工場で女子学生が活躍したと言うではないか。手の空く町人を多数徴用するのだ。すると二人とも分かってくれたようで、すぐ具体的な相談をし始めた。
だが城に帰る途中でふと気が付いた。
「どうしたのだ?」
「はっ」
「元気がないではないか」
安兵衛がおれの護衛として常に傍に付いている。一度はおれを殺害しようとした男だ。ところがなぜか元気がないように見える。
「拙者はこれまで剣一筋に生きてまいりました」
「…………」
「ところが先ほどの殿と仁吉殿との会話がまったく理解できません。それで……」
「なんだ、そんなことか」
安兵衛には剣道という道があるだろう。それと同じに仁吉にも鉄砲道と言えるものがあるはずだ。同じではないかと言って聞かせた。
確かに全く新しい概念や世界がいきなり現れたら、それまで生きて来た価値観が用をなさなくなるのではと感じてしまうのかもしれない。
すでに刀を振り回す時代は去り、鉄砲が雌雄を決するようになっているのは安兵衛も分かっているに違いないのだ。




