「太郎兵衛、硝石の事だ」
イングランド王国が動き出す二十年ほど前、スペインの無敵艦隊は兵士約一万八千、船員、その他非戦闘員の一万二千、総数約三万人を艦船に満載してイングランドに向かった。
計画では当初スペイン・フェリペ二世は、外地で交戦中の精鋭部隊と合流する予定だった。数百隻の艦船と兵員三万が合わされば、合計六万近くの兵士が参加する上陸作戦となる。
しかしその計画は挫折して、実際に参加した船舶は百三十隻で上陸する兵士の数は一万八千だった。船の種類にもよるが、一隻平均で上陸出来る兵士は約百四十人程度と思われる。今は船が大型化してもっと多いかもしれない。
待ち構えているイングランド軍艦船は二百隻であった。
またレパントの海戦(一五七一年)では地中海の覇権を争って、教皇・スペイン・ヴェネチアの連合軍とオスマン帝国海軍がギリシャのコリント湾口で激突した。
この時の主力艦は両軍ともに大勢でオールを漕ぐガレー船であったが、オスマン帝国戦艦の総数は三百隻であった。
いずれもこの時代の海戦を伴う上陸作戦は、すでに壮大な物量戦になっていたようだ。
イングランド王国が最終目的地である日本に照準を定めた時には、総力を上げて侵攻して来るだろう。間違いなく四百隻ほどの大艦船団でやって来ると思っておいた方が良い。上陸する兵士の数は五万から六万か。
何しろ前回の戦では、日本の鉄砲隊にスペインとポルトガルの連合軍が完膚なきまでにやられているのだ。もっともたった五隻や七隻のガレオン船での襲撃など、彼らにとってみればほんの小手調べに過ぎなかったに違いない。
ジパングは黄金の国、侵攻作戦はこれからが本番なのだ。
元寇は鎌倉時代中期に、二度にわたり行われた日本侵攻である。来襲した軍船は大小合わせて七百から九百隻余り。兵員は四万近くにもなったと言う。
イングランド王国が侵攻してくれば、日本にとって二度目、三百数十年ぶりとなる非常事態だ。
「太郎兵衛はおるか?」
「はい」
大阪に戻っている太郎兵衛に言っておきたい事がある。
「太郎兵衛、硝石の事だ」
この男もおれの事情を知っている数少ない一人だ。
「国内での生産も急がせるが、輸入も出来るだけ多くしてもらいたい」
「分かりました」
イングランド王国が明を制圧してしまったら、硝石の輸入が難しくなる。日本国内での生産もある程度は出来るようだが、十分な火薬を作るためには絶対必要な物だ。




