115.その後
オルターユ王国のモワノという芸術の街。そこに、立派なピアノが置いてある一軒の家があった。
仕事終わりの金眼黒髪の男が、栄誉あるコンサートへの出演が決まり、その家へと帰ってくる。
そして妻にそのことを告げると、彼女はたいそう喜んでこう言った。
「すごいですわ、イグナーツ様! 夢が、どんどん叶っていきますわね」
「ツェツィーリアが、俺のそばで支えていてくれるからだ」
そういいながら、夫は妻の抱く娘の頭をそっと撫でる。
「少し聞いて欲しいことがありますの」
にっこり微笑む妻に、夫は何事だろうと気持ちを引き締める。
「なんだ?」
「リーゼに、弟か妹ができそうですわ」
「……本当か?」
夫が驚き目を大きく広げると、妻はこくりと頷いた。
そんな美しく愛おしい妻を、夫は娘ごと優しく抱きしめていた。
その隣の家では、ライトブラウンの髪を肩で揺らしながら、この家の妻が料理をしていた。
「ママの料理、楽しみだなー、ベル!」
「き、期待しないでよ! 知っての通り、僕は料理が苦手なんだからさ!」
「あはは!」
夫の膝の上で、娘はきゃっきゃと笑っている。その娘が母親を乞うように声を上げた。
「ま、っま! ママー!!」
妻は鍋の焦付きも忘れて、手を止めた。
「……ベル……今、なんて?」
「まっま、ママ! ママー!」
その言葉に、娘の両親は目を張って顔を見合わせた。
同じ日に生まれた隣の女の子は、びっくりするくらい喋っているのに、娘は言葉らしき物を今まで発したことがなかったからだ。
「僕のこと……だよね……今、僕をママって言ってくれたんだよね……?」
泣き虫な妻に、夫は微笑んで頷く。
「もちろん。ベルの母親は、フローラですから」
「うん……僕は、ベルのママだよ……ずっと、ずっとベルのママでいさせてね……」
そんな大泣きしてしまった妻に、夫はそっと近づくと。優しくだきしめて、キスを施した。
ハウアドル王国の城では、今日も国王が忙しく仕事をしている。
そのそばには赤髪の護衛騎士がいて、金髪の補佐官が書類をまとめて二人に渡していた。
「こちらがフローリアン様のなさった政策です」
それを見た国王は、ふっと息を吐いた後で苦笑いをする。
「女性参政権の実現に労働組合の保護、さらに王位継承法の改正……これを数年のうちに成し遂げてしまうとはね」
「おかげで、クーデターも起こってしまいましたが」
金髪の補佐官も苦く笑った。
「でもフローリアン様の政策があったからこそ、リシェル様は王位継承権を得られて、ディートフリート様も国王に戻れたんじゃないですか!」
赤髪の騎士の言葉に、国王は頷いた。
もし王位継承法が改正されていなければ、娘が王位継承権を得られることはなかった。妻はもう年齢的に妊娠が難しく、男児を産めるかはわからないのだ。女性に王位継承権があったからこそ、これほどまでに国民に支持されての王復帰を成し得た。
「いつか、リシェルが女王になるんですね」
三人の話を少し離れて聞いていた王妃が、いつか女王になる娘を胸にそう言った。
「ああ。きっとこの子は、聡く、強く、力強い支配者の名に恥じぬ素晴らしい統治者になる」
夫である国王の言葉に、妻の王妃はこくりと頷き、視線を未来の女王に向ける。
「はい。この子は、私たちの子ですもの。きっと素晴らしい女王になってくれます。そしてそうなるよう、私たちが導きましょう」
頼もしい王妃の言葉に、夫は立ち上がって娘を撫でた後、そっと妻の瞼にキスをした。
それを二人の騎士は咎める事なく、優しい瞳で見守ったのだった。
*
*
*
ツェツィーリアは、フローリアンは、そしてユリアーナは思い浮かべる。
いとしの人の、熱く優しい言葉を。
──つらいことがあってもそんな態度を見せず、本当に美しい。だからこそ、俺にはその悲しみが見えるよ。
──フローラ、俺がいますよ。俺は絶対に、フローラから離れたりしません。約束します。
──今の君は本当に素敵だけど、不惑を過ぎた君はもっと素敵になっている。だから僕は君に夢中になるんだ。いくつになっても。
それぞれの愛する人の言葉を胸に、これからユリアーナたちはずっと幸せを紡いでいく。
不惑になっても。
不惑を、過ぎても──
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『ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。』
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