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「馬鹿じゃない?」
「は…。」
翌日の夕刻。帰還したレオンハルトの報告を、リュユージュは一蹴した。
「ねえ、馬鹿なの?」
「は…。その…、自分は…、」
言い淀むレオンハルトの言葉を、リュユージュは遮った。
「君の事じゃない。ギルだよ、ギル。」
その時、屋敷の電鈴が鳴った。訪問の合図だ。
リュユージュはレオンハルトに応対させる。
「抜糸なら断って。」
「承知致しました。」
しかし訪問者は軍医ではなく、全く考えも及ばない人物だった。
「失礼致します、兄様。」
リュユージュは驚きの余り、飲みかけの珈琲を吹き出しそうになった。
「なに、アリュミーナ。こんな時間に。」
「大丈夫です。ウィトネス様は快くお時間を下さいました。」
「いや、王女が良くても…。」
「ご心配なく。ルーヴィン国師は緊急召集に行かれたきりで、今夜も戻られませんから。」
「ああ、そう。」
リュユージュはアリュミーナに椅子に腰掛ける様に促した。
そうは言え、聖職者として非常に戒律の厳しい生活を送るアリュミーナに許された自由な時間は、ごく僅かなものだった。
椅子に腰を下ろすなり、彼女は速やかに用件を話し始めた。
「私、兄様がバースに出陣した日、後を追いかけたんです。」
「追いかけた?なんで?」
「何で、って…。見送りよ。」
傍観しているレオンハルトは、二人の甚だしい温度差を感じていた。
「君を待ってる時間なんかある訳ないだろう。」
「知ってる!怪我をして帰還したと聞いたから急いで軍営病院に行ったら、もう応急処置を終えて出陣した後だったわ!」
リュユージュに対して早口で捲し立てるなど、僅かな数の彼の上官を除けば、アリュミーナにしか出来ない行為だ。
滅多に見られない光景に、レオンハルトは興味深く事の成り行きを見守った。
「それで、城下町まで行ったんです。」
その言葉にレオンハルトは顔色を失い、見る間に青褪めて行った。




