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「ギルバート殿。」
レオンハルトは落ち着いた口調でそう語りかけると、バーゴネットを脱いだ。
その慈しむ様な表情はとても軍人とは思えない程で、彼の素顔にギルバートは目を丸くしていた。
「リュユージュ隊長はこれまで一度も、フェンヴェルグ聖王の恩賜を受けられた事がないのです。」
レオンハルトは突然、全く違う話しをし始めた。ギルバートは戸惑いながらも耳を傾ける。
「フェンヴェルグ聖王は我々の労苦や功績に応じて様々な報酬を下さいますが、リュユージュ隊長はそれを頂戴された事が一度もないのです。何故かお分かりですか?」
その問いに、彼は首を横に振った。
「『欲しい』と思う物が、何もないからなのだそうです。」
カゾク ハ イルケド ベツニ タイセツ ジャナイナ
そう語っていた、感情のない翡翠色の瞳がギルバートの脳裏に鮮明に蘇った。
「しかし今回、初めて上奏すると仰ってました。」
レオンハルトは歩を進め、ギルバートの両肩をしっかりと掴む。慈しみの心がこもった瞳の奥には、彼の信念と意志がはっきりと伺えた。
その両手に力が入ると、ギルバートの肩に指が食い込んだ。余りの痛みに、思わず体を捩る。
すると突然、レオンハルトは目を見開いて声を荒げた。
「ギルバート殿!あなたは、リュユージュ隊長にその命を何れ程に望まれているとお思いか!」
不意の出来事に喫驚していると強く肩を引き寄せられ、前へ傾いた。ギルバートは慌てて足を踏み出す。
「『死神』とまで呼ばれている方が!!何れ程までに…あなたを救いたいと願っているか!!お分かりなのか!?」
頭の片隅で、監視員に気付かれるのではないかと懸念するギルバートの方が、冷静と言えよう。
彼は重量のある拘束具に繋がれた手首を勢い良く上げると、レオンハルトを振り払った。
「そんなの、隊長さんの自己満足だ。」
ギルバートは頑なな態度で拒絶する。レオンハルトのみならず、リュユージュまでをも。
「何があろうとも、俺は絶対に語らない。」
レオンハルトは上げそうになった怒号を飲み込んだ。
何故なら、ギルバートの表情は辛苦そのものだったからだ。
彼の頬に伝う涙が、光った。
「せめて最後に、恩に報いさせてくれ。せめて…最後に…。」
ギルバートはレオンハルトに対して、深く深く、頭を下げた。
利点も有用もない、代償を求めないリュユージュの行動。
それはギルバートにとって、何よりも貴いものと成り得たのだった。
そう。何よりも。
自身の、生命よりも。




