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オレの恩返し ~ハイスペック村づくり~【書籍化&重版】  作者: ハーーナ殿下
【第4章】

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第72話:救出隊の準備


 オレは帝国の大剣使いバレスを救いだすために、霊獣の降臨した樹海へ行くことにした。


 準備をするためにロキと別れ、城から帝都の街へと戻る。


「あっ、ヤマト兄ちゃんが帰ってきたぞ!」

「イシス姉ちゃんに、リーンハルトの兄ちゃんもいるぜ!」

「ダンナ、お帰りなさいっす」


 城から戻ってきたオレたちは、市場(バザール)で露店を開いているウルド村のみんなの所に戻ってきた。

 帝都に来た直後に姿を消していた遊び人ラックも、いつの間にか何気ない顔で戻っている。


「ヤマトさま、おかえりなさいませ。予定よりも早かったですね」


 露店を任せていた村長の孫娘リーシャは、帝国との交渉から戻ってきたオレを出迎える。

 本来は各所に根回しや交渉を行うために、夕方に戻る予定であった。


「すまないが、予定変更で店終まいをして、すぐに向かう事案ができた」

「……分かりました、ヤマトさま」


 リーシャは突然のことに、一瞬だけ言葉を詰まらせる。

 だがすぐに事情を察してくれて、村の子供たちに店の撤収の指示をだす。

 この辺の〝阿吽(あうん)の呼吸”は、これまでの二年間の苦楽を共にした賜物(たまもの)かもしれない。


「荷馬車の全ての商品の買い手は見つかった。ここは人目が多い。詳しくは一度、宿に戻って説明する」


 オレも村の子供たちに今後の指示をだす。

 

 広げた露店の商品を全て荷馬車に積み込み、撤収と運搬作業に移る。

 皇子ロキの別邸の一つに、この商品は全て運び込んでおく段取りだ。


 急ぎバレスを助けに行く条件の一つに、このウルド村の特産品を買い取ってもらう交渉をオレはしていた。

 もちろん市場(バザール)と同じ価格であり、金銭による貸し借りをつくるつもりはない。


◇


 皇子ロキの帝都内の別邸に荷物を降ろし、荷台が空になったウルド荷馬車隊は常宿に戻ってきた。


 連れてきた村のみんなを集めて、今回の事情と今後の作戦について説明をする。

 作戦遂行のためには情報の提供化は必須であり、各自からの意見も聞き出す。


「なるほどです、ヤマトさま。あの帝国の大剣使いと配下、その救出に向かうのですね?」

「ああそうだ、リーシャさん。前回の岩塩鉱山と同じように、みんなは“呪い”の射程圏外で待機してくれ」


「はい、分かりました」

「うん、任せておいてよ、兄ちゃん!」


 リーシャと村の子供たちは、今回の作戦をしっかりと理解してくれた。

 特に前回の岩塩鉱山で実際に霊獣と対峙した者は、その人外の恐ろしさを知って慎重だ。


 霊獣は集団で襲い掛かってきた相手を、強制的に操る〝呪い”という能力をもっている。


 それ故に多勢で討伐に向かう訳にいかず、リーシャ以下ウルドの子供たちは射程圏外で待機だ。

 オレがバレス調査団の救出を終えた後に、荷馬車隊で帝都まで輸送を担当してもらう。



「ガトンのジイさんも、今回は突っ込んでくるなよ」

「ふん、分かっておるわい!」


 今回も同行している山穴族の老鍛冶師ガトンに、オレは無茶をしないように釘を刺しておく。

 

 前回の岩塩鉱山での霊獣退治の際に、このガトンは過去に仲間を殺された想いが先行してしまい、霊獣に対して無謀な突撃をした。

 あの時は運よく助かったが、幸運はそう続くものではない。。

 リーシャたちと一緒に、射程圏外の荷馬車隊で待機してもらう。


「ところでジイさん。頼んでおいた〝例の武具”の調整はできたか?」

「もちろんだ。ほれ、この通りじゃ」


 オレはガトンから新しい武具を受け取り確認する。

 それは一本の〝短槍”であった。


「悪くない感触だな」

「もちろんじゃ。ワシを誰だと思っておる」

 

 この槍は数か月前にオレが設計して、ウルドの村で老鍛冶師ガトンが作成したものだった。

 だが細部の調整に特殊な金属が必要になり、今回の帝都まで持ってきていたのだ。

 

 多くの鉱山を有する帝国には良質の鉱物があり、この帝都にはガトンの同胞である山穴族の鍛冶師も店を開いていた。

 その鍛冶工房を借りて、鉱物を得たガトンは短槍を完成させていたのだ。


「じゃが本当に、こんな化け物みたいな得物(えもの)を使いこなせるのか、オヌシは?」

「理論上は完璧だ。あとは実戦で試す」


「ふん。相変わらず無茶な男だな、ヤマトどのは」

「自分では慎重派なつもりだが」


 ガトンから手渡された“短槍”の機能を、オレは最終確認する。

 普通の槍よりも太くいびつな形をしているが、パッと見は何の変哲もない普通の短槍だ。


 これは前回の霊獣のとの死闘の経験から、オレが考案して設計した〝対霊獣用の新兵器”。

 まさか帝国に来てまで霊獣と戦うことになるとは、夢にも思っていなかった。


 だがこの武器が手元にあっただけでも、不幸中の幸いかもしれない。



「それにしても“東樹海の霊穴”っすかー、ダンナ」


 話のタイミングを読んで軽薄な声がとんでくる。

 この数日間、帝都を怪しくうろうろしていた自称遊び人ラックである。


「何か情報でもあるのか、ラック?」

「へい、ダンナ! 実は偶然耳にしたっす……」


 ラックは帝都にいる知り合いから聞いた噂を、順を追って説明する。

 

 何でも今回の目的地である東樹海で、二年前に謎の遺跡が発見されたという。

 今まで影も形もなかった森の中に、突然その姿を現したのだ。

 

 二年前の帝国は、すぐに調査団の第一陣を派遣した。

 だが遺跡の門は鉄よりも固く、どんな攻撃でもカスリ傷すらつけられない。

 

 恐らくは古代の超帝国時代の遺跡という推測。

 その後は調査を諦め、極秘に隠ぺいしたまま監視をつけていた、というラックの説明であった。


「でも最近、急に遺跡に変化があったみたいっす。それでバレス調査団が向かったみたいっす、ダンナ」

「なるほどな。それならロキたちの話との整合性がとれる」


 ラックの情報から、オレは頭の中で仮説を立てておく。

 

 だが今より高度な文化を誇った古代超帝国には、まだまだ解明できない謎が多い。

 ラックの情報にある規模の遺跡は、この大陸では未だ発見されてない。

 

 それにしても国家レベルの超機密情報を、タイミングよく仕入れてくるラックの正体は相変わらず謎である。

 本人から告白してこない限りは、特にオレからラックに問い詰めるつもりはない。

 

「今回はかなり嫌な予感がするっす。ダンナ、気をつけてください」

「ああ。バレスたちを助けたら、霊獣に構わずに退避する予定だ。心配するな、ラック」


 今回は帝国調査団の救出作戦が第一目的であり、深追いは決してしない作戦である。

 逃げ帰った者から複数の霊獣がいた証言もあり、オレは特に慎重を期していた。


「それに今回はリーンハルトもいる」

「……私は付いて行くと言った覚えはなかったのだが、ヤマトよ」


 先ほどから仏頂面で口を閉ざしていたリーンハルトに話をふる。

 今回は騎士リーンハルトと二人で霊獣と対峙することに、オレは決定していたのだ。


「これもオルンと……イシスと帝国の交渉を有利に進めるためだ、リーンハルト」

「言われるまでもない! もちろんだ、任せておけ、ヤマト!」


 わざわざ危険を冒してまで今回バレスを救出に向かうのには、いくつか理由があった。

 その一つが友であったバレスを助けることで、皇子であるロキに貸しをつくることだ。


 これにより今後のオルンと帝国の交渉は、かなり優位に進む。

 そう説明して騎士リーンハルトを、オレは説得したのだ。

 

 特に“イシスの為に”というキーワードを使えば、リーンハルトは即時に動く。

 それだけ近衛騎士として彼女に忠誠を誓っているのであろう。


「よし、みんな準備はいいか。帝都の東門に向かうぞ」


 常宿で準備を終えたオレたちウルド荷馬車隊は、ロキが用意した道案内が待つ東門へと向かうのであった。


◇


 オレたちは帝都の東門へとたどり着いた。


 皇子ロキから渡された特別な証(あかし)を見せると、城門の兵士は門番詰所へと案内してくれる。

 そこにロキが直属の配下から選んだ道案内の五人がいるという話だった。


 今回の霊獣降臨と騎士団長バレスの行方不明は、帝国軍の内部でも極秘事項。

 皇子ロキはまだ表立って軍を動かせず、オレは道案内の騎士だけを借りることにしたのだ。


 道案内が控える部屋の前にたどり着く。


「こちらです……うっ……」


 その時であった。

 部屋の扉を開けた案内の兵士が、苦悶(くもん)の声をあげる。


 それと当時に頭部に何かの衝撃を受けて、気絶してその場に倒れ込む。


「ウルドのヤマト……妾(わらわ)は待ちくたびれたぞ」


 屈強な兵士を昏倒(こんとう)させたのは、一人の少女であった。

 口調と状況から推測するに、オレたちが来る情報を得て室内で待機していたのであろう。


(こいつ……道案内の騎士たちも襲撃していたのか……)


 室内には真紅(クリムゾン)騎士団の団章を付けた五人の騎士たちが、気絶して床にのびていた。

 この少女が腕利きの騎士たちを、抵抗させる間もなく気絶させたのだ。


「だらしがない奴らじゃ。仕方がないので妾(わらわ)が代わりに案内するぞ、ヤマトよ」


 その少女…………赤髪の美しい乙女騎士(ヴァルキリー・ナイト)シルドリアは、オレに向かって小悪魔な笑みをうかべてくる。

 

 こうして予定外で危険な少女に、オレは目的地までの道案内を頼むことになった。

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