第104話:大聖堂への道しるべ
オレたちは聖都にある大聖堂にたどり着いた。
「ここが大聖堂か。かなり大きいな」
目の前にそびえる白銀の大聖堂に、思わず声がもれる。中世ヨーロッパの建造物とは比べものにならない、見事な建築様式であった。
「これは大陸でも最大の建造物だといわれている」
近衛騎士として博学でもあるリーンハルトが、大聖堂に関する情報を教えてくれる。
何でも古代の超帝国時代の建造物を、大聖堂は改修して使っているという。そう言われてみると建物の随所には、見たこともない不思議な細工で飾られている。
「ロマヌスは好かん。だが、この大聖堂はたしたものじゃ」
シルドリアも感心しながら大聖堂を褒める。ライバル国の皇女である彼女から見ても、ここだけは感心するのであろう。
それほどまでに白銀の大聖堂の存在感は別格であった。
「ところでヤマトよ。ここまで来て、どうするつもりじゃ」
周囲を見渡しながらシルドリアは、不思議そうに訪ねてくる。
なぜならオレたちは観光をするために、はるばる聖都に来た訳ではない。聖女に面会するために遠路はるばる訪れたのである。
「ああ、もちろんだ」
聖女に会うと言い出したのは自分である。周囲を観察し終えたオレは、大聖堂の脇へと進んでいく。
「おい、ヤマト! そっちは裏門だぞ」
「気にするな。ちょうどいいヤツがいた」
リーンハルトの静止する声が聞こえてくる。だがオレは構わず小さな門へと向かう。他の巡礼門とは違い、そこだけは厳重な警備が敷かれている。
「止まりなさい。ここは巡礼者の対入りは禁止されています」
門の直前で大柄な門番が道を塞いでくる。その口調は穏やかであるが、重武装の巨漢からはかなりの圧力を感じられる。
それだけでこの門が他とは違うことが伺える。
「そうか。そこの男に聞きたいことがあるだけだ」
だがオレは大柄の門番を無視して、その背後にいた細身の青年に声をかける。この者を見かけたからこそ、オレはこちらの裏門にやってきた。
「はい……何でしょうか?」
青年は首を傾げながら訪ねてくる。
鎧を着た大柄の騎士とは違い、みすぼらしい青年。パッと見は大聖堂の小間使いかに見える。
「聖女に会いたい。どうすればいい?」
青年に向かってオレはストレートに尋ねる。今回の旅の目的である人物に、直に会うための方法を。出来れば早めに面会したと伝える。
「おい、キサマ。聖女さまには一般市民はお会いできない」
先に反応したのは大柄の騎士であった。先ほどよりも荒い口調で忠告してくる。
勘違いしている巡礼者を追い払う険しい顔つきであった。
「それにコイツはただの見習いだぞ。はっはっは……」
そして話しかけた青年は何の権限もない下級人だと、騎士は笑い飛ばす。明らかに見習いの青年を見下している。
「お前には聞いていない。この中で一番“デキる”その男に聞いている」
だが大柄の騎士を無視して、青年に再度聞く。この者なら直接会う方法を知っていると思ったのである。
「おい、キサマ! 先ほどから無礼な! それに聖女さまを呼び捨てとは、どういうつもりだ!」
またもや反応したのは大柄の騎士であった。
顔を真っ赤にして、無礼なオレに怒鳴ってくる。先ほどの口調とは一変しており、かなり感情的である。
それだけで聖女の存在が特別なことが伺える。
「言葉使いは慣れていない。聖女に会うにはどうすればいい?」
「……申し訳ありませんが、私も含めて聖女さまに会うことは叶いません」
少し間を置き青年が語ってくる。
一般市民はもちろん、大貴族ですら聖女には面会はできないと。大いなる存在である聖女様は、大聖堂の最深部で世界の平和を祈っていると説明する。
「おい、キサマ! これ以上言うなら不敬罪で……」
「そうか。それなら分かった邪魔をしたな」
今にも剣を抜きそうな騎士を無視して、オレはその場を後にする。顔を真っ赤にして激高しているが、相手にしないでおく。
なぜなら聞きたい情報は得られて、この場にいる意味はもうなかった。
(『大聖堂の奥で世界の平和を祈っている』ということは、聖女がこの奥に実在するということか……)
偉大なる聖職者とは時に実在しない場合もある。
だが聖女の場合は、この大聖堂の最深部に実在することは確認できた。
(あとはラックの帰還を待つか……)
聖都に入ってから姿を消した自称遊び人は、たしかに聖女に会うツテがあると口にしていた。その自信や理由もオレには分からない。
だが、これまでラックと接してき直感で、オレは信じていた。あの遊び人はこの聖都が故郷であり、何らかの理由があって来たくなかったことを。
そんなことを考えながら、オレは大聖堂を後にする。
「ヤマトよ。先ほどの者は本当に、聖女との繋がりがあったのか?」
シルドリアが尋ねてくる。どうみても平凡な見習いの青年に、オレが固執していたことを不思議がっていた。
「分からない。だが、あの者は“かなりデキる”感じだった」
先ほどオレは気配を感じ取っていた。あの青年は大柄の騎士よりも遥かに覇気を放っている。それも桁違いなほどに。
何らかの理由があり武の気配を消していたが、凄腕であることは間違いない。
「私にも普通の者に見えたが……」
リーンハルトも不思議そうにしている。
腕利きであるこの騎士やシルドリアに、実力を察知させなかった青年。興味はあるが、あの対応だと深入りする必要はないであろう。
「情報収集はできた。あとはラックから連絡がくるのを待とう」
聖都入りした時に姿をくらました自称遊び人。
その者の言葉を信じて、オレたちは皆のところに戻るのであった。
◇
そして、それから二日が経つ。
「ダンナ、お待たせしたっす……」
消えていたラックが戻ってきた。
相変わらず軽い感じではあるが、その瞳の奥は少しだけ重い。
「聖女さまに会うために、先にダンナに会って欲しい人がいるっす……」
大聖堂の最深部にいる聖女には、滅多なことでは面会はできない。少なくともロマヌス教の上級聖職者や国王クラス、それに強大な権力を有している人物だけ。
ラックはそのコネを見つけてきてくれたのである。
「ああ、いいぞ。ところで誰に会いにいくのだ?」
神妙な顔のラックに尋ねる。
仲介役が誰か知らないが、事前に情報を仕入れるに越したことはない。特に今回は細心の注意を払う必要がある。
「その人は……この大陸で一番偏屈で、一番強い“力”を持っている人っす……」
軽快なラックが珍しく言葉を濁していた。その権力者に緊張しているのではなく、本当に嫌そうな表情である。
「これから会いに行くのは……オレっちの……“親父”っす……」
「なんだと……」
聖女への仲介役はまさかの人物。
こうしてオレたちは自称遊び人ラックの、実父に会いに行くのであった。




