プロローグ編011/EHIMES(エヒメズ)メモリー1
今より10年近く前・・・
「やぁ、【笑姫ちゃん】。
今日も来たのかい?」
人の良さそうな男性が、【井上 笑媛】に声をかける。
もっともこの当時は彼女は、【井上 笑媛】では無く、【大槻 笑姫】と言う名前で生活していた。
【井上】の姓なのは相手の男性、【井上 祥吉】の方だ。
当時、【笑姫】は7才、【祥吉】は、30才だった。
この頃には、【笑姫】は【子役】として頭角を現している。
【祥吉】は売れない【発明家】だった。
正確には売れないではない。
売れば、飛ぶように売れて財を築く事などたやすい物が多数あった。
では何故、売れないのか?
それは、折角のアイディアを他者に盗まれているからである。
折角、発明しても、それを他者に説明したら、その他者が、勝手に特許を取り、自分の権利を主張して奪うのだ。
そのため、発明者でありながら、【祥吉】は、それを売ることが出来ない。
引っ込めざるを得ない状況となる。
そのため、必要のない大したことのない様に見える物しか売れないのだ。
それを40数回(人)ほど繰り返している。
それを知った【笑姫】は、
「ホント、馬鹿ね、おじさん。
何回騙されれば気が済むの?
人が良いにも程があるわ」
と馬鹿にしたが、【祥吉】は、
「いや・・・
良いんだよ。
僕はお金儲けをしようと思って作っている訳じゃないから。
僕が考えた物で人が助けられたり、喜んでもらえればそれで十分、僕は嬉しいよ。
みんなが使ってもらえるならまた作ろうと思える糧になるんだ」
と答えた。
いらついた【笑姫】は、
「わからないの?
おじさんはカモにされてるんだよ?
何かで情報が伝わっていて、ここに来ればアイディアが盗り放題だって噂されている。
おじさんが何も言わないから、いい気になって、悪い奴らがいっぱい来る。
それがわからないの?」
と怒った。
【祥吉】は、
「悪い奴らか・・・
おじさんはね・・・
商売が上手じゃないから、上手な人に売って貰えればそれで良いんだよ。
みんなが喜ぶ。
それで良いと思うけど?」
と言った。
「良くない。
それで私腹を肥やす奴が、他で悪いことしていると思わないの?
おじさんはそれに荷担してるんだよ」
「あ、それは、気付かなかった。
ごめんね。
そう言う事もあるかも知れないね。
じゃあ、どうすれば良いかな?」
「決まっているわ。
アイディアを説明しない事よ。
アイディアはおじさんが大切に取っておきなさい。
然るべき時が来たら私が発表の手助けをしてあげるわ。
こう見えて芸能界を生きているんだもの。
それくらいのつてはあるわ」
「そうか。
ありがとう」
と言う話になった。
翌日、【笑姫】がまた遊びに来ると、【祥吉】の目には青あざが出来ていた。
【笑姫】が、
「どうしたの、おじさん?」
と聞くと、【祥吉】は、
「あ、これ?
いやぁ~、ちょっとね・・・」
と言葉を濁した。
演技派だった【笑姫】はそれだけで全てを察した。
【祥吉】は、【笑姫】の助言に従って、アイディアの説明をやめたのだ。
それで、アイディアを盗もうとやって来た奴が、
「折角、こんなへんぴな所にまで足を運んだのに無駄骨になったわ。
この落とし前、どうしてくれるんだ?」
と因縁をふっかけ、彼を殴ったのだ。
【笑姫】はそれを感じて涙が溢れた。
ポロポロぽろぽろ、涙が止まらない。
【祥吉】は、
「どうしたの?
ごめんね。
おじさんが何か悪いことしたんだね?
ごめんね」
と言って慰める。
【笑姫】は、
「違うもん・・・
違うんだもん・・・」
と言って泣きじゃくる。
【笑姫】は悔しくて悔しくてたまらなかった。
何で、こんな良い人が殴られなければならないんだ。
理不尽だ。
神様とやらは何をしているんだ?
こんな良い人が酷い目にあっているのに何もしてくれない。
そして、自分にも助けてあげる事が出来ない。
そう、思うと涙が止まらなかった。
その頃からだろうか?
あぁ、自分はこのおじさんが大好きなんだ。
愛しているんだと自分の心に気付いたのは。
それから、【笑姫】は、【祥吉】の事を、
「おじさん」
と言うのを止めた。
そこで、
「やぁ、【笑姫ちゃん】。
今日も来たのかい?」
に戻る。
【笑姫】は、
「そうよ。
【祥吉さん】は私が守ってあげないと駄目な人だから、私がこうして見回ってあげているのよ。
感謝なさい」
と言った。
【祥吉】は、
「え?
しょ、【祥吉さん】?
・・・そうか、僕は、【おじさん】から【祥吉さん】に昇格したんだね。
ありがとう。
お礼に何かしたいな。
おじさんは、【発明】しか出来ないから、何か面白いものがあったら持っていって良いよ。
【笑姫ちゃん】にあげるよ」
と言った。
【笑姫】は、
「子供扱いしないで。
私はもう、稼いでいるのよ。
それは自分で買うわ。
高く買ってあげるから感謝するのね」
と言った。
【祥吉】は、
「そうかい?
いつもありがとうね。
クッキー食べるかい?
【笑姫ちゃん】の口に合うかわからないけどね」
と笑いかける。
【笑姫】は、
「いただくわ。
そんなの美味しいに決まってるもの」
と答えた。
【笑姫】は、【祥吉】の事が好きで好きでたまらなかった。




