第925話 詠の困惑と叫び
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「コケーッ。力を浪費させても回復。負傷させても回復って、これじゃあきりがありませんわ」
「邪悪竜ファヴニールはなんて迷惑な鬼術を遺したんだ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、赤い髪を二つのお団子状に結えた少女、六辻詠は、全長三メートルの空飛ぶ怪異、蠅王鬼ベルゼブブと、彼女に食われて象と蠅の入り混じった使い魔〝聖職者級人形〟に憑依した六辻剛浚を相手に奮戦していたものの……。
敵からチェックメイトと言わんばかりに追い詰められていた。
「いったい、どうやって戦えばいいんですの?」
「邪悪竜ファヴニール。カムロさんがああも敵視するわけだ」
この苦境に、詠は悲鳴をあげ、桃太もまた恩人である隠遁竜ファフニールの父を悪くは言いたくなかったが、愚痴らずにいられない。
「フェフェフェ。誤解するなよ。昔のドラゴンが作った鬼術が凄いのではない。使いこなせる我らが選ばれた存在なのよ」
「ええ、そこの子供たちと違って、何十年も一緒にやってきたベストコンビだからね」
そんな二人を見下ろす蠅王鬼ベルゼブブと、剛浚はもはや勝ったも同然と胸を張る。
「なにがベストコンビですかっ。……わからない。命と力を半分にして、お互いを回復し合うという理屈は受け入れます。でも、こんなにも言動が残念なおじさまに、自身の生殺与奪を握らせるなんて、蠅王鬼ベルゼブブはいったい何を考えているんですのおおおっ!」
詠は、傍目も気にせず迷いのままに絶叫した。
どれだけ片方に痛撃を与えても、もう片方が健在な限り……全回復されるという鬼術はたまったものではない。
だが、それ以上に蠅王鬼ベルゼブブがかくも貴重な権限を、剛浚なんてトラブルメーカーに与えてしまったことが、彼女にはどうしても理解できなかった。
「やあねえ。それこそが絆というものよ」
「ガキにはわからん大人の味というものよ」
相対する敵二人はいけしゃあしゃあとのたまうものの、これまでの言動を鑑みても、およそ信じられるはずもない。
「あー、なるほど。一緒にしたら恨まれそうだが、この凸凹コンビは、キソの里で奮戦した人公将軍リュウグンと水霊鬼ルサールカに似ているんだよ」
が、負傷して後方に移動したレジスタンスの代表、一葉朱蘭は、そうではなかったらしい。
先ほどまでの戦闘で息絶え絶えなほどに傷ついていたものの、血に濡れた薄灰色の短髪をかきあげて、若き〝鬼勇者〟をたしなめた。
「は、はい? おばさま、それはどういうことですか。そりゃあ、リュウグン将軍は敵ながら漢気もあってルサールカさんに好かれていましたけれど、おじさまはまるで器が違うじゃないですか」
詠は剛浚に父母を殺されたり、自らは幽閉されたり、頼りになる家庭教師の炉谷道子と引き離されたりと、散々な目にあってきたため、剛浚に対しては極めて辛辣だった。
だが、今回ばかりはまだ色恋にうとい詠よりも、朱蘭の目が真実を捉えていた。
「六辻剛浚はどうしようもない小物だからこそ、蠅王鬼ベルゼブブに好かれているんだよ。一蓮托生をも覚悟の上だなんて、よっぽど相性がいいんだねえ。アタシも趣味がいいとは口が裂けても言えないが、ダメな異性を好む男や女だっているものさ」
あとがき
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