第922話 詠の秘策、炸裂!?
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「詠ちゃん、助かった。でもあんなに挑発して大丈夫?」
「コケ! われに秘策ありっ、ですわ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、赤い髪を二つのお団子状に束ねた少女、六辻詠に救われて、九死に一生を得た。彼を蠅の渦から連れ出した彼女は自信満々で豊かな胸を震わせる。
「コケッ。ヒントは、わたしの得意分野ですわ」
「そうか。集団戦は詠さんの一八番だ。一気に倒せなくても、蠅王鬼ベルゼブブと、その使い魔に憑りついた六辻剛浚を削っていけば、互いを対象とした時間巻き戻しの治療も、少しずつ効果を減らせるかも知れない」
桃太は首肯して手を叩くものの――
「執事、いいえ――桃太さん。残念ですが、役名宣言ができない今は、光の刃で長距離を切り裂く〝十指光閃〟や、広範囲を爆撃する〝光刃三千〟といった切り札は使えないみたいです」
――残念ながら、そう甘くはないようだ。
全長三メートルの空飛ぶ怪異、蠅王鬼ベルゼブブが張った結界〝腐敗領域ソドム〟は、元勇者パーティ〝J・Y・O〟代表にして現レジスタンスまとめ役の女傑、一葉朱蘭が亀裂を入れたものの、いまだ健在。〝鬼の力〟は制限されたままなのだ。
「ですが、朱蘭おばさまのおかげで得意の速度は戻りました。そして、執事さんも新技の衝撃刃のスケートで疾走できる。ここに勝機があるんです。――象と蠅の混じった変な使い魔〝聖職者級人形〟に憑りついて強くなったとしても、おじさまはあの通りのお調子者でかつ短気。本当のことを言うだけで、当たらない大技を連発し、消耗してくれるはずで
桃太これまでの剛浚の戦い方を鑑みるに、詠の推理はなるほど道理が通っているだろう。
「そして、〝互いを対象に時間を巻き戻す〟だかなんだか知りませんが、あんな派手な回復技を使っているんです。〝鬼の力〟の悪影響は避けられません。もう少し粘れば、蠅王鬼ベルゼブブはともかく、おじさまの方は正気を保てないほどに消耗すること疑いなしですわ。名付けてガス欠&ガスタンク自壊狙い作戦。お父様とお母様の仇を討ってみせますわ!」
詠は、両親の仇たる剛浚が相手とあってか、いつになくやる気を出しているようだ。
桃太は足を震わせる彼女を励ますようにそっと抱きしめた後、親指を立てる。
「よし、やろうか。ダンスの時間だっ」
「コ、コケッ。……執事さんとのペアスケーティングを見せてあげますわ!」
この時二人は需要な見落としをしていたのだが、激戦の只中で気付くのは困難だったろう。
「えーい、うろちょろと邪魔だ。多頭竜鞭打ち刑!」
剛浚は案の定、直火にかけたヤカンや電気ケトルに匹敵する速度で逆上し、大量の蠅で構成された触腕を機関砲のごとく叩きつけてきた。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へってね」
「たとえ地獄みたいな景色の中でも、素敵な体験ですわっ」
剛浚の猛攻に対し、桃太はスケートボード状態の衝撃刃を器用に乗り回しながら、フィギュアスケートのペアリフトよろしく、詠をもちあげたり、二人で回転ジャンプを決めたりと、見事に回避してのける。
「よし、いける。やれるぞ!」
「このまま二人でケーキ入刀ですわあ」
あとがき
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