第752話 芸能人の休日~ニナッタ・カナッタ~
人気姉妹歌手の休日の様子です。
~ニナッタ視点~
さて、ラストだ!
「「私達は~ 全ての困難を~ の~り~こ~え~る~~♪」」
「「超える~ 超える~ 乗り越える~ 全ての困難、乗り越える~~~♪」」
ワアアアアアアアアアアアアア!(大歓声)
「「みんな~~ 今日はどうもありがとう~~!」」
ワアアアアアアアアアアアアア!(大歓声)
歌い終わり、歓声が響き渡る。そして、カナッタ(妹)とともに、観客に深々とお辞儀をする。ライブをやり切った直後の達成感は本当に最高だ。
でも、この瞬間から、明日の休みを思い浮かべるのはファンのみんなには内緒よ。歌う時は歌に集中するけど、休みも大切だからね。歌は確かに好きだけど、歌だけが人生の全てってわけじゃない。
さて、乗り越えたぞ(笑)
ちなみに今の歌は元吟遊詩人のハークレット部長が作曲し、恐れ多くも聖王陛下が作詞されたものだ。歌うと勇気がみなぎってくる。お二人とも忙しいはずだけど、よくそんな時間があると感心しちゃうよ。さ~て、うちに帰るぞ。
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翌日、『芸能の館』の自室で、のんびり過ごす。今日は休日なので、家でダラダラ過ごす予定だ。いやあ、大陸を回って五日連続ライブ明けだから、まったりするぞおお!
「ぷっ、今の姉さんの恰好、ファンが見たら、幻滅しちゃうよ~」
「はぁ?」
昼近くになって起きたが、同部屋の妹からツッコミが入る。いやさ、確かに寝起きで髪ボサボサだし、ふやけた表情だろうけど、少し前に起きたアンタもその時は同じだったでしょ。と言い返すのも面倒なので、とにかく、顔を洗って着替えよう。まだ頭は半分寝てる状態だけど、今日はそれでいいのだ。
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「「頂きます!」」
食堂で昼食(遅い朝食)を取る。
『芸能の館』はロナンダル王国の専属芸能人達が暮らす共同宿舎だが、単なる宿舎ではなく、レッスン場、会議室、休憩室、食堂、浴場、売店等、一通り揃っており、仕事の無い日はずっとここに居て、まったく困る事は無い。休憩室のリクライニングチェアでだらんと座るのは楽しみの一つだ。
黙っていても、ご飯が用意されてるし、何もしなくても、お風呂が沸いている。汚れた服は出して置いたら、綺麗になって返ってくる。まるで天国のような環境だ。面倒なスケジュール調整も娯楽広報部のマネージャーがやってくれるから、余計なエネルギーも使わないしね。
こういう仕事をしてるから、熱狂的なファンが押しかけて来ることだってあるけど、防犯体制も完璧だ。建物は頑丈だし、周囲を衛兵が巡回している。そうそう、以前は休憩室で受信機を見ていたが、芸歴を積んだお陰か、自室に受信機を設置してもらったよ。
忙しい日はほとんど見てなかったけど、今日は午後からは自室に引き籠って、
カナッタと受信機でも見ようかな。えへへ。
「姉さん、何、考えてるの?」
「んん? ああ、ここの暮らしは便利ってことよ。それより、カナッタ、今日は、一日、部屋にいるんでしょ?」
「うん、そうね」
「久々の休日、目一杯、休むよ!」(真顔)
「ぷっ、目一杯、休むって、あはは」
「歌う時は歌う! 休む時は休むの!」
「いや、そうだけど、くくく」
ん? 何か変なこと、言ったかな? 変な妹だ。
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~カナッタ視点~
昼食後、部屋に戻り、まったりと受信機を見る。この時間はあまり面白い番組はやっていないな。チャンネルを変えよう。そう言えば、このリモコンって、遠くから操作できて便利だけど、ある日起きたら、説明書と一緒に現れていたんだよね。聖王陛下の御力とのことだけど、まったく不思議だ。
※補足※ この世界で受信機は聖王陛下による魔法アイテムと認識されており、多少、不思議な事があっても、受け入れる土壌はありました。
ピッ、ピッ(リモコンのボタンを押す)
「あっ、私達が映ってる!」
姉が目ざとく見つける。
「これは三日目のライブだね。再放送かな? 確か、ヒルロア王国の野外ステージ」
「そうそう、姉さんが冒頭の挨拶でかんだ奴だ」
「何言ってるの! あれは狙ってやったの! 掴みよ、掴み!」
「ハイ、ハイ、そういう事にしておきましょ」
しかし、いつも思う事だけど、普段の私達と歌ってる時の私達はまるで別人のようだ。どちらも間違いなく「私達」のはずなんだけど、何だろうね。この違い?
ピッ
姉がチャンネルを変える。
「今日はオフだから、違うの見よう。ステージを見ると、ついつい興奮しちゃうよ」
確かに姉の言う通りだ。
「じゃあ、『動物さんはお友達』でも見る?」
「うん、それでいいよ」
牧場の映像が流れる。
「あっ、お馬さんだ。いいね。こういうの、まったりして」
姉の表情が一気に緩む。たぶん、そう言う私も同じなんだろうな。
取り敢えず、このチャンネルにしておこう。
野山の緑、自然豊かな景観が目に入る。
「いいね、こういう所……」
「そうね……」
普段、ライプで熱唱する私達、
そこは人、人、人だらけだ。まさに人の波。
だから、休日は、なるべく引き籠り、
自然に憧れたりする。
「カナッタ」
「何、姉さん?」
「今度の休み、実家に顔を出そうか?」
言われてみれば、半年ほど帰っていないな……
「うん、いいよ」
私たちの故郷、カイス領はヨウス領の東にある自然豊かな場所だ。自然を見ると、どうしても思い出してしまう。姉もきっと同じ気持ちなんだろう。
でも、帰るにはちょっとばかり
気を張る必要があるんだよね、たはは……
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――――――
次の休日、故郷のカイス領に戻る。自宅の前まで来ると……
「「「ニナッタ・カナッタ姉妹だ!!」」」
「「「故郷の誇り!!」」」
「「「凄い! 凄い! 本物だ!」」」
「「「握手して!!」」」
たはは……(やっぱり)
どこから情報が洩れるのか、分からないけど、
大きな帽子、大きな伊達メガネの隠れ芸能人をしても効果が無い。
ひょっとして……
あっ、幼馴染の親友がいる。ちょっと聞いてみよう。
「あのさ、どうして私達が戻るの分かったの?」(小声)
「えっ? そんなのアンタのお父さんから聞いたに決まってんじゃん」
「あぁ」(そういう事か……)
「それに、そんな恰好したって、バレバレだよ~」
「ええ、そう?」
「女二人でそういう恰好したら、かえって目立つって」
う~ん、これはやられた。
とにかく、来てくれた人達に握手しよう。
ちょっぴり仕事モードを入れなくちゃ。
帽子と眼鏡を取って、ニッコリ(つくり笑顔)
「いつも応援ありがとうね!」
でも、休日に芸能人モードするのって、ちょっとシンドイのよね……
――――
――――――
~ニナッタ視点~
「もう、お父さん、口外しないでよ~」
「何で? いいだろ! 自慢の娘達だ!」
妹が父にクレームを入れる。前から薄々そんな気はしてたが、やっぱりという感じ。その様子を、お母さんと私がクスクスと笑いながら見つめる。
お母さんが私に声をかける。
「泊まれるの?」
「うん、一泊ね」
「そう、良かった。今晩は料理、張り切っちゃうわよ」
「わあ~い、お母さんの料理、楽しみ~」
私達、芸能人は忙しい身だが、それでも五日働いて、二日休めるのは有難い。二日休めれば、こうして一泊することもできる。
私達は成人(十五才)してすぐ、芸能人になったので、これが普通なのかと思っていたが、人気番組『闇を暴く!』シリーズの『ブラック事業の闇を暴く!』を見て、世の中には休みを与えない仕事場もあると知って、驚いたものだ。
あれを見て、ブラック事業の悪辣さを知り、いかに自分達が恵まれているか知ったよ。それに嫌な仕事を嫌々するシンドさもね。私達は歌という大好きなことを仕事にできてるんだから、本当に幸せだ。
◇ ◇ ◇
夕飯時、お母さんの手作り料理を食べる。
「「おいしい!」」
「まあ、それは良かったわ」
思わず、姉妹でハモッてしまう。
「今度はいつ帰ってくるの?」
「ええと、どうしようかな……」
お母さんの質問に即答できないのがもどかしい。本当は毎週でも帰りたいぐらいだが、小さい村で私達が帰るのは迷惑になっているんじゃないだろうか? そんな気がする。
それを察してか、お母さんが答える。
「私達は大丈夫よ。いつ帰ってきても」
「そうなの?」
するとお父さんも続く。
「当たり前だろ! 何なら、一緒に住んでもいいぐらいだぞ」
一緒に住む……
芸能人になり、姉妹二人、親元を離れたが、
その気持ちが無いと言ったら嘘になる。
何気なく、天井を見上げると、建物の老朽化が目に付く。
これまで好きにやってきたし、そろそろ親孝行したいかな。
※補足(カイス領の位置)※
【西】ヨウス領 カイス領 キリク領 王都【東】
ヨウス領はイレーネ公爵領、カイス領とキリク領はミア公爵領、王都は王領です。
王都からだと、キリク領は近郊、カイス領は郊外、ヨウス領は辺境といった距離感です。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




