第751話 平民富裕層~芸能人~
芸能人が豊かになったのはこの世界の税の仕組みも関係してるようです。
メラルから平民富裕層の話を聞いて、いろいろ感慨深いものがある。ロナンダル王国を始め、この大陸では、貴族、平民の身分差があったから、その差が埋まればいいと思い、様々な政策を実施してきたが、僕の政策はズバリ身分制度の形骸化だった。
これは身分制度を残しつつも、実質的な差別を無くすというものだが、平民の待遇改善を図りつつ、貴族の体裁・格式も守るという折衷案のようなものだ。貴族に名を平民に実を取らせる政策という事だね。
どんなに身分が高くても、財力は無視できない。それで商人の立場が強くなった。どんなに身分が高くても、武力は無視できない。それで軍人や冒険者の立場が強くなった。
そのため、昔から平民が「成功したい」「世に出たい」と思った時、頭が良く、商才がある者は商人を目指し、体力に自信がある者は軍人や冒険者を目指したのだ。
商人、軍人、冒険者、これは昔から平民が立身出世する定番だった。そして彼らの中には王国への貢献を認められ、貴族になった者もいる。御多分に漏れず、僕もそのルートの恩恵を受けたのだが、本当に運が良かった。
そう、僕は運が良かった。(神様のお陰だ)
それは僕がスキルを持って、この世界に来たこともあるが、忘れてはならないのは、それを活かせる環境があったことだ。どんなに能力、スキルがあっても、それを活かせる環境が無ければ、宝の持ち腐れになってしまう。
それで、僕はこの世界への恩返しとして、能力を伸ばせる環境、それを活かせる環境づくりに力を入れて来た。魔法学園、放送学園、魔法研究所、技術研究所、連邦アカデミー等の設置により、既に多くの人材を輩出している。その他にも学校はたくさんつくった。
そんな中、異色なのが王国専属芸能人だろう。
彼らは人を楽しませ、笑わせ、涙させ、夢見心地にさせ、感動させる芸の能力を持つ。この世界では、娯楽が少なかったため、これを広めたら、人々の癒し、潤い、活力、気分転換になるだろうと思ったが、受信機と連邦放送局の相乗効果もあり、その目論見は成功したと言っていいだろう。
今では多くの家庭で気軽に受信機を設置し、気楽に芸能人が登場する番組を視聴することができる。受信機は金貨一枚(十万円相当)するが、僕の広範囲大加工魔法により、適時、物理的にも機能的にも最新状態に改めているので、長い目で見たら、決して高い買い物じゃないと思う。
当初はもっと安価にしようと考えていたが、僕の手間を考えたら、今の値段で丁度いいかな。と思い、価格据え置きにしてるのだ。自分で言うのもなんだが、当初の価格、金貨十枚(百万円相当)でも安いと思う。おっと、話を戻そう。
王国専属芸能人はその名の通り、ロナンダル王国に所属(専属)する。具体的には内務省、娯楽広報部の管轄に入り、そのマネージメントの元、国内外で活躍するのだ。現在は国外の活動の方が多いので、王国専属を付けず、単に「芸能人」という呼称が使われることが多い。
そして芸能人は俸給として、固定給と成果給を毎月、王国から受け取る形になるが、固定分だけでも生活可能な額(世間の平均額)に設定してある。さらに『芸能の館』で、衣食住の提供があるし、移動も転移扉や飛行船を使っているので、負担軽減になってることだろう。
俸給で特筆すべきは成果給だ。
省庁の役人等は固定給だけだが、芸能人には活動成果に応じ、上乗せをする。実はこれが結構、いい金額なのだ。まあ、そうなるように設定したのは僕なんだ。
彼らの俸給の源泉は出演料だが、大部分が彼らに渡るようにしている。人々に夢を与える仕事に対し、夢を持てる待遇で報いたかったのだ。まあ、僕はピンハネ、搾取が大嫌いだし、頑張った者が頑張った分だけもらうべきいう考えが根底にあるからね。
参考までにお金の流れはこんな感じだ。
王国、ギルフォード商会等
↓(協賛金、広告料)
連邦放送局
↓(番組制作費)
娯楽広報部
↓(俸給)
芸能人
前世(日本)の感覚だと、放送局、番組制作会社、芸能人は浮ついたイメージがあるかもしれないが、ここでは大分違う。と言うのも、連邦放送局も、娯楽広報部も王国の内務省の一組織であり、省庁(役人)がしっかり入っているからだ。
芸能人にしたって、省庁の管理がしっかり行き届いており、前世(日本)でいったら、準公務員みたいなものだ。制度設計した僕が言うのもなんだが、安定した待遇の上に、夢の俸給もあり、できうる限り最高の環境を用意したと思う。
芸能人は庶民が憧れる夢の存在だし、
前世のような不道徳、スキャンダラスな面は一切ない。
そうした背景もあり、受信機を見て、芸能人を目指す若者が増えてきたが、最近の芸能実技試験は相当、狭き門になっていると聞く。倍率だけでいったら、王立学園どころか、魔法学園すら軽く上回っており、最近では桁違いになっているらしい。この世界で数百倍だから、大変な競争率だ。
芸能人は基本、学校を卒業(見込み含む)した成人(十五才以上)を対象としているが、例外として子役を認めている。但し子役の場合、学校の部活(演劇部等)を通しての参加に限り、学生としての本分(勉強)を全うするのが条件だ。どこかの世界のように、学校生活をおろそかにして、芸能活動に偏ることは許されない。
王国専属芸能人の三本柱と言えば、
歌手のニナッタ・カナッタ姉妹
役者のマーミヤ
踊り子ルシャラ
だが、最近では、三人歌手のリルランを入れて、四本柱と言う場合もあるようだし、他の実力者もどんどん上がってきている。他の実力者と言えば、語り部のギロン男爵も結構、出てるよな。ドネルという役者も見かけるようになった。
平民出身者の成功は純粋に嬉しいし、応援を続けたい。なぜなら、彼らが受信機で活躍する姿を見れば、多くの庶民(平民)も勇気づけられ元気になるからだ。
メラル君の提案を受けて、ヨウス領に富裕層向け住宅をつくることになったが、彼らが快適な生活環境を得られるよう、しっかりサポートしなくてはな。
――――
――――――
「イレーネ、ちょっといいかい?」
「何ですか、アレス様?」
ギースの聖王城、晩餐後、彼女を呼び止め、応接間への移動を促す。晩餐にはメリッサ、テネシアもいるし、この日はミアもいた。
四人の妃勢ぞろいの中、一人だけ呼ぶのも気まずいと思ったんで、
みんなにも声をかけよう。別に隠すような話でもないしね。
「面白い話じゃないけど、みんなも来るかい?」
メリッサ「じゃあ、お言葉に甘えて」
テネシア「何だい?」
ミア「何でしょうね」
食後のお話ということで、皆、興味津々な顔で付いてきたね。
念のため、もう一度、予防線を張っておこう。
「言っとくけど、面白い話じゃないからね。期待しないでくれよ」
「「「は~い」」」
◇ ◇ ◇
応接間のソファに皆で座る。さて、話を始めるとしよう。
「イレーネ、実は君の領地であるヨウス領で、新たに住宅地を開発することになったんだ」
「住宅地の開発……場所はどのあたりですか?」
サラっと話が進んでいるが、領地内の開発は領主の承認が必要であり、本来は先ず、「領地内の開発をしてもいいですか?」で始まるべきなんだろうが、そこをスキップしてるのが我ながら凄い。それに対し、さも当然のように、開発地の場所を聞いてくるイレーネもなかなかの強者だな。ふふふ。
「場所は現在の人里近くだね。余った土地を開発する」
「人里の開発でしたら、これまでもポツポツされてきましたけど、わざわざお話するという事はそれなりの規模なんですね?」
「そうだね。取り敢えず、百世帯ぐらいかな?」
「なるほど、まあまあ、大きな規模ですねぇ」
「今回は庶民向けではなく、富裕層向けの住宅なんだ」
「富裕層向け?」
「現在、ミアのキリク領で開発してるのは庶民向けだけど、それとは一線を画する感じだね」
そう言えば、キリク領の開発の時もミアとこんな話をしたっけ。その時も晩餐の後で、こうして妃全員揃っていたんだ。巡り合わせって面白いものだ。
「富裕層ですか……貴族ですか?」
そうか、単に富裕層と言えば、貴族をイメージするよな。
「今回の富裕層は平民をターゲットにしている。平民富裕層だ」
「平民富裕層?」
「平民富裕層と言っても漠然とするか。具体的に言えば、芸能人、それも有名芸能人だ」
「まぁ、有名芸能人がヨウス領に来るのですか?」
「まだ彼らには話していないが、準備だけはどんどん進めているんだ」
万一、彼らが難色を示しても、あのあたりは王族や貴族の山荘があるし、
富裕層の需要は必ずあると踏んでいる。博打は打っていない。
「建築はアレス様のスキルを使うんですか?」
「う~ん、いや、今回は現実的生産でいくよ。但し、設備関係は魔法アイテムを導入するけどな」
あそこは山の麓のため、材料の木材は簡単に入手できるし、地元の産業(林業)活性化にもつながる。王都から離れているが、商会の店舗が来てるから、日常品は容易に手に入るし、近くに療養所があるから、有事(病気、怪我)の際も心配無い。ふふふ、いい場所だ。何たって僕が元領主だったんだからね。
すると、テネシアが口を開く。
「芸能人をヨウス領に呼ぶのかぁ。距離があるけど、転移かい?」
「そうだな。『転移扉』で『芸能の館』と繋ぐ予定だ」
「転移扉か、あれは一般人には超絶便利だろうな」
「まあ、そうだね」
転移扉は割とあちこち使うようになったが、新興住宅地用では初めてかな? いや、『竜人の館』『エルフの館』『ドワーフの館』に設置してるから、人間用の住宅地としては初めてということか……
そのうち、連邦環状道路の山越えバイパス用に転移扉の大型版である『転移門』を設置する予定だから、人間達にも転移アイテムに慣れてもらわないとな。連邦関連施設等で『転移扉』を使う場面も増えてきたが、まだまだ一般人は慣れていないからな。
「万一、まったく売れなかったら、どうされるんですか?」
メリッサがちょっと悪戯っぽく聞いてくる。
分かってて聞いてるな。
「そんな事はないだろうけど、万一、そうなったら、僕が全部引き取るよ」
自分で言っといてアレだが、本当に難なくこれができてしまう。だからこそ、僕は大胆な計画を実行に移すことができるのだ。何なら最初からそうしてもいいぐらいだが、そうしたら、関係各所の経験が積めなくなってしまうからね。一番大切なことは皆が必要な経験を積み、成長していくこと。そして、その様子を見て幸せな気分になれば、それ以上の対価は要らないのだ。
「キリク領の住宅地は順調に入居が進んでるようですね」
やはり、ミアもちゃんと確認してるな。領主だから当然か。
「あそこは王都から近いし、いい場所だと思うよ」
「キリク領の移動は馬車ですか?」
「あの距離なら馬車でいけるだろう。朝昼夕の定期運搬便を用意するつもりだ」
イレーネが口を開く。
「領地に人が増えるのはいいことですね」
「まったくその通りだな。人が増えれば、そこで働いたり、そこで物を買ったするから、経済が回る。しいて言えば、治安の問題ぐらいだろうが、富裕層は基本的に上客であり、素行はいいから、そのあたりは大丈夫だろう。むしろ彼らを警備する必要があると思うんだ」
「分かりました。新しい住宅ができましたら、領兵に巡回させましょう」
「おお、頼むよ」
普通なら、たくさんの手続きが必要なんだろうが、家族会議でできてしまうのがギルフォード流だね。根回し、準備はどんどん進んでいるが、肝心の芸能人にはまだアクションしていない。本来なら、住宅事業課の仕事だろうが、僕が見たところ、ベルガット課長では少し荷が重そうだな。ちょっとお節介するかな。お節介の虫が疼きだしたぞ。ふふふ。
今回、ヨウス領の領主であるイレーネの許可をもらい、住宅地開発をするわけだが、住む者は土地を使用できるかわりに領民として一定の納税をする必要がある。農民の場合は広大な土地を使用するため、農作物の一定割合を納税(物納)し、商人は場所代として売り上げの一定額を納税(金納)する。この二つが領主の主な収入源だ。
農民、商人以外の領民(持ち家)はその土地で収入を生み出しているわけでないので、基本、納税は土地使用料だけとなるが、これは前世(日本)の固定資産税を参考に負担を決めた。これができるのも、僕の治世で住民台帳の他、土地台帳を整備したからだ。内務省、行政調査庁の働きは大きいね。
ちなみに年間の土地使用料の額だが、王都の平民的な住宅で金貨一枚(十万円相当)ぐらいかな。だけど、王都以外だとガクンと下がる。王都の隣のキリク領で銀貨五十枚(五万円相当)だね。王都から離れる程、安くなり、辺境のヨウス領だと銀貨五枚(五千円相当)ぐらいだ。
この世界の税の仕組みは「土地」を基準にしている。例えば、関税にしても、実質は他領や他国の土地で商売するための税金なんだよね。現在、連邦加盟国間では非関税が原則だが、自国内の一部のエリアで限定的にそれに類似する税を徴収することは禁じられていない。
例えば、王都郊外にあるサラマンダー広場では定期的にフリーマーケット(物々交換含む)を開催してるが、参加者(販売者)から一定額の費用を徴収している。と言っても銅貨一枚~五枚(百円~五百円相当)だけどね。
※参考※ 第276話(サラマンダー広場)
裏を返せば、「人」に対して税金がかからないので、「土地」に関わらなければ、いくら稼いで、いくら貯めても、納税の義務が生じない。だからこそ、その恩恵にあずかる富裕層は自発的にお金を社会に回す努力をしてほしいんだ。強制はしたくない。あくまで自発的にね。
僕が人に対して徴税しないのには訳がある。それは「人頭税」の問題点を知っているからだ。納税能力に関係なく、生きてるだけで、赤子から高齢者まで、取り立てる恐怖の悪税であり、負担できない貧困層やマイノリティは子供の口減らしと称して、人身売買したり、高齢者の介護放棄に走り、あげく、人種差別、殺人にまで発展した歴史がある。(前世の歴史知識だけどね)
あまりにも問題があり過ぎて、大幅に修正され、収入に対して税を課すようになったが、個々人の収入を把握し、そこから徴税するのは非常に大変であり、煩雑な作業を要する。煩雑になれば、当然、誤魔化しやすくなるが、その対策をしだすと、現在の体制では対応困難だ。
だが、そんな面倒な事をしなくても、現状でうまくいっているので、いじるつもりはまったくない。税の仕組みはシンプルであればあるほどいいのだ。繰り返しになるが、富裕層さえ、お金を回してくれれば、御の字なのだ。
まあ、富裕層向けの教育は必要だろうがね。
富裕層から国が無理やりお金を徴税するやり方は、国の仕事が増えるし、当事者である富裕層も幻滅するだろう。それに、庶民から「稼いだら、国から搾取される」と思われ、夢も希望も、そして労働意欲すら、減退させてしまいかねない。
こうなったら本末転倒だ。所得税ゼロをしっかり堅持しよう。(笑)
そう言えば、前世の会社員時代、給与明細を見たが、訳の分からない費用を差し引かれ、手取り額が減っていて、しばしばため息をついたものだ。あの頃は人並みに物欲もあったんだよな。
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