第515話 南北戦争12(その後)
それぞれの思惑。
~魔王エリシアール視点~
「くそっ、油断したわ!」
我は遠方にある存在でも魔眼により捉えることができるが、どうしても奴(主人公)だけはそれが難しかった。初めの頃は容易に捕捉できたんだが、途中から我の存在に気付いたのか、隠蔽するようになりおったわ。おそらく隠蔽魔法だろう。
奴には前回、煮え湯を飲まされたからな。十分、魔力を蓄えてから、勝負しようと思い、それまで、長距離弾や魔物召喚で様子見の遠方攻撃をしていたんだが、まさか、いきなり閉じ込められるとは……
城の前で存在を感じたと思った瞬間にやられてしまったわ。
ずっと攻撃してこないから、少し油断したが、来た瞬間に
この有様よ。まさか作戦か?
この日のために、ずっと本性を隠していたなら、とんだ食わせ者よ!
だが、最初にこの世界で対決した勇者による封印よりは甘い措置のようだな。確かに中から外に出れないが、城の中は自由に動けるし、わずかではあるが、外のエネルギーを吸収することができる。どうやら奴のつくったこの結界は中から外に出れないかわりに、外から中には入ることができるようだ。つまり外にある憎しみや呪いといった想念を吸収することが可能なのだ。(量は少ないがな)
魔力を増強するには、ちと厳しいが、どうにか生命維持できるぐらいの魔力は吸えるから、甘いわな。今回は魔体が無いので、昔のような吸引力も無いし、そもそも、この大陸では糧となる負の想念が少ないので、中々、エネルギーを溜めることができないのは癪だがな。
「しかし、なんで、こんなに負の想念が少ないのだ?」
「一時的に増えることはあっても、その後、ごっそり減る。なんだ、これは?」
こんなことは、前回、無かった。
我ら魔界の者は生ある存在が出す負の想念が最大の糧だし、魔力を高める源でもある。特に人間の出す殺意は最高だ。憎んで、恨んで、呪って、そして、人を傷つけ、殺そうというドロドロした想念は魔界に通じるエネルギーだ。
我の望みはこの世界を魔界と同じようにすること。
それなら、最初から魔界にずっといればいいと反論があるだろうが、それは違う。魔界には我のような存在が無数におり、常にしのぎを削っておるのだ。「我が魔王」「我こそ魔王」とな。そんなところで魔王となっても意味が無いのだ。
魔王は世界で一人だから、価値がある。
この世界の生ある者が負の想念を強くしていけば、やがて、この世界は魔界化し、最終的には世界そのものが魔界となるのだ。
新たに魔界となった世界で唯一の魔王として、
君臨することこそ、我が望みなのだ。
こんな結界など、我が本気を出せば、破れないでもないが、今は力が足りない。しばらくは大人しいふりをして、その時が来るのを待つとしよう。奴がやったようにな。
しかし、弱いふり、無害なふりをして、ある日、突然、閉じ込めにくる奴がいるとはな。我も見習って、死んだふりでもしておくか。ふふふ。
◇ ◇ ◇
~皇帝キース・サンドラ視点~
自分は現在、肉体を乗っ取られているが、憑依している存在が邪悪なものであり、良からぬことを考えているのはひしひしと伝わってくる。暗く、冷たく、重い感じと言ったらいいか。とにかく不快な想念だ。だから同調しないよう静かにジッとしている状態だ。
しかし、不思議だ……
憑依されてるのに、なぜか冷静な自分がいる。
なぜだろう。一人でないような……
守られているような……
そう言えば、自分がこの世界に召喚されて、いろいろ研究してる時、
大いなる存在に導かれている感覚があったんだ。
途中からその感覚が無くなり、研究も進まなくなってしまったけど、
今、その感覚が強い。
自分は研究が好きで、この世界でも続けてきたけど、本当は武器の研究なんかしたくなかった。そして、流されるまま研究した事を後悔している。今、自分がこういう目にあっているのも、その償いなのかもしれないな……
今後こそは流されないよう行動したいと思う。
◇ ◇ ◇
~魔賢者エルライナ視点~
「ふっ、聖帝にまんまとやられてしまいましたね」
聖帝が帝国内に工作員を多数忍ばせていのは分かっていましたが、あまりに数が多すぎて対応のしようがありませんでした。一方、こちらも同様のことをしようとしましたが、間者はすべて防壁の魔術で防がれ、使い魔もすぐに連絡が取れなくなる有様です。
私は人を操ることができますが、全て解除され、逆にこちらの兵士達をどんどん懐柔させていきましたからね。あれは何の魔術なんでしょうか? 私の想像を超えます。
計算外だったのは魔王様も聖帝を警戒していたということです。過去に大きな因縁があったようですね。私は魔法の深淵を極めたいと願っています。そして、そのために魔界と通じることを課題としていました。
私は人間ですが、強く魔界に魅せられています。きっと魔界から転生してきたんでしょう。
◇ ◇ ◇
~イレーネ視点~
「皇帝城に食料を投下して下さい!」
アレス様の指示で、ワイバーン軍団を引き連れて、皇帝城の周辺を飛行巡回してますが、定期的に上から、食糧を投下しています。結界の中にまだ人がいるようなので、その食料なのですが、本当にアレス様はお優しいことです。敵に食料を普通に差し入れてますからね。
ただアレス様にそれを言うと
「これも自主的にこちらへ鞍替えしてもらう作戦だからね。敵に対する懐柔策だ」
……なんて、悪びれて言いますけど、
本音は餓死を避けたいというのは分かっています。
そのかいあってか、敵意を失くして、少しずつ結界から外へ出る者も現れています。最後は全員、出てこれたらいいんですけどね……
ちなみにエルメス帝国が無くなって、以前いた地域へ少しずつ、人が戻っているようです。多くの人が聖帝国で援助を受けていますので、もうエルメス帝国寄りの者はいなくなりました。以前の搾取、略奪、差別、支配の考えもだいぶ無くなったようです。
このあたりは聖教会の活動も大きな役割を果しているみたいですね。闇を消すには光が必要ですが、エルメス帝国の闇を消すには、光が必要だったのでしょう。最初は少し警戒しましたが、本心から慈善活動してるのが伝わってきましたので、今では仲間のように思っています。アレス様もよく言われますが、「人を判断するには言葉でなく行動」ですね。
そう言えば、このワイバーン軍団、一体どうするんでしょう? 主に帝国への監視や威圧のため、活用してきましたが、帝国が無くなってしまいましたからね……
今度、アレス様に聞いてみましょう。テネシアさんはずっと面倒みそうだけど、いつまでもかかりっきりというわけにはいかないでしょうし。
◇ ◇ ◇
~テネシア視点~
ふぅ~ようやく帝国を滅ぼすことができたよ。本当に長かったな。
主が本気を出せば、とっくに決着がついていたんだろうけど、
こちらから攻撃しない。人を殺さない。寝返った者をみんな助ける。
という凄まじいハンデを背負い込んでの戦いだったから、
これだけ時間がかかったんだ。私だけだったら、とても真似できないね。
最後は魔獣にまで情けをかけて、殺さず優しく対応したから、
やり過ぎな感じもしたが、よく考えたら自分も、それを自然と
受け入れていたんだよな。私とイレーネもまったく殺生してない。
最後のヒュドラ戦だって、ワイバーンとの意思疎通があったと
私は睨んでるね。ワイバーンもヒュドラも知能が高い。
ワイバーンは飛竜、ヒュドラは多頭竜と言われる竜種だから
きっとそうだ。竜種は頭がいい。(私みたいにね。ふふふ)
きっと、ワイバーンから「本気で戦う気は無い」
「殺す気は無い」「悪いようにはならない」みたいな
メッセージを送って、ヒュドラも大人しく帰っていったんだろう。
そう考えたら、ワイバーンは魔獣戦の功労者だ。
可愛い奴らだし、ちゃんとした待遇をして欲しいね。
まあ、主のことだ。
そのあたりのこともちゃんと考えてくれるだろう。
◇ ◇ ◇
~アレス視点~
皇帝城をあっさり、【逆結界】で閉じ込めできたのは望外の喜びと言っていいだろう。これで終戦だ。本当に戦争は非生産的だし、人々の心は荒むし、碌なことがない。時間がかかったが、取り敢えず、無事に終わって、良かった。良かった。
しかし、後から、何で、あんなにあっけなく閉じ込めできたのか分析してみた。あれは向こうがヒュドラを出した直後だったんだよな……
つまり、敵が最大級の攻撃をした直後に、カウンターしたようなものだ。戦闘では攻撃した直後が一番、無防備、無警戒になりやすい。普段の皇帝城だったら、きっと僕の気配を察知して、対策をしただろう。きっとヒュドラを召喚するのに魔力を使い過ぎて、隙が出たんだろうな。
運が良かったが、運も実力のうちだ。本当にそう思うよ。世の中に偶然はあるようで、ありえない。すべて何らかの因果で成り立っている。今回は僕の因果が良かったんだろう。これは素直に喜ぼうと思う。
そう言えば、テネシアとイレーネがワイバーンのことで、心配してるようだな。彼女達が僕の気持ちを分かるように、僕も彼女達の気持ちはよく分かる。せっかく縁あって、この世界に来て、この世界を気に入ってくれた存在だ。悪いようにするつもりは無いよ。
彼らにも何か役目を与えなくてはな……
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