第516話 空軍創設
魔物の再利用と適材適所
テネシアとイレーネから今後のワイバーン軍団の処遇について、相談があったが、帝国が滅んだからと言って、お役御免にするつもりはまったくない。むしろ、その先を見据えて考えていたんだ。
母国であるロナンダル王国では陸軍と海軍を創設しているが、実は空軍はない。この世界ではそれが当たり前だが、一番大きな理由は現実的にも必要性が無かったからだ。連邦各国とは平和的に結びついており、野心的な国もない。それに内政不干渉があり、各国の領内への軍駐留は気を使っているところだ。
連邦海軍と連邦空軍があるが、連邦海軍は普段、沿岸から距離を置いて周遊してるし、沿岸に来るのは燃料補給や休憩ぐらいだ。連邦陸軍は母国の聖王領(ギース領)が拠点であり、各国から要請がない限り、出向くのは控えている。連邦海軍(数千人)と違って、連邦陸軍(数百人)は数も少ないしね。
一方、聖帝国はできて間もなく、まだまだ不安定な面もあるだろう。それに国土が広い。ワイパーン軍団と飛行して分かったが、ここは空から警戒するのが向いている。特に足元のルカレシア地方はほとんどが森林なので、地上では見通しも悪く、足場も悪い。上空からの方が圧倒的に都合がいいのだ。
ワイバーン軍団を正式に空軍に昇格させよう。
善は急げ、早速、会議だ。
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<ルカレシア聖帝国・聖帝城・執務室>
これから御前会議を開く。
出席者は僕、テネシア元帥、イレーネ宰相、
ルザン筆頭内政官、ビイネス財務官、
バハナ大将、ブリント将軍(海軍)、ギラン将軍(陸軍)、
マキシ将軍(陸軍)、そしてイグナス教会代表だ。
会議に神父姿のイグナス教会代表がいるのも慣れてきたが、聖教会が住民自治に果たす役割は大きい。彼らは住民と僕らをつなぐパイプ役にもなっているので、住民の生の声を聞けるのが有難い。以前は工作活動のマキシ将軍が中心だったが、戦争が終わり、聖教会の存在感が増してきた感じだ。聖教会は食事や住まいの手配までしてるから、評判もいい。
さて、始めるとしよう。
僕「今回は空軍の創設についてだ」
バハナ「空軍ですか……、もしやワイバーン軍団でしょうか?」
僕「うん、その通りだ。あれを空軍に昇格させたいと思う」
バナナ「ううむ……」
バハナ将軍が熟考に入ったな。あはは。普通に考えたら魔獣を軍隊に入れるなんて、突拍子もないことだろう。そもそも、この世界では「空軍」という概念も一般的でないしね。でも、彼も僕と付き合い出してから、それなりに時間が経っているし、僕の意図をくみ取ってもらえるんじゃないだろうか?
テネシア「陛下、ワイバーン軍団の空軍化は望むところだが、あれは自分かイレーネでないと使いこなせないぞ。いつまでも私らだけで面倒を見れないし……」
僕「実は君達の負担を軽減することが目的の一つなんだ。現在の兵士から空軍メンバーを選抜し、一人一体ずつワイバーンに乗ってもらうという腹積もりさ」
イレーネ「ええ……! それって大丈夫ですかねぇ……」
僕「当然、訓練が必要だ。そして、そのためのアイテムも用意しよう」
テネシア「【魔物使役】アイテムかい? だけど、あれは……」
テネシアが言いかけて、口を閉ざした。そう、魔法アイテムは魔法適性が必要なのだが、どうも【魔物使役】アイテムはそのハードルが高いようだ。考えたらこれは当たり前。何しろこのアイテムは全ての魔物を使役できるという建前(設定)だ。しかし、実際にはテネシアとイレーネですら、全ての魔物には使いこなせないだろうし、僕だって分からない。
幸いなことに、三人とも、ワイバーンには効果があったが、一般兵士がこのアイテムを使えるか微妙だろう。でも、これの対策は既にできている。
僕「大丈夫だ。【魔物使役】アイテムを大幅に制限して、【ワイバーン使役】アイテムをつくった」
二人「「【ワイバーン使役】アイテム!?」」
アイテムがチート過ぎるから、ハードルが上がってしまうのだ。それなら、スキル制限(劣化)すれば、ハードルは下がるはずだ。過去、【細胞正常化】から【ガン細胞正常化】へ制限した時もうまくいった。【変身】から【人間形態化】にした時もそうだった。
スキル制限は魔法適性のハードルを下げるだけでなく、実は魔力使用量も少なくて済む。昔の僕はスキル向上(レベルアップ・チート化)に目がいっていたが、生活魔法アイテムをつくるようになってから、魔法の一般利用、安全利用にも配慮するようになったのだ。魔法の省エネ、安全利用、一般向け利用は魔法研究所のコンセプトでもあるからね。攻撃魔法と反対の平和魔法と言っていいだろう。
※参考(魔法比較)
攻撃魔法 大魔力 高レベル 戦闘用 チート能力者だけ 危険性高し
平和魔法 小魔力 低レベル 生活用 一般が広く利用 王国が管理
主人公は魔法研究所を通じて、魔法の平和利用を推進しています。
すると、バハナ将軍が口を開いた。熟考タイムが終了したようだ。
「その【ワイバーン使役】というアイテムがあれば、一般兵士であっても、ワイバーンを使いこなすことが可能になるのでしょうか?」
「その通りだ。ただ使役と言っても、情を持って、仲間として接してもらう必要はあるぞ。そのためにも訓練は必要だ」
【魔物使役】スキルは間違いなく、闇属性の魔法だろう。極力、闇属性を減らすため、僕はあえて、このスキルから隷属性を軽減させるようにした。要は本当に嫌なら命令を聞かなくていいということだ。根っこに魔物の意思を尊重するというのがある。完全な操り人形は僕の目指すスキルではない。それだと、魔人や魔王と一緒になってしまう。
あのワイバーン達は【召喚】されてきたが、【動物会話】で意思確認し、この世界で共存する道を選んだ。今の【魔物使役】は盲目的な絶対服従でなく、「この人の言う事なら聞いてみたい」ぐらいに力を調整している。これにより闇属性が大幅に減った。そして、最終的にはアイテム無しで使役できるようになってもらいたい。
バハナ「ところで、空軍の責任者はどうされますか?」
そうそう、これが問題だった。
僕「これまでは主にテネシア元帥、イレーネ宰相がワイバーンの面倒を見てきたが、きちんと専属の責任者をつけたいと思う。う~ん、ギラン将軍、どうだろうか?」
ギラン「えっ! 私ですか!?」
陸軍はマキシ将軍、ギラン将軍と二人いるが、工作活動により、マキシ将軍の活躍が目立ってしまったからな。ギラン将軍に新しい活躍の場を与えたい。これをそのまま言うとアレだから……
僕「空軍はどこの国にも無い画期的な軍隊だ。たぶん世界初だろう。一からの出発になるが、全面的に協力するので、頑張ってもらいたい。空の軍隊! どうだ、格好いいだろう!」
ギラン「しかし、私はワイバーンに乗ったことがありませんが……」
僕「大丈夫、僕のアイテムがあれば、必ずいけるよ。それに、これまでも、人との行動に慣れさせているから、そこまで心配しなくていい。先ずは餌やりして、顔を覚えてもらい、信頼関係を醸成していくことだな。馬に乗るのと同じ理屈だ。習うより慣れろだ」
ギラン「なるほど、わかりました。期待に応えられるよう努力しましょう」
僕「うん、頼むぞ」
やる前から、困難と決めつけたら、物事は進まない。
最初の一歩はやる価値が高いぞ。
◇ ◇ ◇
その後、軍隊の再編の話になり、バハナ大将(全軍)、マキシ将軍(陸軍)、ブリント将軍(海軍)、ギラン将軍(空軍)の役割分担となった。このうち自前の聖帝国軍は陸軍と空軍だ。海軍は連邦海軍からの借用(派遣)だったからね。
エルメス帝国の件が片付いたから、多くを連邦海域に戻す予定だ。彼らの俸給は連邦が支払っているが、その原資は連邦加盟国の分担金だ。だから、戦争が終了した以上、ここに長居はさせられない。(と言いつつ。残党警戒のため、一部は残すけどね)
空軍創設は連邦海軍を引き上げた後の穴埋めにもなるだろう。広い国土は海から監視するより、空から監視した方が圧倒的に効率はいい。
ちなみに陸軍は元々、半民半兵の徴兵だったが、兵役負担をぐっと減らし、年に三カ月のローテーションとした。普段は農作業、商業、工業等、好きに活動してもらう。それに兵役にもきちんと対価を支払っているので、文句を言う者はいない。三カ月間は基礎訓練が主だが、村や町の警戒、治安維持が主な任務となっている。
軍隊について、連邦軍は「志願制」、聖帝国軍は「徴兵制」か……
「徴兵制」はエルメス帝国時代の名残だが、効率がいいので、形を変えて残すことにした。自衛、防衛は国にとって必要なことだ。誰かがその役目を果たす必要がある。
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クアアアアア! クアアアアア!
「おおっ! もっと大人しくしてくれよ!」
「どうどう、翼を閉じて!」
ギラン将軍ら空軍の兵士達がワイバーンの扱いに苦労してる。
ここはルカレシア地方、「魔物保護地区」(仮称)改め、「ワイバーン保護地区」兼「空軍基地」だ。場所も亜人種族長会議の意見を尊重し、より山奥へ移動した。亜人種族長達から、どうにか「ワイバーン保護地区」兼「空軍基地」の設置を認めてもらったが、安全管理を強く約束させられた。まあ、当たり前の話だよな。人が多い場所では高度を高めにして、威圧しないように注意しよう。火を吐くのも厳禁だな。帝国を威嚇した時と逆だ。
空軍の兵士達には【ワイバーン使役】アイテムを渡してるので、危険が及ぶことはないだろうが、操縦は訓練が必要だな。飛行中、落下しないよう、ワイバーンの背中に乗馬用の鞍のような乗具を取付けたが、これで落下事故も防げるだろう。
ギラン将軍に声をかけてみるか。
「どうだい、ワイバーンは乗りこなせそうかい?」
「ああ、聖帝陛下! いやあ、これは中々大変ですね。乗るのもそうですが、空中では思ったより揺れます」
「乗ってる最中は、揺らさず安定飛行するよう頼むしかないな」
「そんなことできるのでしょうか?」
「アイテムを使っている間は、こちらの言葉や思いが通じやすくなってるはずだから、それを繰り返すことだ」
「わかりました」
「馬だって、扱うのに相当時間がかかるんだ。ワイバーンなら猶更さ。でも、これを乗りこなせたら、凄い戦力になるぞ。馬の比ではない」
「ははは。確かにそうですね。励みになります」
ワイバーンは百体いるが、将来、増やすかは微妙だな。調教等の課題もあるが、餌の手配があるからな。基本、ワイバーンは肉食であり、しかも結構な量を食べる。やはり飛行には大量のカロリーを消費するのだろう。
ただ、肉と言っても、ワイバーンが食べそうな肉が思い浮かばなかったので、牛肉をイメージして、疑似肉を与えているんだ。それに多少魔力を込めてるし、完全にオリジナルフードだ。僕も自分で食べたが、滅茶苦茶、美味しかった。
これを毎日、食べたら、そりゃ、魔界に帰りたくないだろうし、言う事も聞くよな。「聖帝特製の高級肉」としてブランド化して売り出したら、飛ぶように売れそうだが、自重しておこう。
ちなみに魔の海域に【召喚】したシーサーペント(巨大な海蛇の魔獣)とクラーケン(巨大なタコの魔獣)だが、【動物会話】で面談を行い、「カエリタクナイ」「ココハキニイッタ」と回答されたので、両方とも聖帝国海軍に帰属してもらうこととした。
こっちは魔獣海軍だな。ははは。
南方の海にクラーケン(巨大なタコの魔獣)、北方の海にシーサーペント(巨大な海蛇の魔獣)を配置したが、そこそこ防衛強化できたんじゃないかな。ふふふ。
まあ、海軍帰属と言っても、ルカレシア大陸周囲の海域に居ついてもらうだけだが、変な勢力が海から来たら、追い払ってもらう算段だ。彼らは餌をやる必要も無いので維持が楽なのがいい。ただし漁業とバッティングしないよう、人間が食べない生物を食べるよう指示した。酷な指示かと思ったが、意外にもサメ、グロテスクな深海魚、毒性生物なんかも気にせず食べるから大丈夫そう。彼らが悪食で良かった。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




