第425話 ライナス王の執政
~ライナス視点~
「え~と、これから御前会議を始めます」
僕が国王に就任してから、何度か御前会議を開いてるけど、
やっぱりまだ少し緊張するな。
出席者は僕の他、妻のラーシャ(王妃)、ミアさん(内務大臣・義母)、カイル将軍なんだけど、最近、なぜかお祖父様(前々王)が顧問(?)と称して、会議に加わることもあるので、余計な力が入っちゃうよ。いや、有難いんだけどね。
「え~それでは、ミアさん、いやミア内務大臣、内政の報告をお願いします」
「はい、『放送学園』の普及拡大に伴い、他国での受信機、農業アイテムの販売が右肩上がりです。商会からの納税も増える一方です」
資料が配布される。確かに右肩上がりだ。
「ああ、それは良かったですね」
「それと我が国、ギルフォード王国、ダルト王国の三国同盟が締結されてから、海上貿易も上向きです」
「どんな貿易が増えてますか?」
「このような状況です」
ミア内務大臣が資料を机に広げる。
ロナンダル王国→石炭・鉄・雑貨→ダルト王国
ロナンダル王国←綿(衣類)・茶・菓子←ダルト王国
※石炭、鉄、綿(衣類)、茶は物々交換、
※雑貨、菓子は通貨決済(ロナンダル通貨・連邦通貨・ダルト通貨)
ロナンダル王国→石炭・鉄→ギルフォード王国
ロナンダル王国→観光客(観光収入)→ギルフォード王国
※全て通貨決済(ロナンダル通貨・連邦通貨)
ギルフォード王国→防衛隊(傭兵)→ダルト王国
ギルフォード王国←技術支援←ダルト王国
※サービス供与のため、物や通貨の決済なし
「へぇ~三国の取引はうまく調整してるんだね」
「ええ、聖王陛下やギルフォード商会のミローネ副会長が主導されて、各国の状況を十分加味されましたから。それとダルト王国との交易は物々交換が大きいですが、通貨取引も徐々に増えてきております。ギルフォード王国とダルト王国はまだ同盟したばかりで取引は少ないですが、今後、増えることが見込まれます」
「ギルフォード王国の観光収入も順調そうで何より。アレクもうまくやってるんだな」
「ふふふ、まさに文字通りの兄弟国ですしね」
貿易がうまくいってるのはいいんだけど、これを見ると、ロナンダル王国は石炭と鉄が重要だと言うことが一目で分かる。シバ領の鉱山、サイラス領の炭鉱が要だな。特にシバ領の鉱山は大きな声で言えないけど、囚人の労役で賄っているのが大きい。まだ数千人単位で働いてるけど、今後、囚人が少なくなったら、心配だな。あれ? でも本来、囚人が少なくなるのはいいことだよね?
今、思いついたけど、この場で口に出していいものか……?
「どうしたの。あなた?」(小声)
ラーシャに声をかけられた。
「あっ!」
そうだ。ここは学校でも受け身の講習でもない。僕が議長なんだ。そして、みんな僕の一挙手一投足を見ている。しっかりしないと!(自分の両頬を軽くペチッと叩く)
「ちょっと、横道に逸れる話だけど、この表を見ると、我が国にとって、シバ領の鉱山、サイラス領の鉱山が産業の要になってますよね?」
ミア「ええ、そうですね」
「そうすると、シバ領の鉱山は重要施設ということになるけれど、現状、この施設は囚人の労役で成り立っています。そのこと自体は労役による更生作業として是認しますが、将来、囚人が少なくなりそうな気がします」
ミア「確かに聖王陛下は悪党にならない教育を推進してますからね……」
ライナス「悪党が減ることは大賛成ですが、将来、囚人が減り過ぎて、鉱山の労役が減ることは心配ですね。でも本来、これは喜ぶべき話なのに、なんか変ですね?」
ミア「ふふふ、それが理想と現実の乖離というものですよ。政治とは教科書のように一筋縄でいかないものです」
カイル「……ただ、現時点ではまだ囚人は数千人単位でいますので、問題は起きてないですよね?」
「う~ごほん」
すると、それまで黙っていたお祖父様が口を開いた。
すごい貫禄だな。
ガロル「ふふ、確かに今は問題が起きてないがのう。治安と生活環境、そして教育が改善されれば、やがて悪事を働く者が少なくなるのは道理じゃ。そうなれば囚人も減る。そうなってから考えるんじゃ後手に回ってしまう。後手は愚策じゃ。余裕があるうちに先手を考えておくのが良策じゃぞ」
あれれ、僕の一言で大きな話になってしまったぞ。でも、議事進行上、これをここで話込んでしまうと、先に進めない。それに情報量も十分でないしな。
ライナス「ええと、あの~、この件は割と重要な感じがしますので、また改めて議題にしましょう。幸いまだ問題は発生しておりません。しかし将来予測される事態にも十分準備しておく必要がありますね。みなさん、この件は宿題ということで、調べておいて下さい。僕も調べておきます」
ミア「そうですね。それがいいと思います。聖王陛下にも、ご相談した方がいいと思いますし。こういうのを嬉しい誤算というのでしょう」
ライナス「嬉しい誤算ですか?」
ミア「ええ、犯罪が減って、囚人が減るのは国にとって、目指すべきところです。大局がうまくいくなら、枝葉末節はどうにかなるはずですから」
ライナス「そういうものなんですか」
ミア「ええ、そういうものです」(にっこり)
父上には三人の側近がいたが、一人を僕のために残してくれた。それがミアさんだ。正直な話、ミアさんがいなかったら、どうなっていたか……。ミアさんはラーシャの母親でもあるし、僕にとっても義母なので、打ち解けて話すこともできる。
ライナス「他に内政で報告事項はありますか?」
ミア「領地関係の報告があります。ライナス陛下にギース領を除いて、すべての王領が引き継がれましたが、細かい事案が出てますね……」
ライナス「どんな内容ですか?」
ミア「橋が壊れた。木が倒れた。壁に亀裂が入った等、損壊事案がほとんでです」
ライナス「ああ、代官から報告が来たので、土建省を通じて補修依頼をしといたよ」
ミア「ふぅ~、まあ、それが普通の対応ですよね……」
あれっ、ミア内務大臣の表情が微妙だな。
ライナス「どうかしたんですか?」
ミア「ええ、実は王領の代官から早期対応を求められまして……」
ライナス「? だから、早期に補修するよう土建省に依頼したんだけど」
ミア「実は聖王陛下の時は念話で連絡を受けると、その日のうちに補修されてましたので……」
ライナス「え……」(父上ならやりかねない。いや、やるだろうな)
ミア「どうしましょう?」
ライナス「僕は父上とは違うからね。今までのようには即日補修はできない。と言うより、今までが尋常ではなかったということだと思う」
ミア「それについては、私も同感です」
ライナス「分かりました。僕の方から改めて代官達には連絡を取ってみるよ」
ミア「お願いします」
僕は父上からギース領以外の王領をすべて引き継いだが、あまりに広大な領地だ。ここで弱音を吐くわけにはいかないが、あの広さも尋常ではない。もっと誰かに領地運営を分担してもらわないとな。こんな広い領地、僕一人で直接治めるのは無理があるぞ。僕がオーバーワークで倒れる前に候補者を決めないと!
下の兄弟で言えば、シルエス、タイタス、ディオネがいたな。確か十才だったか。早く大人(十五才)になって兄を助けてくれよ。
「あなた、大丈夫?」(小声)
「あっ、大丈夫だよ。ラーシャ」
また、ラーシャに声をかけられてしまった。いかん。いかん。
ライナス「ギース領はどうなっていますか?」
ミア「はい、ギース領は聖王陛下の直轄領となってますが、貿易が盛んですし、王国への納税も滞りありません」
ライナス「連邦事務局には逆にこちらからも、分担金を支払うんでしたね?」
ミア「そうです。その分の予算もすでに計上済みです」
ライナス「内政報告はこんなところですかね?」
ミア「はい」
ライナス「ではカイル将軍、防衛報告を頼みます」
カイル「はい、先日、連邦軍の再編に伴い、海軍がロナンダル王国軍と連邦軍に振り分けられました。その作業の完了をご報告します」
ライナス「今まで海軍は王国軍と連邦軍の兼任だったからね。お疲れ様です」
カイル「元々、海軍全体で軍人三千五百人、軍船二百隻ありましたが、そのうち軍人五百人、軍船五十隻がロナンダル王国海軍に振り分けられました」
ライナス「と言うことは連邦に移ったのは、軍人三千人、軍船百五十隻か。なんか人と船のバランスが違うような?」
カイル「はい、実は元々、海軍は船に対して人が少ないという課題がありました。船を動かすには操縦技術、航海術、機関技術、武器技術、兵站術(食事物資)等が必要で人の確保と訓練に時間がかかります。それで今回は、高い練度が要求される連邦側に多くの人員が振り分けられました」
ライナス「単純計算すると、連邦側は二十人で一隻、王国側は十人で一隻ですね……」
カイル「ええ、王国側は沿岸での日帰り航海を想定してますので、航海術や武器技術、兵站技術の人員を減らしました。その代わり、大砲、銃等の武器、兵站は陸軍でも扱えますので、陸軍にも協力させる予定です」
なるほど、数字だけ見ると、変だったが、きちんと整合性がとれていたんだな。僕も額面上の数字だけでなく、内容を理解できるようにしないとね。そう言えば、カイル将軍はずっと陸軍だったような……
ライナス「そう言えば、カイル将軍はこれまでずっと陸軍だったと思うけど、海軍は大丈夫なの?」
カイル「はは、これは痛い所を突かれました。現在、バハナ将軍に教授してもらっております。それと海軍指揮の経験者を配下にして頂きました」
ライナス「バハナ将軍は連邦軍に移ったよね? 少し借りができた感じなのかな?」
カイル「いいえ、こちらも連邦軍の地上での作業に協力してますので、貸し借りはありません。お互い様です」
そうか、海軍での借りを陸軍で返してるのか。そう言えば再編により、ロナンダル王国は陸軍が主力になったよな。陸軍はどうなっているんだろう? 確認してみよう。
僕とラーシャは王と王妃になったけど、この会議では一番若いし、まだまだ経験も不足している。だからこそ、まわりのベテランスタッフから、積極的に吸収していかないとね。内政はミアさん、防衛はカイル将軍がいるから心強い。それにおじい様も頻繁に顔を出してくれる。今日は来てないけど、ザイス内政顧問もたまに来て、いろいろ教えてくれるんだよ。
さて、引き続き会議をしよう。
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