第392話 偽装船
ここはエルメス帝国の軍司令本部
ブリント将軍は宰相からの命令に頭を悩ませていた。
「ダルト島の状況調査か……」
「これまで、その調査のために何度も軍船を派遣したが、すべて消息不明で、応答が無くなっている。恐らく、何度、軍船を派遣しても同じ結果になるだろう……」
しばしブリント将軍は思案にふけっていたが、やがて気が付いたように上を見上げる。
「そうだ、軍船だから、敵とみなされ拿捕されたんだろう。軍船以外ならば……」
ブリント将軍が立ち上がり、側近兵に命じる。
「新たな作戦を命じる。兵を集めろ!」
「はは!」
そして、去っていく側近兵を見ながら呟く。
「これまでは力押しだけでいけたが、どうやら今度の相手はそれが効かないようだ。帝国軍らしからぬ方法だが、やむを得ないな……」
ブリント将軍は小さくため息をつきながら、海図を開くのだった。
――――
――――――
とある海上
一隻の漁船に船員が数人乗っている。
「隊長、こんな船で大丈夫ですかね?」
「今回は戦闘目的でないからな」
「しかし、これは漁船ですよね?」
「当然だ。我が隊は漁船に偽装し、敵の調査をするのが任務なのだから」
「しかし、軍船でないと不安でしかたないです! これだと無防備みたいなものです!」
「しかたないだろ! 完全に漁船に乗った船員を装わないと、見つかった時、逆に拿捕されてしまう」
「……しかし、このままでも拿捕されるかもしれません」
「くっ……その時はその時だ」
「……了解しました」
「ダルト島に無事に到着すればいいけどな……」
軍人達は服装も船員に偽装していたが、いつもと違う格好で、かつ丸腰に近い状態だったので、皆、不安な様子。漁船に偽装した船はゆっくりとダルト島に向かっていった。
ちなみに漁船への偽装は元の軍船から、大砲等の武器を取り外し、漁船仕様に船の外装を改めたものである。当然、軍人達も武器(銃)を携行していなかった。
見た目は完全に漁船とその船員である。
「本当にここまでする必要があるんですかねぇ……」
「しかたないだろ! 上からの命令は絶対だ!」
「でも、自分達は軍人ですよ……」
「今回は内偵調査が目的だ。完全に偽装する必要がある!」
隊長は自分に言い聞かすよう、部下に強く言うのであった。
――――
――――――
<飛行船・船長室>
バハナ将軍が海上の漁船を発見する。いつもの警戒任務だが、高い飛行船からの監視なので、大海に浮かぶ漁船がよく見える。それにこの飛行船は【隠蔽】スキルがかけられており、敵に見つかることもない。こちらが一方的に見る側なのだ。
バハナ「んっ、漁船か。しかし、こんな場所まで珍しいな……」
部下「いかがいたしましょうか?」
バハナ「一応、確認した方がいいな。小舟で様子を見に行かせろ、いきなり軍船で近づいたら驚くだろうからな」
部下「はい、了解しました」
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――――――
漁船側
「隊長、小舟が近づいてきます!」
「こんな場所で小舟だと!? 警戒を怠るな!」
「はは!」
漁船の中で緊張が走る。
程なくして、小舟が漁船に接近
「運行を止めろ!」
大声が浴びせられ、漁船内は緊張が高まる。
「隊長、あの距離から大きな声ですねぇ」
「う~む、何か道具を使ってるようだな」
「どうしましょう?」
「見たところ、臨検だろう。大人しく応じよう」
船を止めると、小舟から軍人の服装をした者が乗り込んでくる。
やはり臨検だ。
「船長は誰だ?」
「はい、私ですが」(どこの軍隊だ?)
「この船は漁船か?」
「はい、そうです」
「魚を見せてもらおう」
「……まだ捕っていません」
「そうか?しかし、なぜ、こんな場所まで来てるんだ?」
「魚を追っていたら、ここまで来てしまいました」
「本当か?」
臨検の軍人が船長(隊長)をジッと見る。しかし船長(隊長)は堂々を応答する。
「ええ、本当です」
「分かった。それとここから西に入ってはいけない。すぐ引き返せ!」
船長は一瞬「はい」と返事しそうになったが、それでは任務が完了できない。
それでつい反論してしまった。
「すいません。そうしたいのは山々ですが、ご覧のとおり獲物が一匹も捕れていません。もっと西側に行きたいのですが」
「ダメだ! ダメだ! これ以上、西側に入るな!」
臨検の軍人が強く拒絶、一瞬、緊張が走るが――
「……わかりました。東に帰りましょう。最後に一つお聞きしたいのですが?」
「なんだ?」
「どちらの国の臨検でしょうか?ダルト国ですか?」
「……そうだ」
「……ダルト国でしたら、エルメス帝国の軍人が臨検するはずですが、そちらさんはエルメス帝国の軍人ですか?」
「その質問には答えられない!」
「なぜですか?正規の臨検だと判断し、従ったのです。それとも正規の臨検では無いのですか?」
「うっ! このまま少し待て!」
臨検の軍人はいったん小舟に戻っていった。
――――
――――――
<飛行船・船長室>
バハナ将軍が念話で報告を受ける。
バハナ「魚を追っていて、ここまで来てしまっただと?」
部下「しかし、そこの船長がどこの国の臨検か確認してきたそうです。どういたしましょうか?」
バハナ「普通にダルト国と返答したら、今度はエルメス帝国か聞いてきたんだな?」
部下「そうです」
バハナ「……何か調べようとしているな」
部下「……偽装でしょうか?」
バハナ「軍人が漁船の船員に偽装……ありうるな」
部下「いかがいたしましょう?」
バハナ「それなら返すわけにはいかないな。軍船で拿捕せよ!」
部下「はは!」
――――
――――――
<漁船側>
「ああ! 隊長! 軍船が近づいてきました!」
「あれは!我が国の軍船か!?」
<<「そこの怪しい漁船! これから拿捕する。大人しくせよ!」>>
大きな声が響く。
「隊長、どうしましょう!」
「ふぅ……、軍船が出てきたら、こちらに勝ち目は無い。大人しく従おう」
その後、漁船は拿捕、船員は拘束されて、ダルト王国へ移送された。
――――
――――――
<ダルト王国・王城・王の間>
念話でバハナ将軍から連絡があったので、ダルト王国に【転移】して報告を受ける
「内偵調査のため、漁船に偽装した模様です」
「偽装か……今後も警戒してくれ」
「承知しました」
「身元は全員、エルメス帝国の軍人か?」
「はい、そうでした」
「それなら君の部下として引き取ってもらえるな」
「はい、そのつもりです」
「しかし、今回は武力押しのエルメス帝国らしくないなぁ」
「方針を転換したのかもしれませんね」
「ふふ、確かにこちらの情報は一切、向こうに渡ってないだろうからね」
「向こう側の焦りを感じます」
「しかし、よく偽装と見抜いたな」
「向こうは内偵調査のために来たようですが、臨検に対しても調査しようとしたので、それで怪しく思いました」
「なるほどな。もし向こうが、質問しないで大人しく帰っていたら、そのまま見逃していたかもしれないんだな」
「……その可能性はあります」
こういうのを「雉も鳴かずば撃たれまい」と言うんだっけ?
しかし、軍人にこちらの情報が渡るのも困るが、軍人以外でも間接的に渡れば同じなんだよな。万全を期すか……
「それなら、こちらも方針転換しよう。今後は軍船であれ、漁船であれ、全部拿捕だ」
「漁船もですか?」
「漁船であっても、こんな場所まで来ること自体が怪しい行動と言える。仮に怪しいことをする意図が無かったとしても、個別に行動で判断しよう。なに、手荒なことはしない。取り敢えず拿捕、拘束後、僕に連絡をくれ」
「了解しました」
うっかりこちらの領海付近に来た船員達には悪いけど【精神支配】スキルで、こちらに来た記憶をリセットしてもらおう。その後、【転移】で船ごとエルメス帝国付近の海に返してあげればいいな。
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