第355話 王太子結婚
~ラーシャ視点~
ついにライナス様との結婚式の当日を迎えた。この日のために一年前から、王宮で王妃様からお妃教育を受けてきたが、どうにかこうにか王族としての礼儀作法、心構え、必要知識は身につけられたと思う。他の事例を知らないから、比較のしようがないけど、王妃様が自ら、教えてくれるというのは、一番確実だし、効率がいいはずだ。もし王妃様以外から、教わっていたら、もっと時間を要しただろうと思う。本当にこの一年間はあっという間だった。
「ラーシャ、いよいよ、これから本番だね」
「そうですね。ライナス様」
王太子のライナス様もずっと傍でサポートしてくれたし、きっと大丈夫だろう。それにお母様のことで憂いが無くなり、安心して結婚することができる。お母様が陛下に気があったのは近くで接していてわかっていたし、独り身のお母様を残して自分だけ結婚するのは申し訳なく感じていたのだ。今までの感謝の思いもあり、陛下とお母様の距離をもっと近づけたかったが、ライナス様が動いてくれて、うまくいったようだ。本当に良かった!自分の結婚よりも嬉しい!
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~アレス視点~
いよいよ、ライナスとラーシャの結婚か……、婚約から一年経過したが、この一年間はダルト国の軍船が何隻も来るわ、新戦力の加入があるわ、新たに海軍、連邦軍を創設するわで、忙しかったからな。本当に早く感じたよ。幸い、国内情勢は平穏だったので、今日の結婚式に影響が出ることは無かった。やはり内政の安定が平和につながるよね。とにかく平和が一番だ。
「さて、そろそろ結婚式だな」
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<王城・謁見の間>
今日は純粋な結婚式だから、最初から、お祝いムード一色だ。国中の貴族はもとより、他国からも王族、貴族がたくさん参列している。本当にいいムードだ。
しかし、【読心術】を使うと……
(ライナス王太子はうちの娘にと、狙っていたのに~)
(相手の女性はあまり聞かない名前だな)
(エルスラ共和国の出身と聞いたが、何者か?)
(どれどれ、どんな姫様なんだ?)
(私の方が綺麗に決まってる!)
(無名の姫とか、ありえない!)
たはは……、いろいろあるよね。
ラーシャについては、冒険者、専属護衛の実績はあるももの、王族、貴族の社交界には、なるべく出さないようにしてきたので、情報が少ないのだろう。多くの者がラーシャについて、興味津々だ。でも、今日、結婚すれば、少しずつ明らかになっていくことだろう。この一年間で、王族の流儀をしっかり覚えもらったので、何も臆することはない。
おお、そろそろ開始の時間だな。ライナスとラーシャが高段に上がった。
二人は見つめ合っている。そして――
「ライナス・ロナンダル王太子殿下、貴方はラーシャ嬢を妻として愛し、敬い、慈しむ事を永遠に誓いますか?」
「誓います!」
「ラーシャ・セレイド嬢、貴方はライナス・ロナンダル王太子殿下を夫として愛し、敬い、慈しむ事を永遠に誓いますか?」
「誓います!」
教会の司祭のもと、二人が永遠の愛を誓いあう。
まわりは祝福の歓声が響いている。この場にほとんどの関係者が揃っているからな。なかなか盛大だ。僕とメリッサの時もこんな感じだったかな。
さて、お祝い会場(披露宴会場)に場所を移すか。
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<王城・大広間>
今度は二人のお祝い。どれ、僕が挨拶するか。
僕が壇上に上がると、ざわついていた場がサッと静まり返る。中央高段には既に二人が立っている。
ふふふ、二人とも、緊張してるな。さて、挨拶しよう。
「本日は遠路はるばる、二人の結婚のため、王族、貴族並びに関係各位に駆け付けてもらって、深く感謝する。この度は王太子である我が息子ライナスとラーシャ嬢が結婚することとなった。ライナスは皆も十分知ってると思うので、説明を省くが、ラーシャ嬢はミア・セレイド侯爵の娘であり、れっきとした貴族でもある。今後は王太子妃となるので、しっかりと覚えてもらいたい。二人の門出を盛大に祝おう!」
僕の挨拶が終わると同時に大きな歓声、その後、ライナスが挨拶を終えると、場が和み、お酒と料理が運ばれ、本格的な祝宴となった。
案の定、二人の前に長い行列ができた。一応、立食のパーティー形式だが、ほとんどの貴族が二人への挨拶へ向かうようだ。(当たり前か)
でも、挨拶の際は爵位順という不文律があるので、いっぺんに来ることはないし、同じ爵位でも、格式、経歴等で上下が決まっているらしい。このあたりは正直、僕もよく分からない。過去の功績や、家柄の高貴さが、関係してるみたいだけど、まあ、僕は過去の功績はあまり気にしないからね。過去より、現在、どうなのかを重視してる。貴族の中で、勝手に順位付けする分には好きにやってくれ、という感じだ。
ちなみにこの国では、現在、公爵が空席となっている。そのため、貴族の最高位は侯爵で、それは僕の側近、テネシア元帥、イレーネ宰相、ミア内務大臣の三人で占めている。
「ちょうど、今、その三人が王太子夫妻に挨拶してるなぁ」
先ほどまでは王族が挨拶してたから、貴族の順番に入ったわけだな。
「でも、テネシアも、イレーネも、そしてミアも、子供が王族だから、本人達も準王族だよな……」
いずれ、三人をどこかのタイミングで、空席になっている公爵位(準王族)に就任させたいと思っている。急ぐ必要はないけど、いいタイミングを狙いたいね。
いよいよ、王太子夫妻への挨拶が伯爵以下の貴族に移ったな。以前、貴族整理をしたから、昔よりはだいぶ、貴族の数は減ったけど、それでも、百人はいるだろうか。ただ、ほとんどが、貴族本人の屋敷と敷地ぐらいの所有でとどまっており、本格的(広大)な領地は持っていない。つまり、ほとんどが僕の領地(王領)に住まわせてもらってるようなもの。俸給も王である僕が支給してるから、彼らも生き残りに必死なのだろう。王の土地に住んで、王から俸給をもらってるんだから、気持ちは分からないでもないけどね。
でも、特別に可哀想だとは思わない。だって、一般庶民(平民)もそれはまったく同じことだから。大部分の庶民も働いて、お金を稼いで、生活をしている。働かざる者、食うべからずだ。もちろん僕も働いている。僕の跡を継ぐライナスにも、しっかり働いてもらうよ。少し考えれば分かる話だけど誰かが怠ければ、その分、誰かの負担が大きくなる。みんなが適正に負担し合えば、一人当たりの負担(労働力)はそこまで大きくならないはずだ。
ありゃ、酔った貴族が二人にしつこく詰問してるなぁ。
でも、ライナスがラーシャの前で頑張ってる。もう少しだけ様子見するか。
「王太子殿下、ラーシャ妃様とは、どこでお知り合いになったのでしょうか?」
「王宮で、ミア内務大臣と同行してるのを見て、気になったんだ」
「ほぉ~ それでは王太子殿下の一目ぼれですかな?」
「う~ん、それだけではないけど、そうとも言えるかもね」
「ところでラーシャ妃様はミア内務大臣の養女と聞きましたが?」
「……ええ、そうですが、それが何か?」
「その前は何をなさっていたのですか?」
「……ええと、ミア内務大臣の身辺警護とか、冒険者とか」
「え!お妃様が護衛、冒険者ですか!?」
「だから、何です……」
「ひょっとして、平民あがりとか?」
「それがどうしましたか!」
「どうりで貴族の仲間うちで知らないわけです。は~平民あがりでしたか。読み書きはきちんとできるんでしょうか?」(ニヤニヤ)
「くくく!」(怒りで顔が紅潮していく)
ヤバい、割って入ろう。ああ見えて、ライナスは剣も魔法も凄腕だ。怒れば、あんな貴族なぞ瞬殺だろう。結婚式で流血沙汰は勘弁だからな。しかし、普段、冷静なライナスもラーシャを軽んじられたら一気にボルテージがあがるなぁ。まあ、それだけ大切な存在なんだろうが。
ポンポン!(貴族の肩を後ろから軽く叩く)
「ちょっといいかい」
「なんですか!人が話してる最中に、えええええっ!国王陛下!」
「“私の娘“をあまり、詮索しないでくれないかな」(ニコリ)
「す、すいません!」
「私も平民あがりだが、私にも文句があるってことでいいのかな?」(ニヤリ)
「しっ、失礼しました――!」
酔った貴族が秒速でいなくなった。
ああいう手合いは真剣に相手をする必要はない。
(でも後でしっかり爵位格下げと減俸処分はするけどね)
でも、きちんとライナスがラーシャを守る姿勢が見えて、嬉しい。
ささやかなエールを送るとしよう
ライナスの耳元で
「いいぞ、その調子でラーシャを守りなさい。しっかり頼むぞ!」
と小声で呟く。するとライナスが
「当然です」
と返事をしてきた。
うんうん、なかなかいい男になってきたじゃないか。
二人とも頑張れよ。
余談だが、僕は王族や貴族の存在を否定しないが、在り方を変えたいと思っている。それは「何もしないで威張る存在」「既得権益者」から、「仕事をして褒められる存在」「貢献者」だ。要は古臭い権威や格式よりも、現に王国や国民の役に立っていることを重視するということだね。だから貴族の爵位も廃止はしないが、形骸化させる方向に少しずつ動いている。
だからこそ、いまだに僕を悪く思う勢力が少数(貴族)いるのは、把握してるが、すでに大した力はない。たまにルーチンワークで、王族に「憎しみ」「殺意」を持つ者を指定して【探索】してるが、「殺意」はほぼゼロ、「憎しみ」はいても、十人以下だな。その場合は悪想念を【収納】して、がっつり僕の魔力値に変換させてもらう。だからルーチンワーク後は、王族への「憎しみ」「殺意」はゼロになる。(その後、また増えたりするが)
でもね。「反感」はそのままにしてる。数えれば結構な数になるだろう。理由は低い悪想念であり、個々人が理性で制御することを期待してるからだ。これは彼らの成長にも必要だしね。それに王族にとっても、自分と違う考えをすべて封殺するというのは良くない。なぜなら王族も同じ人であり、当然間違うこともあるからだ。受け入れるかどうかは別にして、なぜ「反感」を持つのか、冷静に分析することは大切だ。もし僕が「反感」まで【収納】したら、国中がイエスマンだけになりかねない。それは本当に怖いことなんだよ。
※参考※
ロナンダル王国の貴族の爵位順
(一)公爵(準王族)
(二)侯爵
(三)伯爵
(四)子爵
(五)男爵
(六)騎士爵
補足
大公爵(準王族)は公爵の上位
辺境伯は侯爵と同格
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