第四章 明日へ続く世界 ー輝かしい未来へー
「お疲れ」
家に帰ると一言、結衣はそう言って早紀を優しく抱きしめた。
表彰台の一番高いとこに上るよりも、早紀にはそれが嬉しかった。
「おめでとう」
「ありがとう」
「アイスクリーム、食べる?」
「食べる食べる」
「早紀ちゃんの大好きな、あの店のアイス買って来たんだよ」
「それは楽しみだ」
「早紀ちゃんは、先にシャワー浴びて来なさい」
「はーい」
早紀は言われるがままシャワーを浴びて、一日の汗を洗い流した。
とても清々しい気分だ。
風呂上がりに食卓につくと、すぐさま器に盛りつけられたアイスクリームが目の前に置かれた。
「どうぞ」
結衣も向かいの席に座り、アイスをぱくりと食べた。
「危なげない走りだったよ。さすが私の生徒」
「ふふん」
結衣は早紀を見つめ、静かに問いかけた。
「ねえ、早紀。一緒に暮らさない?」
結衣から思いがけない言葉が飛び出した。
「どういうこと? 今も一緒に住んでるじゃん」
事情を読み込めずに早紀は聞き返した。
「私、東京大学を受験しようと考えてて……」
全国模試で何度も一位を取っている姉だけに、日本の最高学府の名前をあげることにさして不思議な感情はおこらなかった。
「海外の大学に行かないかって先生に誘われてるんだけど、それを断って、日本の大学に行こうかと思ってるの。それでね、大学になったら一人暮らしをしようと考えてるんだけど、早紀、もしよかったら一緒に東京で暮らさない?」
「え……?」
「だから、早紀も東京の高校受験してね」
「もう、お姉ちゃん強引」
ふふっと早紀は笑った。
「どうしたの?」
そんな早紀を結衣は意外そうに見つめる。
「いや、続けて続けて」
「早紀の実力ならどこの高校でも引く手あまただし、部活動もこれまで通り続ければ良い」
「お姉ちゃんって、けっこう欲張りだよね」
いつも凛としている結衣のそんな一面をかいま見て、早紀はおかしくて笑った。
「そんなに笑わなくても」
結衣は肩をすくめる。
「じゃあ、私も東京の高校を受験しようかな」
早紀はアイスクリームを口に運びがら明るく言った。
「そしたらまた、お姉ちゃんと一緒に暮らすよ」
「東京で?」
「東京で」
結衣は早紀の決意に、顔をほころばせた。
「そっか。わかった。じゃあそのときは、一緒に暮らそう。楽しみにしてるよ」
「うん」
「でも、二人で海外に留学したりするのもいいよね」
「海外の学校?」
「そう。海外の学校だと、ほら、年が違っても、同じ学年になれるじゃん」
「おお。なるほど。それいいね」
「でしょ」
「早紀とクラスメイトか。うん。いいね」
うんうんと、結衣は頷いた。
「お父さんを説得してみようか」
「お姉ちゃん、本気で海外行こうと思ってるの?」
「え? 早紀ちゃん、冗談なの?」
「んー、半分本気」
「半分ってなによ」
「とにかく、さ、私が義務教育終わられないとね」
「それもそうか」
まだまだ時間は沢山ある。
二人は、ゆっくりと大人になっていく。
二人で、大人になっていく。
選択肢は無限にある。
どれを選ぶのか。
選ばないのか。
「楽しみだね」
早紀は口いっぱいにアイスクリームを頬張った。
「ん!」
「いろんなところに行こう。早紀。一緒に旅行して、冒険して、いろんなものを見よう」
「そうだね」
「世界中を見て回って、食べて、歩いて。きっとすごい楽しい」
「二人ならできるよ」
きっと。
今の二人ならなんでもできる。
新しい未来、新しい目標に向かって、二人はまた歩き出した。
その先になにがあるかは、まだ、誰も知らない。
それが輝かしい未来であると、二人は信じている。




