第二章 囚われの記憶 ー真実ー
「あの日」
トーンを落として、結衣は話し始めた。
「私がお母さんについていくと決めた日」
ふっと結衣の顔を見上げると、結衣の顔は見たこともないほど強ばっていた。
「私は本当は、早紀と一緒に居たかった。早紀と一緒に居ることのできるなら、お父さんでもお母さんでもどっちでも良かった。でも……あのとき、お母さんの精神状態は最悪だった。昔から夫婦仲が良かった訳ではないけど、それでも会社の人と浮気されていたことに対してショックを受けてた。まあ、もともとプライドの高い人だしね。だから、一人にしとけなかったの。一人にしてたら、自分の命を無駄にしてしまいそうで……。でも、ほんとは早紀といたかった」
結衣にとっての懺悔だった。
「早紀と一緒にお母さんのとこに行くって言う選択肢を考えなかった訳じゃないけど、でも、精神状態が不安定なお母さんから、なにかあったときに、早紀を守りきる自身が無かったの」
早紀に会いたい。
会いたい。
両親の離婚後、その思いは募るばかりだった。
しかし、結衣にはその勇気はなかった。
あんなに大好きだった早紀ではなく、母を選んだ自分に驚き、許せなかった。
早紀も同じ気持ちなのだろうと、結衣には痛いほどわかっていた。
母親について行くと言った時の、早紀のあの悲痛な顔。
刺すような目を忘れられず、結衣は毎晩魘された。
今更早紀に会う資格などないと結衣は感じていた。
そんなことをしても早紀を傷つけるだけだと結衣は自分の気持ちを押しとどめていたのだった。
結衣もまた苦しんでた。
苦しめていたのは自分だ。
早紀はかつてないほどの後悔に教われた。
結衣に体重を預けたまま、ぎゅっと、結衣の制服の袖を握った。
「ごめんね。早紀。今まで会いに来れなくて」
怖かったのと結衣は続けた。
「お母さんの精神状態は、一年ほどで元に戻った。今では、前のようにいろんな趣味をみつけて、家にはあまり帰らないよ。だから、早紀に会いにいこうと思った。会いにいきたいと思った。でも、早紀に拒絶されるのが怖かった。もしそんなことになったら、私は明日から私でいられなくなると思った。私は自分の卑怯な、弱い心に勝てなかった」
「私こそごめん!」
早紀はたまらず、覆いかぶさるように結衣の顔に抱きついた。
「ごめんなさい……。わかってた。本当はお姉ちゃんの気持ちわかってたの。気づいてた。お母さんがおかしくなってるって……。それでお姉ちゃんはお母さんが心配だったんだって。でも、でも私は……私は……、そんなことはどうでもよくって、自分のことしか考えられなくって。お姉ちゃんと離れるのが嫌で、我慢できなくて、どうしようもなくて……」
早紀の懺悔が、目から涙となって溢れ出た。




