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緋から翠へ


 誰かを好きになる理由なんて色々ある。

 外見が綺麗だったから。優しさに触れたから。身体が好みだったから。日常生活に溶け込んだ相手にふと気づいたから。など、好きになるのにも色々あるのだろう。

 スカーレット殿下の場合の理由がどれになるかは分からない。

 ただ不安なのが、いわゆるロミオとジュリエット効果……だっただろうか。同性という事や身分差などの障害を恋愛の燃える要素として考え、暴走しているかもしれないという事だ。

 あるいは破滅願望。自身が王族としての在り方に疑問を持っているが故に、世間一般にはまだ偏見がある恋愛を行おうとしているのではないという事。認められない事をすれば、今の自身に取り巻く重荷も一緒に無くなるのではないかという事。

 つまりは友達としての好きを勘違いして、本気で恋愛として好きではないという事。それが不安なのである。


「実際に姉さんはそうだろうな。恋愛要素としての好きをエメラルドに向けている感情など、友人として思う好きの一割も満たないだろう」


 というのは、俺やヴァイオレットさんと一緒に告白を木々の陰から見守っているヴァーミリオン殿下の言。さらには一割にも満たないと、俺が思っている事よりもさらにハッキリと言いのけた。


「良いのですか、ヴァーミリオン殿下。お姉様をそんな状態で告白などさせて……」

「あの状態で告白をさせれば、傷付けるだけだと言いたいのだろうヴァイオレット」

「……はい」

「そうかもしれない。だが別に俺は一割でも恋愛感情なら進めるべきと思っている訳でも、姉さんの意思を尊重したいと思い、無条件で受け入れている訳でも無い」

「そうなのですか?」


 ヴァイオレットさんは予想していたであろう答えとは違う回答に首をかしげる。

 ならば何故、ヴァイオレットさんにエメラルドを呼びに行かせ、その間にスカーレット殿下(ねえさん)の告白をしようという気持ちを後押しし、告白の場を整えたのかを分からないのだろう。


「先程クロ子爵が言っていただろう。意思を尊重して受け入れるだけは、思考停止に他ならないと」

「でしたら理由は……?」

「……まぁ、そうだな。強いて言うなら唯一両親を同じくする姉さんに、あの辛さと幸福を味わって欲しかったからだよ」

「唯一……?」


 ヴァーミリオン殿下の言葉にヴァイオレットさんは疑問顔になる。なるが……それを言ってしまって良かったのだろうか。

 俺は事情を知っているから意味は分かるのだが、まるで今の発言は今まで隠してきた事がバレても良いと思っているかのような発言だ。

 ……やはりヴァーミリオン殿下はなにか変わったのだろうか?


「なんでもない。……と、エメラルドが来たようだぞ」


 俺達の会話もそこまでにし、ヴァイオレットさんが用事があると言って呼び、その後にこの場所に来て欲しいと伝えてから別れたエメラルドが告白の場である、木々の中にある開けた広場に来た事を報せる(ちなみにヴァイオレットさんは先回りしてここに来ている)。

 エメラルドは訳も分からずこんな人気のない場所に来る様に言われ、目的の場所にスカーレット殿下の姿を発見すると疑問顔になりつつも、周囲に誰も居ない事を確認してから殿下へと近づいていく。恐らくなにか事情を知っているのではないかと尋ねるのだろう。

 そして瞑想かの様に目を瞑っていたスカーレット殿下も、エメラルドの存在に気付き、目を開けて落ち着いた様子でエメラルドをジッと見ていた。


――告白が、始まろうとしている。


 ……告白が始まろうとしているってなんだろう。


「……ところで、夫と一旦離れて復調はしたようだな、ヴァイオレット」

「なんの事でしょう。私は取り乱しも照れもしていませんよ」

「誰もそんな事は言っていないぞ」

「……悪かったですね、気持ちを落ち着かせるために時間がかかったせいで、呼びに行くのに時間がかかって」

「別に攻めている訳では無い。それを狙ってお前に行かせたのだからな」

「…………」

「無言で睨むな。仲の良い事は良い事だ。……お前達のようになれれば良いのだがな、姉さんも、俺も」

「? ヴァーミリオン殿下――」

「しっ。……気付かれぬように、会話は最小限かつ小さめにな」


 そう言われ、ヴァイオレットさんを口を塞ぎ声と動きを最小限に抑えようと気を引き締める。

 ……しかし、今更だが告白を覗く俺達ってなんなのだろうな。ヴァイオレットさんやヴァーミリオン殿下も普段であればしないだろうが、傍から見たら馬に蹴られるような行動だよな、これ。


 と、俺達の行動に関しては今は考えないようにするとして、今は告白に関してだ。

 一応は【空間保持】で気付かれにくいだろうが、下手に邪魔せぬように気配を殺さなければならない。俺は木……木々……葉っぱ……


「レット。そちらもヴァイオレットに呼ばれた口か?」


 と、エメラルドがスカーレット殿下に声をかける。

 相変わらず殿下であろうと気安い口調である。親父さんが見たらまた胃を痛めそうだ。


「そちらは……いつもの服装か。ヴァイオレットがワフク? とかを着ていた上に、ちらほらといつもと違う服を着ている連中が多かったから、美しさを競うなんとかコンテストに関するモノかと思っていたんだが……それとも、そちらも出ていなくて、私とお前にコンテスト服を着せるという類か?」

「…………」

「いや、お前が出ていないという事は無いか。私と違ってお前は出られるだろうからな。ならば……いや、そもそも別件かもしれんな。どうなんだ、レット」

「…………」

「……レット?」


 対するスカーレット殿下は落ち着いた様子だ。

 先程までの追い詰められるような目でも無く、強迫観念に迫られた表情でも無い、落ち着いた――


「エ、エメエメメ、エメラルドドドドド、き奇遇ね。グッドでナイスでひゃっふー!!」

「ど、どうした!?」


――全然落ち着いていない……!?


 陰から見守る俺達は、スカーレット殿下の様子に「あわわ」とでも声を出しそうなほどハラハラし始めた。

 大丈夫だろうか、これ。告白成功の可否以前に告白する事が出来ないんじゃないだろうか。


「どうした、何故あの色情魔のようなハイテンションになっている」


 このテンションで思い浮かべる辺り、エメラルドのカーキー像が気になる所である。

 ……いや、別にカーキーとは言っていないか。カーキーだろうけど。


「まずは落ち着け。深呼吸だ。あるいはお勧めの毒草があるが」

「すー、はー。すー、はー……落ち着かせるために毒草はどうなの?」

「一般に毒草なだけで、用量を正せば薬になるという事だ。……誤ればヒトとしての尊厳が危うくなるが」

「それもどうなの。……まぁ落ち着いたよ、ありがとう」

「? そうか」


 多分スカーレット殿下的には落ち着かせるために冗談を言ったと思っているのかもしれないが、エメラルド的には本気で毒草を食べさせようとしたんだろう。

 この場でなければスカーレット殿下も気付いただろうけど。


「で、私はヴァイオレットに呼ばれた訳じゃないけど、私がエメラルドを呼んだの」

「? つまり……ヴァイオレットに私をここに来させるようにしたのは、レットという事か?」

「そういう事」

「ふむ……生憎と私は着飾った服を着る気はないぞ? レットは参加しなかった私に気を使っているのかもしれんが、私は着飾る事に興味は……」

「そういう意味で呼んだんじゃないよ」

「そうなのか?」


 エメラルドとしてはグレイやアプリコット、ブラウンなどよく遊んでいる仲の良いメンバーで、エメラルド(自身)だけが参加していなかった事にスカーレット殿下が気を使い、服を着飾って驚かせよう! といった事をしようと思った感じだろうか。


「では、なんの用なんだ?」


 エメラルドは呼ばれた理由を少し考えた後、考えても分からず、聞いた方が早いと思ったのか率直に用を尋ねる。


「……エメラルド」


 それに対してスカーレット殿下は少し間を作り、名前を呼ぶ。

 その“間”に空気が変わったのが、陰から見ても分かる。

 まるでこれから言う言葉を不思議と聞こうと思えるようなその空気に、エメラルドも身長差が大きいので自然と見上げる形でスカーレット殿下の顔を見つめる。

 そして静かに、だが真剣味の帯びた、確実に想いを告げようという意志を感じられる声で。


「――私は、エメラルドが好き」


 飾る事無く、真っ直ぐな視線と言葉で告白の言葉を伝えた。


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