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そういう所だよ


 ミス&ミセス&ミスターコンテストとかいう、よく分からないまま始まり参加する事にはなったが、ヴァイオレットさんの素晴らしきお姿やグレイ達の立派な姿を見る事が出来た後。

 口にはしないがスカーレット殿下を心配したのだろうヴァーミリオン殿下と合流し、コンテストの片付けや騒いでいるメアリーさん周りをどうにかしたり、カナリアにお願いや領主の仕事に戻ってしばらく経った後。


「エメラルドに告白する」

『え゛』


 スカーレット殿下は唐突にそう宣言した。


「……なにを告白し、何故そう思ったのか理由をお聞かせ願いますか」


 コンテストの時から様子がおかしいとは思っていたが、変に触れる事も出来ないし、弟であるヴァーミリオン殿下も同じような感じであったので領主の仕事をこなしつつも様子を見ていた。

 羽子板で遊ぶクリームヒルト達や、アプリコットの家で定期的に行われる掃除を見たり、なんだか見た事のない綺麗な学園女子がカラスバの所在を聞いて来て全速力で教会に走っていったり(後でカラスバの婚約者だと知った)。

 その度に妙な空気は増しているとは思っていたが、ひと段落付いた所での発言だ。まずは理由を聞かねばならない。


「そこは“理由は聞かないけれど、意志を尊重し応援します!”……といった感じに言って、告白するための場を整える、という訳じゃないんだね」

「エメラルドは大切な領民であり友人です。万が一告白が互いに傷を付けるだけだと思えるのならば、俺は全力で止めます。それに、意志を尊重してなんでも受け入れたら、それは寛容でなく思考停止ですから。だから理由をお聞かせ願いますか」

「ふーん……優しいんだね」


 それが優しいかはともかく、俺は目の前に居る友人としてのスカーレット殿下も傷付いて欲しくないから理由を聞く。

 そして理由次第で協力もするし、遠回りに否定もしよう。


「じゃあ理由だね。それでね、ヴァーミリオンもクロも、ヴァイオレット……は良いや。ともかく一先ず私が話し終えるまで、口を挟むのは無しにして貰える?」

「了解しました」

「はい」

「そんじゃね、私は単純に好きが分からなくなった」


 分からなくなった?

 分かったから告白しようと思ったのではなく、分からないから告白する、のだろうか。


「コンテストで色んな子が色んな相手に告白したり、好きだと伝えたり、着飾る相手に見惚れたり。対象を指定せずとも、この気持ちは必ず伝わるモノだ、なんて言っていた子もいた。ついでになんだか“イチャついてんじゃねぇ!”って一発叩きたかった夫婦もいた」


 最後は誰だろう。夫婦だとオーキッドだろうか。審査席で夫婦でイチャついていたし。


「色んな好きの形を見て来たんだけど、コンテストで見たのは殆どは情熱的なものだったよね。けど違うんだよ。私の好きはそうじゃない。そうじゃないの」


 スカーレット殿下は悩ましいように、あるいは今までの自分の行動が“そう”であったが、本当はそれとは違う事をエメラルド……あるいはハクさんにしたかったのだと言っているように思えた。


「私の好きはあくまでも“一緒に居たいというだけの好き”じゃないかなって。綺麗だから相手を求めるとか、性的欲求を満たしあうようなモノじゃない。単純に傍に居て欲しいという……それは他の皆の好きとか愛し合っている姿を見るとより思って……」


 そのように言うスカーレット殿下は、やはりコンテストで自身が出場した時の様にどこか目が濁っていると言うか、今朝の俺に迫った時の焦っているような目であった。


「だから私は告白したいの。貴女と一緒に居たいって。好きという気持ちを隠さずに、私の想いを打ち明けて、これからエメラルドと仲良く居続けるために……!」


 今のスカーレット殿下は強迫観念に迫られている。

 急に告白する気になったのは、色んな“好き”に“あてられた”からなのだろう。

 あてられたからこそ私の中にある好きは本物なのかと悩み、一度整理するために好きを伝えようと思った。

 ……これはこのまま告白させてはならない。どちらも傷付き合う未来しか見えない。


「スカーレット殿下――」

「姉さん。それが姉さんの望みなら俺は止めません」


 俺はどうにかして止めようと声をかけようとすると、被せ遮る形でヴァーミリオン殿下が告げる。

 俺はなにを言いだすのかと止めようとしたが、ヴァーミリオン殿下の「ここは任せて欲しい」という表情に言葉を止めた。

 俺が言葉を止めたのは、今のヴァーミリオン殿下は弟として姉をどうにかしたいと願うような、いつもと違う表情だったからだ。


「俺は場を整えましょう。クロ子爵かヴァイオレットがエメラルドを呼び、姉さんは告白する。ただ他に誰も居ない場所でお願いします」

「それは……失敗した時に噂が流れないようにするため?」

「王族たるものが公衆の面前という場を作り、周囲の圧力によって告白の返事を左右させるような卑怯な真似をさせないためです」


 その時ぼそっとヴァイオレットさんが「メアリーには公衆の面前で告白しているような……」と言った気がしたが気のせいだろう。だけど思ってはいたと思う。


「……うん、そうだね。周囲の圧力はやめたいかな」

「ですが、俺の我が儘ですが、呼び出す以上はこの場に居る俺達三名は告白の場を見えない場所で見守らせて頂きます」

「うん? それは構わないけど……見守りはするんだ」

「構いませんか?」

「う、うん、構わないけど……」


 俺も両者共心配だから見守るつもりではあったが……わざわざ言うほどの事なのだろうか。


「なんなら俺も同伴しますが」

「弟同伴の告白とかやめて」

「ではルーシュ兄さんを呼びますか」

「兄なら良いという訳では無いよ」

「いえ、ルーシュ兄さんは再会して数秒で告白した猛者。ならば告白のノウハウをご教授願えると思うのです!」

「役に立たないんじゃないかなー。アレは特殊な例だよ」

「ではクロ子爵に教わりますか?」


 おいこら俺に飛び火さすな。


「え、でもクロ君に教わると、気が付けば菫色髪の女の子を口説くような告白になりそうじゃない?」

「そうですね、良く考えればそうとしかならない気がしますね。俺とした事が互いが互いの事しか魅力的な異性として語らないような夫婦でした」

「だよねー」


 喧嘩売ってんのかこの姉弟。

 事実だから否定はしないけど。


「というか告白の言葉は大丈夫だよ。場さえ出来れば私は大丈夫!」

「本当ですか?」

「そりゃね! 場さえあれば告白の言葉なんて自ずと出て来るモノだよ!」

「成程!」


 成程じゃ無いよ。それただの行きあたりばったりじゃないか。

 ……まぁそういう場で自ずと出て来るのは、俺は実際そうであったの否定はしないが。

 しかしこれは……


「では場を用意しますか。準備はよろしいのですか姉さん!」

「うーん、私は大丈夫だけど……クロ君は私の告白認めるの? それとも止めるの?」

「……俺もヴァーミリオン殿下と同意見です。付け加えるのなら……告白に成功したからって、その場で襲おうとしないでくださいね?」

「私をなんだと思ってるの!? しないからね! ……多分」

「姉さん、そこは日和らないで欲しかったです」


 ……うん、先程のスカーレット殿下よりは肩の力が抜けているようだ。

 これなら多分エメラルドも頭から否定はしないだろう。

 先程の状態のスカーレット殿下は、エメラルドにとっての一番嫌いなタイプの動きだったからこれならあるいは……


「では、俺達はエメラルドを呼んできます。殿下達は……そうですね、この時間帯ならあの辺りが――」

「あ、その前にクロ君。一つ良い?」

「はい? なんでしょうか」

「私がエメラルドに告白をしようとした一番の理由はね、クロ君、君なの」

「え、俺ですか? ……何故でしょう?」


 俺が理由……それはなんだろうか。

 俺はローズ殿下に頼まれたのもあるが、スカーレット殿下の気を使いつつも領主として働いていただけだ。

 ヴァーミリオン殿下も一緒に色々としてくれはしたが、特に変な事はなにもしていないのだが……


「いや、コンテストが終わった後ずっとなにをしても、ヴァイオレットとほぼ恋人繋ぎで行動しているんだよ。しかもヴァイオレットは照れてるし」

「仕様が無いじゃないですか。こうしていないとヴァイオレットさん逃げるんですもの」

「う……」


 俺の右腕は腰に回し、俺の左手とヴァイオレットさんの左手を繋いでいる状態でいる中、俺の言葉にヴァイオレットさんは何故か恥ずかしそうに俯いた。

 ヴァイオレットさんは今日はこうしている事が多いな。


「うん、じゃあ一応聞くけど、なんで逃がさないようにしているの?」

「折角のお揃いの服である浴衣(わふく)を着れているんですよ。その嬉しさを逃さないようにするためです。それにこれは何度かシキの皆に聞かれて答えていると思うんですが」


 言葉は若干違うが、普段とは違う装いに、ただでさえ魅力的なヴァイオレットさんに新たな魅力が追加された。そしてその新たな魅力を生み出した服と同じ種類の服を自身も着れている事に何故だか特別感を感じ、一緒に歩きたくなった。

 というかそれらを踏まえても愛する大和撫子な妻と手を繋いで歩きたかったんだ。そんな欲望が自然と湧いて出たのだ。だからお綺麗な手を握ったのである。


「うん、そして答える度にヴァイオレットは声にならない声を出して、恥ずかしそうに俯くよね」

「そうですね。俺的にはこうして俺の妻はこんなにも素晴らしいと皆に自慢したいくらい着こなせているんですから、恥ずかしがらずとも堂々としてればヴァイオレットさんの美しさはより伝わると思ってはいるのですが」

「うん、そういう所だよ」


 なにがそういう所なのだろう。


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