選ぶという事(:偽)
View.メアリー
「……ふぅ、さっぱりしました」
「私もー。メアリー、洗うの上手いですね?」
「そうですか?」
赤い液体を被った後、カナリアと一緒にクロさんの家のお風呂を勝手に借りて洗い流しました。
洗いっこ、というのに少し憧れていたのでカナリアの綺麗な髪や背中を洗ったのですが、とても楽しく、満足して貰えたようです。
「髪に流れる魔力がいつもより喜んでいますからね。とてもよく仕上がっています!」
「そういうの分かるんですね?」
「ええ、分かりますよ。魔力って喜怒哀楽がありますから」
そこはエルフだからね! じゃないんですね。むしろカナリアにとっては普通過ぎて特別と思っていない感じなんでしょうか。
髪の良さや長さは魔力に関係しているのは知っていますが、質が良いと魔力が喜んで魔法が上手く使える……のでしょうか。
「でも本当にごめんなさい。あの服を駄目にしちゃって……」
「大丈夫ですよ。頂いたモノですし、もう着る事も無いでしょうから」
「え、あの服で誘惑したりしないんです? ああいった清楚と神秘を装った姿で、妖艶さを出して裏で迫ると背徳感も相まって男はイチコロだぜ! 的な感じでしないんです?」
「しません」
今の所する予定は無いです。というか教会関係者の祭事用の服で“そういう事”をするのは気が引けます。
「まぁメアリーは普通に誘うだけでも男は寄ってきそうですからねー。わざわざ着飾る必要は無いですか」
「そういう事では無く……私にはまだ早いと思うんです」
「え、でも成人してますよね」
「成人してますが学園生なので」
「そうですか……あ、確かに学園生のそれはクロと一緒に居た時もあまり良いとは言われてませんでしたね」
この世界では私くらいの年齢でも結婚、出産を経験しているのはそう珍しい事ではありませんが……私にはどうしても早いという思いが大きいです。
対象年齢が上な方な漫画やゲームだと、年齢が伏字なだけで私程度の年齢でも割と経験も多かったりしますが……
「大体、そう言うカナリアだって綺麗なんですから、着飾らなくてもいけるんじゃないですか」
「おお、ありがとうございます。そう言って貰えると嬉しいよ!」
すぐに行けるというのはこの場の話に合わせたものですが、これはお世辞などではなく、カナリアは充分綺麗と言える外見です。コンテストでもそうでしたし、先程のお風呂でも物語に出て来る美形エルフというものをそのまま表した、というような外見ですからね、カナリアは。
コンテストでも票を集めていたので、多分狙っている人も多いと思うのですが。
「でも、私男性はそんなに得意じゃないんです」
「え、そうなんですか?」
「うん。というか正直言うと気の強い女性も苦手。メアリーとかクリームヒルトは優しいから大丈夫だけど……あ、ヴァイオレットもね」
それは意外です。普段明るく誰とでも接する印象があるので、クリームヒルトと同じタイプで誰とでも仲良くなれると思っていたのですが……
「私、従者時代ヘマを多くして良く叱られていたので。傷も多くつけられましたし、その反動で一定以上力を加えられそうになると怖がってしまうんです。……まぁこけたりした時は大丈夫なんですが」
「それは……」
……そういえば先程背中を流す時も、ちょっと逃げそうになっていましたね。私はくすぐったかったのかと思い、次は大丈夫と声をかけて優しく洗ったのでどうにかなりましたが……
「すみません、変な話をして。ですが先程見た通り傷は癒えてるんで大丈夫だよ! 実は私は気の強い男の子が苦手な乙女と思ってくれて良いんですよ!」
カナリアの言う通り、下手に気を使うよりは今まで通りに接した方が良いのでしょう。
気を使われた方がカナリアにとっては――
「という訳で私が身体を許せるとしたら、まぁ相手に断られるでしょうがクロとか……アイボリーですよ。それに実際ブラック様……クロのお父さんの命令で手錠で縛って襲おうとしましたし」
「え、本当ですか!?」
「うん。あの時はついに私も……的な感じだったけど、今なら男性の中では怖くないですし、まだ……――はっ! これは浮気に……!?」
「何故です」
「妄想や未遂とはいえ、クロの純潔を奪おうとした私に対して、ヴァイオレットは“浮気者! 私より先に奪おうとするなんて!”と罵られるモノかと……!」
「罵られないかと思いますよ」
「え、そうなの? 未遂とはいえ私は裸を見せましたし、クロの半裸も見ましたし浮気になりません?」
「それで浮気になったらシュバルツさんは多方面浮気製造女になりますよ」
「…………はっ、確かに!? 私は浮気をしてた!?」
「カナリアは誰とも付き合っていませんよね」
「……はっ!?」
「“はっ!?”が多いですね」
「エルフだからね」
「エルフ関係ないかと思います」
……はい、気を使わない方が良いですね、これ。
というか明るくて放っておけない行動をする女性なので、接している内に忘れてしまいそうです。
というか冗談もあるでしょうが、クロさんとカナリアは仲が良いのですね。許す云々を普通に言う辺り好感度が高いと言いますか……ヴァイオレットと結婚していなければ、カナリアと結婚していたかもしれませんね。あるいはスカイでしょうか。
「でもさ、メアリー。早いとは言っていたけど、誰と付き合うとかは考えたのです?」
「え。……ええと、それは……」
「その様子じゃまだみたいですね」
唐突に最近私に良く言われる事をカナリアにも言われ、つい言葉が詰まってしまいます。
同時に妙に鼓動が早くなりますが……これは先程までお風呂に入っていたからですね、そうに違いありません。
「まぁ、特定の誰かを決めると空気が悪くなるって事は有りますからね。むしろ同じ女性を狙っているのに険悪になっていない今が奇跡という感じはしますが」
……それもあります。
好きという感情を受けも断りもせず、今の空気を壊すのが怖いというのもあります。デモデモダッテで我が儘を言っているのもあります。
ですが……
「……今夜、彼らと話し合う事があるんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ。その話し合いで、今の空気が壊れるかもしれません。彼らも私も嫌うかもしれません」
むしろ嫌う……壊れる可能性が高いです。一度上手く行ったとはいえ、それが他の皆さんにも当てはまるとは限りません。
……ですが、クロさんも今の夫婦仲が壊れるかもしれない覚悟を決めた以上、私も覚悟を決めなければなりません。
「……どちらにしろやる事を成し遂げたら、私は選び取りますよ」
「……そうですか」
覚悟の結果、今後がどうなろうとも。
私は選び取ってみせると心に誓ったのです。
「……一つ、よろしいでしょうか」
「どうされました?」
「貴女達がなにを話すかは分かりませんが……クロを悲しませる事だけはしないでくださいね?」
「…………はい」
話し合いの場にクロさんが居るとは一言も言っていないのですが、何故かクロさんが居る事を分かっているかのように、カナリアは私にお願いしてきました。
……この世界で一番クロさんと共に過ごしてきたからなのでしょうか。通じ合っている感じがして、羨ましく思いました。
備考 カナリアの喋り方
カナリアは従者時代の癖で基本敬語で話そうとしているのと、従者じゃなくなって素で話そうとしているのが混在している感じです。
おまけ カナリアルート~告白~(かなり簡略化)
『誕生日おめでとう、クロ(様)(さん)!』
「祝ってくれてありがとう、皆。でも俺も二十一か……」
「貴族でも行き遅れになったんじゃない?」
「そりゃそうだが喧しいぞ、シアン。というか俺と結婚してくれる女が居ないだろう。貴族間では評判悪いし」
「そうだけどさ。別に貴族にこだわらなければ誰かいるんじゃない?」
「そうかもしれんが……」
「あ、じゃあクロ、私と結婚する?」
「お、リアちゃんが告白した! クロはどうする!?」
「良いぞ」
『!?』
「そっかー、これからよろしく」
「ああ、よろしく」
『!!?』
カナリアルート告白編、完。
個別ルートに入ります。




