迷惑かつ面倒_2(:紺)
View.シアン
私とリムちゃんはその問いをかけた後、なにをされても良いように、再び戦闘態勢へと戻った。
「貴方達は誰? 目的は?」
白い髪に翠の目。高めの身長に、神父様がいつも着られている服を着た、人の良さそうな神父様によく似た男。
黒い髪に碧い目。身嗜みはまとまっているが、偶に乱雑な部分が見受けられるクロとよく似た男。
似ているだけで全く違う彼らは、私達の問いに困ったような表情で居た。
「――返答によっては、容赦はしない」
なにが目的かは分からない。
例えば変装して本物と偽物が見分けられるかを試したといったイタズラなら笑って終わらせる。
だがもし悪意を持って私達に接してきたのならば、攻撃をする。――そして、入れ替わるために本物の神父様とクロに害を及ぼしていたのならば、容赦をする余地は一切ない。
「どうしたの……? 彼らって……神父様と……領主さんじゃ……?」
「そうだぞシアン。なにを言って――」
「その声で神父様を騙って私を呼ぶな。加減が出来なくなる」
偽物の神父様はあくまでも装い私を呼ぶが、その反応に腹が立ち昔のような口調に戻ってしまう。もし神父様が近くで見ていたら恥ずかしい限りだ。
だがそれよりもこの偽物がスノーホワイト・ナイトを騙っている事が許せない。
「クリームヒルト、お前もなにか言ってやってくれ――」
「『ここまで来てバレないと思っているその思考はどうにかしたほうが良いよ』」
「……? なにを言っている?」
「黒兄を語るんなら、今の意味位読み取ってよ」
笑いもしないリムちゃんが、恐らく日本語を話して偽クロの反応を伺う。
そして今の会話で半信半疑で疑っていたリオン君が、明確に目の前に居る二名が本物でないと気付き距離をとってティー殿下とエフちゃんを守るように移動する。
「……ふむ、なるほど。身近に居る者は騙せない、か」
流石にこれ以上の騙りは無駄だと思ったのか、声はそのまま、口調を変えた偽物達は体勢を変えて、普段の両者はあまりしない腕組みポーズをする(なおコットちゃんは杖無しの時よくする)。
この状況でその態勢とは自信の表れなのか、単純に馬鹿なのか。ともかく私達を試す様な行動と言葉を吐く彼らは何者だ。何故神父様とクロの格好や声をしている。
「それよりもお前らはシスター・シアンの問いに答えろ。答えないのなら王族を狙った犯罪と見做し即時拘束する」
魔法の展開準備をしながらと同時に、背後などからの奇襲にも気を払いながらリオン君は問いかける。
私もこの返答次第ではすぐに動けるようにしておかないといけない。
「ああはいはい目的ね」
「目的と言われる事があるとすれば」
「あると答えざるを得ない」
「別に国家転覆を目的とした」
「王族暗殺を企てている訳でもなく」
「他国に政治に干渉した思惑がある訳でもなく」
「お前達とは違う王子に加担している訳でもない」
「あくまでもお前ら王族が居たのは偶然とでも」
「思ってくれればいい」
「信じるか」
「信じないかは」
『お前らの自由だがね』
独りが話せば十分な言葉を、両者が一つの台詞かの様に続けざま交互に流れるように言う。
……なんだ、この気味悪さは。まるで独りが別の声を使って話しているかのようだ。そして王族を“お前ら”と言う辺り、身分に対して気にもしていない輩、という事は分かる。
「……では、なにが目的だ」
『興味があったから』
そして同じような感情を抱いていそうなリオン君が問うと、声を揃えて答えた。ほぼ同時ではなく、全くの同時。本当に独りが喋っているかのようだ
「……愉快犯か」
「そう思ってくれて良いよ」
「なにせ私は相対する相手に」
「迷惑だとか」
「面倒と言われるからね」
「自覚がある分、より質が悪いな」
……声は偽物と分かっても同じと思えるだけに、トーンと口調が気味が悪い。
今すぐその口が開かない様に閉ざしてしまいたい。恐らくリムちゃんもそう思って――
「…………迷惑かつ面倒?」
だけどリムちゃんの様子を視線で確認すると、偽物達の言葉に疑問の表情を浮かべていた。まるでなにかしら引っかかったような感じが――
「まぁここでの目的は達成出来たし、次の所に行こうかな」
「逃がすと思うか?」
しかしその台詞に疑問を打ち消し、私達は逃がすまいと距離を詰めようとする。
今だに困惑気味のエフちゃんも含め、取り押さえようとするが……
「逃がして貰おうかな? 偽物だとは分かるだろうけど、好きな相手や友達と同じ顔の相手を攻撃するのは躊躇われるだろう?」
「例えば――こんな風にね」
「――っ!」
取り押さえようとした瞬間、顔を手で覆った偽神父様は、すぐに覆っていた手を放し――メアリーちゃんの顔へと変えていた。更には途中で声もメアリーちゃんと同じものになる。
「リオン君、攻撃するのならば私の顔を傷つけます。偽物でも見たくないでしょう? ああ、それとも裸になりましょうか。胸も下もほぼ同じだと思いますよ。ほら、見たくないですか?」
「貴様は……!」
「ああ、そういえば皆様は異性の身体に耐性がないんでしたね。裸になった方が視線をやり辛くなって逃げやすいかもしれません」
さらには身体も神父様からメアリーちゃんの身体へと変えていく。……く、今目の前で変わったにも関わらず、メアリーちゃんがそこに居る事に違和感が持てない。
……だけどこれは私にとってはチャンスでもある。悪いけど神父様の姿よりは、メアリーちゃんの姿の方が私は動きやすい。
偽クロの方はリオン君かティー殿下に任せて、私は偽メアリーちゃんを――
「では、逃げようか」
「すぐに逃げ――」
「だらっしゃぁああああああい!!」
『っ!?』
捕まえようと思っていると、リムちゃんが大声と共に迷わず偽クロの顔面目掛けて拳を放った。
「危ないですっ!?」
「逃がすかぁ! 【爆弾・連弾・連発】!」
「うお、殺す気ですか!?」
しかし拳は寸前で避けられる。そしてすれ違い様にリムちゃんはいつの間にか持っていた爆弾を躊躇いなく投げつけた。なんというか、完全に仕留めにかかっている。
私達も状況にハッとし、加勢しようかと思うのだが――
「【トラベルウィング】!」
「ああ、逃げるなんて卑怯な! というかその道具私も欲しい!」
私達が加勢する寸前に、手を叩いた偽物達は奇妙な翼が生え、一瞬で空に駆け上がりそのまま光となって何処かへ消えていった。
……え、なにがあったの?
「うわぁあああああああ……!」
「リムちゃん!?」
「く、クリームヒルトさん、どうされましたか!?」
唐突な状況に付いていけず、ポカーンとしていると、唸るように漏れ出たリムちゃんの声に私達は驚き視線を向ける。
いつも明るく、何処かわざとらしいほどのリアクションをとるリムちゃんから聞いた事のない呻き声である。
口では面倒とは言っても本気では思わず、明るく解決しようとするリムちゃんがまるで本気で面倒な事が起きたと言わんばかりのリアクションだ。
「先に言っておくね、ごめん」
「何故クリームヒルトが謝る。お前がなにかやった訳でもあるまい」
「うん、私がなにかやった訳じゃないんだけど、とにかくごめん。でも原因の一旦は私にもあると言うか、そうとしか考えられないと言うか……」
「ハッキリと言え」
歯切れの悪い言葉に私達は首をかしげ、リオン君は追及をする。
だがなにかやった訳でも無いが、原因があるとなると……一連の事はリムちゃんの知っている相手が、リムちゃんを対象になにかをやった……という所辺りだろうか。さっきもそれっぽい事言っていたし。
「あるいはメアリーちゃん相手かもしれないけどね。でもあの人の事だから、両方だと思うんだ」
「メアリーも?」
「それに人……ですか。どのような人なのです?」
私達の問いにリムちゃんは「そうだね……」と暗く考えると、答えを返した。
「うん。一言で言うなら――迷惑な変態」
……リムちゃんがそう表現するって、相当な相手じゃなかろうか。




