特に関係無いはずの夢(:朱)
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ある日の夜。俺は夢を見た。
久方ぶりに帰って来たスカーレット姉さんの対応。同じく帰って来たルーシュ兄さんや、カーマイン兄さんとの連絡。そして兄と姉達に対する、ローズ姉さんからの説教。反論しようとするたびに、正論で封殺される姿はまさに昔から続く力関係を表していた。俺も行動に関して目が余るとローズ姉さんから説教は受けたが、相手を想うのならば務めを最後まで果たせと言われた。そんな夜。
連日続く年末年始の行事の王族としての責務。したくもない挨拶。嘘しかない称賛の言葉を浴び続け。メアリーが作った方が遥かに美味い料理を感想を言うためだけに食べ。まともに気の抜く時など殆ど無い日を過ごし、部屋に戻るといつのまにか寝てしまったようだ。
――明晰夢、か
明晰夢にしては俺の知りえない場所だ。
見た事の無い物が聞いたことの無い音を発し、奇妙な明滅を繰り返している。それらはいわゆる失われし古代技術というやつだろうか。となると、古代技術の情報を得て組み上げた記憶の羅列が、俺の妄想を得て使用されていた歴史として組み上げているのかもしれない。
――メアリーがいれば良いモノを、何故こうも都合よくはいかないのか。
しかし夢に文句を言っても仕方あるまい。それよりも俺としては、折角の睡眠時間を明晰夢という睡眠の感覚が薄れるモノで剥奪される方が重要だ。早く目を覚ましてしまいたいと思い、意識を覚醒へと集中させる。
『――お嬢さんの彩瀬・白さんは、何故生きているのかも不思議な状態です』
しかし、夢に出て来た、見た事の無い医者のような服装をした男の言葉が妙に気になった。少なくとも覚醒させようとしていた意識をやめようと思うほどには、その名前と言葉が気になったのだ。
『彼女の身体は病魔の巣窟であり、我々が確認できただけでも数十種類の死病に苛まれています。あれでは数秒後に亡くなられても不思議でない程には……』
その医者のような男は、シロと呼ばれた少女の親らしき男女に説明をする。
彼女の感覚は生きており、我々で言う痛いという感覚に支配されている事。しかし彼女はそれを普通だと認識していた事。味を知らずに育ち、それすらも普通と思っていた事。
なによりもそれが彼女の認識では生まれてから続いていた事で、今まで普通に社会で過ごしていた事が信じられないと、医者のような男は言っていた。
『……そうですか。そのような生活を、娘は送っていたのですね』
そしてシロの親らしき男女は、医者の言う事が事実だ言う事を認知すると。
『ならば仕方ありません。娘には一人だけ家政婦を付けて、余生を過ごしてもらいましょう。延命も治療も必要ありません』
まるで興味が無くなったかのように、あっさりと娘を諦めた。
信じられないものを見るような医者に対し、シロの親は適当な場所を探さなくては、と医者の言葉を無視していた。
『――――』
そして近くに居た誰かが、親にも医者にも気づかれないように、去っていった。
十歳程度の黒い髪に黒い眼の、小さな少女であった。
――メアリーに、似ている……?
不思議とそう感じた所で、唐突に場所は変わり、ベッドの上でなにか奇妙な失われし古代技術を弄っている少女と、少女に仕える侍女のような女が居るとある一室へと、場所は変わった。
『――さん、はじめまして。私なんかの為にわざわざ来ていただきありがとうございます。短い間とは思いますが、よろしくお願いします』
『……はい、白様。誠心誠意、お仕えいたしますのでよろしくお願いします』
『はい。最期までどうかよろしくお願いしますね』
『……では、早速家の掃除を始めさせて頂きます。なにかあれば、お手元の電話をお取りいただければ、私に繋がりますので』
『はい。あ、その前に頼みたい事があるのですが、良いですか?』
『構いませんよ。それと、私は白様に仕えておりますので、確認せずとも命令してください』
『はぁ、分かりました? では、欲しいものがあるのですが』
『どのようなものでしょうか』
『少女漫画と乙女ゲームをお願いします。あと男性向けのノベルゲームや漫画も少々』
『……はい?』
『――さん。女性にとっての初めては痛いって本当でしょうか?』
『ぶっ!? と、突然なにをお聞きになさるのですか白様!』
『いえ、この少女漫画に描いてあったのです。場合によっては痛くて続行不可能って書いてあるもので……経験豊富な貴女なら知っているかと思いまして』
『いや、まぁ確かに? 私だって十代の頃はモテていましたし? 経験が無い訳では無い事も無いですが、陸上で色々ありましてね。いつの間にか……』
『どうなんですか?』
『……人による、としか。初めから大丈夫な人もいるようなので』
『そうなんですね……初めてのゲートボールは手にマメが出来て痛いんですね』
『待ってください、それ本当に少女漫画ですか?』
『……白様。私の勘違いでなければ、今プレイされているのは乙女ゲーム、と呼ばれるものですよね?』
『そうですね』
『ですが、今画面に出ているのはなんでしょうか』
『メイン攻略対象が乗るロボットです。攻略対象が敵国が所有する戦艦などを迎撃するために必要なロボットで、中に乗り込んで戦っています。ほら、敵戦艦のHPを削り切ったら勝利です――なんですと、増援ですか!? くっ、こちらの戦力は残り攻略対象達しか居ないというのに……!』
『本当に乙女ゲームですか!? 内容的に男性向けゲームですよね!?』
『勿論そうですよ。人気ゲームだそうです。つまり世間一般の乙女とはロボに興奮するのですね! 勉強になります!』
『いえ、居るには居るでしょうけど、少数派かと……』
『いつか私も実物見れたら良いですねぇ……』
『…………』
『白様。私の勘違いでなければ、今プレイされているのはこの間買いました、RPG要素が付いた珍しい乙女ゲームですよね?』
『そうですね』
『ですが、私には今、悪役の令嬢キャラが主人公と攻略対象を圧倒的な力で蹂躙しているように見えるのですが。ボスにでも乗っ取られて覚醒したんですか?』
『いえ、元より最強の潜在能力を有していたらしく、正常な判断を以て主人公と勝負しています』
『……凄いゲームですね。攻略対象を取られて取り返しに来たのでしょうか……』
『いえ、単純に“貴様に国を背負う覚悟はあるのか! 私が国を去る前にそれを証明して見せよ!”と、主人公達の実力を試しています。ちなみに裏ボスで、世界を破滅に導くラスボスより強くて、カンストステータスでようやく勝負できる土台が出来ます』
『もうこのキャラがラスボス倒せば良いんじゃないですかね』
『でも、苦難を超えて強くなる主人公は良いですよ。感動します。……私も、ここまでとはいかずとも、成長を感じられたら良かったのになぁ……』
『…………』
『……むぅ』
『どうされました、白様?』
『いえ、油断するとすぐバッドエンドになる選択肢が多い乙女ゲームをやっているのですが……少し選択肢で悩みまして。あ、どれが正解だと思いますか?』
『え、私が答えて良いんですか?』
『はい。状況は強大なモンスターが現れてピンチで、選択肢は“爆弾を投げる”と“新しい道具を作って後ろからグサリ”と“一緒にコンビで殴りにかかる”という三択です』
『凄い選択肢ですね!? 正解はあるんですか!?』
『でも面白いんですよこの乙女ゲーム! 略称はカサス、って言うんですけどね』
『船〇英一郎さんが犯人を崖に追い詰めそうな略称ですね』
『ストーリーが面白いんです! 絵師さんも声優さんも勿論良いですし、色々と魅力的なんですよ! ああ、私も魔法とか使いたいですね。そしてこんな素敵な恋を育んで、皆を幸せにしたいです』
『いえ、こんな選択肢が出る世界はちょっと……』
『ですが、私も皆を幸せに……』
『…………』
『私の人生って、なんなのでしょうね』
『…………』
『ごめんなさい、私が意地汚く長く生きたせいで、貴女にも迷惑を掛けてしまいました。本当でしたら、すぐに私の面倒なんて解放されたはずなのに』
『……いえ、白様と過ごす七年間は、楽しいものです。他に相手がいないとは言え、私のような不愛想な女相手にも話してくれましたし、色々と祝ってもくれましたから』
『ふふ、ありがとう。貴女にそう言って貰えたのならば、例え嘘でも嬉しいです』
『本音です。だから弱気になられないでくださいね。……私は、ご夕食の準備をします。今日は白様のお誕生日ですから、豪勢にしますね』
『ふふ、食べられませんけどね』
『……少しでも雰囲気を楽しんで頂ければ』
『ええ、ありがとう。その心遣いが嬉しいです…………ああ、そうです』
『はい、どうされましたか?』
『いつもありがとう』
『……? はい、どういたしまして。では、私は準備をしにいきますね』
『ええ、お願いします。………………本当にありがとうございます、淡黄さん。本当に……ありが……とう……』
時間などまるで関係無い、少女と女性の会話が流れていって――
「――くっ!」
と、俺は睡眠をとっていた部屋のベッドで目を覚ました。
周囲には誰も居らず、部屋の灯も窓から差し込む光も少ない、夜の部屋。
どうやら長い夢を、見ていたようである。内容はあまり思い出せないが特別に気にする事でも無いだろう。
どうせ意味の無い夢なのだから。
「よし、もう一度寝て今度はメアリーの夢を見よう」
なにより、どうでもいいだろう夢より、メアリー成分を補いたい。




