第10話 「葛藤」
この小説を読んでくださる方に、大きな感謝をお贈りします。
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そもそも、なぜ白血病など血液の病気の患者さんに骨髄を移植するかと言うと、骨髄の中には白血球や赤血球、血小板などの元になる細胞「造血幹細胞」が入っているからだ。
骨髄を健康な方のものと置き換えることで、患者さんは血液細胞を健康に造りだせるようになる。
この「造血幹細胞」を得ることが出来るものは3つあり、1つは骨髄、次が胎盤やへその緒の中の血液、最後が抹消血である。
抹消血とは、僕らの体の中を流れている、いわゆる血液の事で、通常これには造血幹細胞は含まれないが「G-CSF」という血中の白血球を増やす薬を投与する事で、血液から造血幹細胞を得られるようになる。この状態の血液を取り、血液成分分離装置にかけ造血幹細胞だけ取り出し、ドナーの体内に戻す。
これを抹消血幹細胞採取と言う。
患者さんに造血幹細胞を送るのはどの方法で採取されたものでも点滴で行われるが、抹消血幹細胞移植では拒絶反応(GVHD)が強く現れると言う。
GVHDが現れると、患者さんの体内の癌細胞を攻撃して消滅させ、再発の可能性を減らしてくれるので、悪いことばかりではないが、幼い患者さんや再生不良性貧血の方には抹消血幹細胞移植より骨髄移植が選ばれる傾向があると資料にはあった。
骨髄を提供する際は全身麻酔をし、うつ伏せの状態で、腸骨という骨盤の骨にボールペン程の太さの針の注射を数十から数百回刺し、骨髄液を採取する。
注射は同じ箇所に何度もするので、跡はほとんど残らないと言う。
全身麻酔の間の呼吸のコントロールと尿量をチェックし血液循環や腎機能を把握するために、喉と尿道からカテーテルという柔らかい管を入れる。
骨髄採取のための入院は通常3泊4日ほどで、ドナーの手術の痛みは1週間ほどで取れ、日常生活に戻れるらしい。
僕はこれらの話を聞いて、不安と恐れが湧いてくることを抑えきれなかったが、病気の患者さんの方がずっと痛くて怖いに決まっているから、確りと覚悟を決め、敢えて痛みや麻酔による合併症などのリスクから目を逸らし、誰かを救うのだ、むっくんの命のような悲しみを少しでも減らすのだ、と言う使命感に意識をフォーカスするように努めた。
自分は正しいことをしている、という思いと同時に、恐怖の反動だろうか、自らをヒーロー視し始めている自分を感じ、僕はたびたびその慢心を打ち消すために頭を振った。
最終同意から2週間ほどで採取前健康診断の為に来院願いますとの通知を骨髄バンクから頂いた。
それは移植が2ヶ月以内に近づいている事を意味していた。




