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10日目② 11日目①

お待たせ、待った?

 さっきまでの楽しい雰囲気から一転、今この席には張り詰めた空気が漂っている。私は冷や汗をかいていて、先輩はいつもの笑顔ではなく、初めて見るような表情をしている。

「それで、話って?」

 先輩が切り出す。その声色は私の気持ちに反している。

「何と言ったらいいかわからないので、単刀直入に言います──」


「私は先輩に偽名を使っていました。私の本当の名前は酒々井凪沙です。嘘を吐いていてごめんなさい」


 一瞬のようにも長い時間にも感じられる沈黙が流れる。おそらく先輩がこの情報を処理するのにかかった時間だろう。

「そう、だったんだ。理由を聞いても…?」

「はい、もちろんです」

 私は先輩への第一印象のこと、今の先輩へ抱いている印象について話した。私が先輩に偽名を使った理由に関してはそれがすべてのため、それ以上語ることはない。

「始めはそんな風に思われてたんだ…」

「始めだけです。ですが、すぐに今と同じようないい印象を抱くようになりました」

 こんな弁明をしてどうなるというのだ。見苦しいにも程がある。

「それはいいの、うん。でも、やっぱり名前を隠されてたってのはショックだな…」

「本当にすみません」

 空気のせいだろうか、とても喉が渇く。飲んでいる場合ではないが、水、飲まずにはいられない。

「ちょっと、ごめん…整理する時間がいる。続きはまたにしない?」

 もちろんです、と言いかける。しかしそうしてしまうとより深く亀裂が入ってしまう気がした。それも修復困難な亀裂が。

 先輩はもう席を立っている。先輩が頼んだ飲み物のお金も置いてある。だが、逃がすわけにはいかない。私は今日、この場で完結させるとショッピングモールからの移動中に誓ったのだ。

「待ってください、お願いします。こんな重い話を引きずりたくないんです。先輩とぎくしゃくしたまま日々を過ごしたくないんですっ…!」

 まるで駄々をこねる子供のようじゃないか。それに理由も先輩のことはまったく考えていない、エゴの塊のような理由で引き留めようとしている。

 先輩が振りかえる──が、感情を読み取る間に、向こうを向いて、歩き出してしまう。

 ああ、先輩が出て行ってしまった。

 追いかけようかとも思ったが、先輩にかけてしまった迷惑を今更考えてしまい、足が動いてくれなかった。


   ☆☆☆


 週が明けてしまった。日曜日は何もやる気が起きず、一日を無下に過ごしてしまった。しかし先輩への禊の時間だと思えば意義があったとも言えるだろう。

「凪沙、どうしたの?さっきから顔色悪いよ?」

 陽華が心配してくれる。この優しさが心に沁みわたる。

 ちなみに、今日図書室へは行ったが先輩が来なかったため、この前の話は出来ずにいる。

「なんでもないよ。昨日遅くまで起きてたせいだと思うから気にしないで」

「そう…。何してたのか知らないけど早く寝たほうがいいよ、せっかくのかわいいお顔が台無しになっちゃう」

「そうだね、今日は早めに寝るよ」

「かわいい、って言ったのに今日は何も反論がないね。ようやく己の顔が他者にどう思われるのかを認めて来たってことかな」

 陽華の話に適当に返事をしてしまった。陽華の言っていることが頭に入ってこないとは、私はもう本当にだめなのかもしれない。

「ねえ、今からさ、私の家来ない?」

「え?なんで?」

 本当になんでだ?ちょっと前に陽華の家には行ったばかりなのに。

「今日両親が帰ってくるの遅くなるらしくてさ、暇なんだよね。だから、凪沙が良ければ一緒に時間つぶしてほしいなぁ、って」

「まあ、陽華がいいなら私はいいけど」

先輩の件について考えようと思っていたが、陽華との仲も先輩との仲と同じぐらい大切だ。


   ☆☆☆


「ようこそ我が家へ。さあ、飲み物をどうぞ」

 安定の謎ザクロジュース。不思議なコイツを飲み、一旦陽華に集中しよう。

「──はぁ。で、なんかあった?」

 もしかしたらとは思っていが、やはり勘づかれていた。家に招いたのはこれが狙いだろう。

「うん…」

 そういうと、陽華は席を立ち電気を消した。そしてどこからともなく勉強するときに使うようなライトを私と陽華の間にセットした。

「詳しい話をゲロっちゃいなよ」

 陽華の口調といいライトといいカツ丼でも出てきそうだ。陽華、こういうの好きだったのかな。知らなかった。

「先輩と遊びに行った先で偽名使ってたこと先輩に言ったの。そしたら先輩帰っちゃった」

「ふーん。怒らせちゃったんだ」

「うん」

「理由は言ったの?」

「言った。けど、眉唾にもならなかったと思う」

「それはどうだろ。その先輩のことは知らないけど、凪沙から少なからず好意を伝えられて嬉しくない人はいないと思うけど」

 それは主観的すぎやしないだろうか

「なんで、そのとき伝えようと思ったの?私目線、当分伝えそうにないと思ってたんだけど」

「それは、ほら、前日に陽華に煽られたでしょ?それがジワジワと…」

「あー、アレのせいか。余計なお世話だった?」

「そんなことはない。絶対に」

「前座はここまでにして、凪沙はどうしたいの?」

 お付き合いをして色々シたい。というのは曝け出しすぎる。なにか包むモノが必要だ。

「前みたいな間柄に戻りたい」

 三重ぐらいに包んでそこから滲み出た部分だけを上手く伝えられた。

「じゃ、今から先輩に電話しよう」

 電話ね、マホマホ。──ふぇ?

「ちょっと待って。ここは人間関係のスペシャリスト、陽華先生の有難い簡単な人間関係修復講習じゃないの!?」

「なにを甘えたことを言い出しますかこの乙女は。悪いのはどう考えても凪沙、ならすることは一つでしょうよ」

「それはそうだけどさ…」

「わかればよろしい」


 流れる着信音。現在5コール目。

 6回目に差し掛かろうかというタイミングで途絶える音。

『もしもし、凪沙ちゃん?』

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