神のいたずら
記憶喪失。
普通は記憶を無くしたら、何をすれば良いのかとか、自分は何者なんだろうとか考えて動けないか、そもそも話し方とか立ち方とかそういった事すら分からなくて、相手に返事も出来ないのだろうなって思う。
でも私?は前世の記憶があって、でも私?の記憶は無くて、だから前世の感覚で動けはすると思うし、アマンダさんへの受け答えもできる。
なんて名乗れば良いのだろう、どんなことを私?はしてたんだろう。そこだけが空白。
俺はパチンコ店で店員してただけのおっさんだ。接客とほんのちょっと先の未来を見れるだけの能力値だ。
ん?
そこまで考えて思ったけど、私?でも未来見れるんだよな。
アマンダさんから聞いた内容では、6日前の私は子供達と遊んでいて、新設する建物の木造の足場から落ちる子供を庇って背中から落下したそうだ。落ちそうになった時点で誰かの悲鳴が上がり、私は走り込んで、既に一つ下の階の足場にいて、そこからジャンプし、子供を掴んで抱え込むまでも早かったらしい。
アマンダさんはしばらく部屋を使って良いって言ってくれたけど、長居するわけにもいかないよね。聞く限り私はこの辺りの住人という感じでもないし、こっちは知らなくても知り合いが心配してるかも知れない。
着の身着のままだけど、すぐに動こう。外に出れば何か分かるはず。
「アマンダさん、体の調子も良いし、私を探してる人もいるかもしれないので、これでお暇します。お食事や看病にお部屋まで貸していただいて大変助かりました」
部屋を出てすぐ目の前にちょうど良くアマンダさんがいたので、そう告げると
「あら、今ちょうどお客様がいらっしゃって、あなたに会いたいそうよ。良かったわ」
「え?」
どんなタイミングだよ!とツッコミを入れたかったが、アマンダさんを前におかしな人間だと思われたくなかったのでグッとこらえる。
階段を降りてすぐに、当たり前だが見慣れない男性と女性の2人組が4人掛けの丸テーブルで待っていた。1人は黒髪で向かって左側に剃り込みがある
ツーブロックを前に流した様な髪型の男性で法衣のようなヒラヒラした偉そうな服を着ている。一方もう1人の女性はボブを内巻きにしたような銀髪レイヤーヘアで、アレは何て言ったかキャミソールワンピースだったか、黒い服の間に細かく青のスリットが入っている。
私がその内の1つの席に座るとアマンダさんは「どうぞ、ごゆっくり」と言って去っていく。あなたのお家よココ、それでいいの?
「はじめまして、私に会いに来たと聞きました。私は自分の名前すら思い出せない状態ですが、受け答えに問題はないので、ひとまず、貴方達の話をお聞かせ下さい」
接客業界を出ているからか、急な状況でも人慣れと自然な口調がスラスラ出る自分がいる。
「まずは自己紹介からだな。私はエルーミラ=ヤタ。ヤタと呼んでくれて良い」
「あ、あたしはイクミ」
なんか片方は完全に日本人みたいな名前だな。
「ヤタさんとイクミさんですね。私の知り合い……というわけでも無さそうですね」
「ああ、町中であなたが少年を助けるのを見かけてな。なんていうか物凄い速さで駆け出したと思ったら、少しの間空中に浮いていた様にも見えた」
「うん、うん、本当にお姉さん凄かったんだからっ」
イクミさんは凄い凄いと目を輝かせる。
「それで、もしかしたら不思議な力が使えるんじゃないかって思ってな。私達は昔から新しい知識に目がなくて、こうして訪ねてきたんだ」
「うーん、そうは言っても私はその時の事は全く覚えていないし、今自分の置かれてる状況がよく分からないし」
未来が少し読めるなんて言えばどうなるか分かったものじゃない。一旦、この2人から出来るだけ情報を引き出さないと。
「私達……って、ねぇヤーター?、此処は教会じゃないんだから、別に普通に話しても良いんじゃない?」
「あのな、初対面の人にはまず体裁を気にするものなんだよ」
「ええー、でも結局ヤタの話口調、半分はいつも通りじゃない」
「でもな」
「あの、ヤタさん、私は気にしないので、イクミさんの言うとおりにしてみては?」
確かに、話し方には違和感があった。
語尾はやさぐれた男の子って感じなのに一人称は私だ。
「はあ、まあ対面を気にしなくて良いなら俺も気楽だけどさ。一応、こう見えて国に7人いる枢機卿の1人なんだけどな……」
ああ、だから法衣みたいなのを着てるのね。
でも、枢機卿って?前世知識だと宗教とかで上から数えた方が早い地位なはずだよね。
「偉い方だったんですね。何か失礼をしましたでしょうか?」
「いや、別に」
そこまで言うとヤタさんは目を少し細めると
「ただ、たった今、あんたが記憶喪失なんかじゃーないんじゃないかって疑問が生まれただけだ」
「え?」
そう言うとヤタさんは懐からスッと一冊の本を取り出した。
「あんたは今、俺の事を『偉い方』って言ったんだ。枢機卿って聞いて記憶喪失なら、まず何か分からないはずだ」
「ああ」
確かに失言だ。
「そもそも記憶の無い人間がそんなに流暢に話せるか?」
「……」
「あんた、一体何者だ?」
どうする?間違いなくこの世界の記憶は無いが、正直に話してしまおうか。
そこまで考えると、ヤタさんが何やら本に視線を落として何かを読んでいる事に気付いた。
「そうか」
何か納得したように頷くと、こちらに目線を戻す。
「あんた、記憶喪失なら俺達に付いてくるか?」
「「え?」」
私とイクミさんは同時に声をあげた。
さっきまで、こちらを疑っていたはずなのにどうして?
ヤタさんは本を懐に仕舞うとイクミさんに何か耳打ちすると立ち上がる。
「ええ!!」
「フッ……。どうやら、あんたの名前は知ってるヤツに聞くしかないらしい。そんでもって、目的地は同じだ」
なんかイクミさんは驚いてこっちを見たまま固まってるし、ヤタさんはなんか1人で納得してるけど、いつの間にか2人に付いて行く流れになったらしい。まあ、このままアマンダさん家にお世話になるわけにもいかないから付いて行くけど、私の意思確認とか無いのかな……。
「え、本当に、どういう事?」
「うーん、とりあえずヤタの言う事だから、一緒に来れば良いよ」
ヤタさんは何か知った風だし、イクミさんのその根拠の無い判断、どういう理屈よ……。
まあ、1人で路頭に迷うよりはまだ良いのかな。
別段これといった荷物もない私はアマンダさんに声をかけると2人に渋々付いて行くのだった。
「ああ、そういや、あんた……」
花屋を出たタイミングでヤタさんが振り返る。
「地球って知ってるか?」
書けないから、絵を描いてイメージ膨らまそうと思ったけど、書けてしまった。
本当に更新は不定期です。着地点だけ決まっていて空中分解してます。他作品も同様です。旧なろうサイトで下書きしたものはボツにしました。




