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それぞれの状況




ブラスが出ていった後、入れ替わる形で教会に帰ってきたロメイン=ムラタは、執務室で神様(ブラス)が置いていったとされる書類に目を通していた。

アカリに受け渡された書類は、見たことのないような綺麗な紙で、まるで文字を書いた状態で作り出されたかの様相である。

ムラタがその綺麗な紙束の1枚目に書かれている文字を読もうとすると、不思議な事に神様であるブラスの声が聞こえ始める。

声の主はこちらが話しても応答する訳でもなく、ただ喋り続ける。

「なんだ、これは?」

ふと発した声を認識したのか、あるいは最初から予定されたことなのかは分からない。

けれど、その声は急に止まる。

少しの沈黙が流れ、ムラタが畏怖を抱いているとその声の主は現れた。


(あなたが主の代理人?)

透き通る声と共に青白い光の集合体が現れた。

ムラタは見たことが無いが、察するに容易い。

ああ、これは神の使徒か何かだ、と。


(呆けているのですか?あなたは主の代理かときいているのです)。


「ああ、すみません。あまりの出来事に動揺してしまって。代理人と言って良いのかは判断できませんが、今回の会議の進行役を務めさせていただきます。ロメイン=ムラタと申します」。


(代理人と認識しました。ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私は主様より使わされました管理AI、識別コード4686と言います。主様からは白ヤローと呼ばれておりましたが、ムラタ様のお好きな呼び方でお呼びください)。


ムラタは戸惑いつつも、「ではシロ様とお呼びします」と返すと小さな溜息を付き、背もたれ付きの椅子に体重を預けた。


(ムラタ様、主様はこちらへ戻ってこない可能性があります。会議では私が議題と概要を話しますので、ムラタ様は私に同調する形で他の枢機卿の皆様を説得する役目をお願いします。この地域には問題がいくつも有りますが、最終的な着地点は…)


そうしてブラス降臨の日の陽は落ちていく。


◆ ◆ ◆



一方、惑星ブラスの外宇宙にて


「やっとだね、楽しめると良いな」

ブラスと同じ顔をした者は空間を漂いながら対象を観察していた。


「屋根から落ちた子供を助ける所で消そうかな。神様の時間はここまでだよ。」

「また新しい玩具でも見つけたの?」


無邪気な顔をしていた者に話しかけたのはシーツのような長い布を体に巻き付けた瞳以外が全て白い女性だった。そちらを向き不機嫌そうに青白い髪の少女?は溜め息をついた。


「なんだい?今僕は仕事中なんだけど、話しかけないでくれるかな……」

「そう、仕事って他から連れてきた子にイタズラすることなのかしら。仕事って言ってるからにはしっかり意味のあるものなんでしょうね?」


「無いよ」


問いかけに対して、その者は急にスンと無表情になる。

「あのさ、何か君の機嫌を損ねることでもしたかな、ボクは」

「いいえ、ただその子が気になるだけよ。わざわざ貴方が他から引っ張ってきたっていうのが気がかりで」

「ふーん、まあ邪魔しないならいいよ。ぼくの楽しみなんだからさ」

「あら、仕事じゃなかったのかしら?」

「え?最近の仕事って楽しみながらやるものでしょ。仕事の中にも楽しみを見出さなきゃ、続かないよ」

「はあ、売り言葉に買い言葉ね……。」

「君が売らなければ、買う話にはならないだろ」

「じゃあね」


元々音の無い世界であったが、白い女性の気配が無くなると、宇宙空間は更に静かになった気がした。

(まあ、これが頼まれた事の一つだから)


「さて、お次はっと」


◆ ◆ ◆



聖国は球形の赤い壁に囲まれた中に存在するため、必然的に円形の国を成した。北を時計の針の12時としたとき、ちょうど2時の位置にあるのがムラタの所属する創造神信仰の教会である。教会はそれぞれ各神の教会として、具体的な名はなかった。その中でも創造神教会の逆側、7時の位置周辺にある太陽神の教会には信仰心の厚い信徒が集まっていた。


「みな、今日集まってもらったのは他でもない主について話をするためだ」


教会内では集まった信徒に対して深紅のローブに身を包んだ男が演説をしていた。


「創造神教会のロメイン枢機卿より、主がご降臨されたとの一報があった」


『主』が創造神を指すのであれば、太陽神が何なのかとも思うのだが、それもまた『主』なのである。


「ときに、この場には、この話が虚言であると疑っている者も多い事だろうが、創造神教会の封蝋が真実であると物語っている」


「この聖都に蝋印を偽造してまでデマを流すという者は流石にいませんな」


「その通りだ。利益のない悪さ等は意味を成さない。法典にもそのように書かれている」


「では、招集に応じるのですな」


「ああ、さほど忙しい身でもない。行かん理由がないな。それに、行けば主のご尊顔を賜われるかもしれん。ゲンジ、お主も行かぬか?」


「いいえ、それでは教会に来る陳情や相談に対応しきれませんよ。羨ましい限りですが、留守中の雑事はお任せを」


肩程まで伸びた銀髪の老将といった雰囲気を漂わせるゲンジはそう応えた。


「全く、私の留守を休暇か何かだと思ってないか?」


「いえいえ、坊ちゃまのお守りはいささか手に余りますが、その苦味も楽しみの一つにございます」


「相変わらずよく回る口だ。皆も此奴が羽目を外しすぎんよう、よく見張っておいてくれ」


太陽神教会枢機卿、エルーミラ=ヤタ。

現在21歳、齢12にして太陽神信仰の最高指導者となった秀才である。幼い頃から既存の知識だけでなく、どこから得てきたのか分からない知恵を披露する。その都度町の問題点を指摘し、存命の前枢機卿達を唸らせてきた。本人はただ自分の暮らしを良くしたいと思っていただけであるのだが、そんな事は市政には関係ない。今までと違う考えは時におかしな考えだと罵倒される事もあるはずだ。しかし、この世界では重用され、自分の考えを認めて貰えた。そんな何気ない事がヤタは嬉しくて、細かい改善を繰り返した。


その結果が今である。


「ヤタ!またお祖父様と一緒にいたのね!」


ヤタが教会を出る所で声がかかった。幼馴染のイクミだ。


「イク、人前でエルーミラ枢機卿を呼び捨てにするのはやめなさい」


「何言ってるのよ、お祖父様だって、いつも、いーっつも、坊ちゃまって呼んでるじゃない!」


また始まった……。ヤタは眉間を摘むように手を当てながら天を仰ぐ。どうにもこういった口喧嘩は苦手だ。仲裁には時間がかかるし、そもそも呼ばれ方など、自分はどうだって良い。


「イク、明日から出かけるんだが、お前も行くか?ちなみにゲンジは教会に置いていくぞ」


それを聞いて雰囲気を穏やかにしたイクミはヤタに向き直ると


「え?なにそれ、楽しい?」と好奇心を露わにする。イクミはヤタの話す物語や遊びを度々教授して育ったため、ヤタが何かをするというだけで果物に群がるカラスの様な目をする。


「ああ、今回はとびっきりだ。なんてったって神様に会える」


「ぅええっ本当に?」


「まあ、私も半信半疑だがな。でも可能性はある」


「……」


孫と年若い上司が外泊の約束をしているのと同時に、自分が行けない事に歯がゆさを感じるゲンジであった。







約2年ぶりの更新です。ずっと書いてはいたんですが、未だキャラ単一視点以外に慣れなくて減速気味……。

こちらの作品も、また不定期で書いていきます。

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