あなたには嫉妬をさせてさしあげるわ
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次の日の朝、玄関のドアを開けてもリュウ兄はいませんでした。
自分が言ったのだから仕方のないことですがやはり寂しいです。
一人で寂しく駅へ向かいます。
何日かすれば寂しいのも忘れるのでしょうか?
そのままリュウ兄は私を忘れていくのかもしれません。
その前にカナが言う、大成功が起きるのでしょうか?
しかし、大成功とはなんなのでしょう?
カナは何を大成功だと言っているのでしょう?
リュウ兄と私が婚約すること?
リュウ兄が私を忘れて好きな人と幸せになること?
私がリュウ兄のことを諦めること?
私が望む大成功はたった一つです。
昔から私の気持ちは変わりません。
リュウ兄と結婚をすることです。
◇
「リュウ兄の爽やかな笑顔を見ていないから力が出ないよ」
私は学校に着くとすぐにカナに言いました。
「少しくらい我慢をしなさいよね」
「だっていつもの日課なの」
「ずっと見てきているんだから少しくらい見なくても覚えているでしょう?」
「本物とは違うの」
「もう、ギャップを見せなきゃいけないのにあんたはワガママな子供じゃん」
「愚痴くらい言わせてよ。我慢はしているんだからね。我慢をしていなかったら私はすぐにリュウ兄の家に行ってるわよ」
「我慢はしているみたいね。それならすぐに大成功、間違いないわ」
「カナの大成功ってどうなったら大成功なの?」
「ユウナと同じよ」
「私と同じ?」
「ユウナのことは何でもお見通しなの」
カナはそう言ってウインクをしました。
可愛いカナのウインクに私はドキドキしちゃいました。
今日は、リュウ兄を見ていないからなのでしょうか、いつもと体の調子が違います。
そして一日が終わり、一人で学校から家へ帰ります。
すると隣の家へ入ろうとする人の姿に気付きました。
「あれ? アキちゃん?」
「えっ、ユウナ?」
私は懐かしい相手に嬉しくて近寄ります。
アキちゃんは、リュウ兄とは反対の隣の家のおばあちゃんのお孫さんです。
昔はよくおばあちゃんの家に遊びに来ていたのです。
可愛らしい大きくてクリクリの目が印象の可愛い女の子なのですが、男子の制服を着ています。
でも昔と変わらずショートカットで可愛いのです。
「アキちゃん。どうしたの?」
アキちゃんは遠くに住んでいて、大型連休などに帰ってきては私と遊んでいたのです。
でもいつの間にかアキちゃんはおばあちゃんの家へ来ることはなくなりました。
「一週間だけ、この家に泊まることになったんだ」
アキちゃんの声は男子のように低くなっています。
私より高い身長も、私より大きな体も男子のようです。
「アキちゃん。何かあったの?」
「はあ? あったからここに泊まらなきゃならなくなったんだよ」
「何か、悪さをしたの?」
「ノーコメントで」
「ノーコメントはそうだってことでいいの?」
「ノーコメントで」
「もう、アキちゃんったら。可愛い顔をして悪いことしてるの?」
「はあ? 可愛い?」
ん?
アキちゃんがとっても怖い顔で私を見ています。
眉間にはシワがあります。
「アキちゃん? どうしたの?」
「可愛いってそれは俺のことだよな?」
アキちゃんが少しずつ私に近づいてきます。
そして私の腕を掴みます。
「俺が可愛いってこれでも言える?」
アキちゃんの顔が近づいてきます。
「アキちゃんは女の子でしょう?」
「はあ? さっきから俺って言ってるの聞こえてない訳?」
「聞こえてるけどアキちゃんは昔から可愛い女の子だったでしょう?」
「俺は昔から男だよ」
「えっ」
アキちゃんは呆れた顔をしながら近づいた顔を離します。
可愛い顔が私から離れていきました。
「昔は可愛いと言われることが嫌だとは思わなかった。でも今はみんなが俺をバカにしているように感じるんだ」
「アキちゃんは可愛いよ」
「だから可愛いって言われても嬉しくないんだよ」
「それならそう、言えばいいでしょう?」
「言えないんだよ」
「私には言えるのに?」
「あっ」
「アキちゃんは気にしすぎなのよ。バカにして言っている人がいないとは私には言えないけど、思ったことを言っている人の方が多いよ。褒めてる人が多いんだよ」
「そうなのかな?」
「そうだよ。アキちゃんの目はキラキラして綺麗だし、男子のように体は大きいし、アキちゃんが男子だと知ったら格好良く見えるよ」
「何それ? 俺が好きってこと?」
「好き? 昔からアキちゃんのことは好きだよ?」
「どういう意味なんだよ?」
「昔のアキちゃんは女の子だと思っていたけど今は男子なんだって知って、、、ん?」
自分の中でアキちゃんがどんな存在なのか分からなくなりました。
「あいつは?」
「あいつ?」
「お前の好きなやつだよ」
「えっ」
「リュウさんだよ」
「何で私の好きな人だって思うの?」
「見てたらバレバレじゃん」
「そうなの?」
「もしかしてまだ恋人じゃない訳?」
「私が好きでもリュウ兄は私じゃない人が好きなの」
「えっ、そうなのか?」
「仕方ないの。リュウ兄は大人だから」
私は落ち込んで下を向きます。
「年齢って関係ある訳?」
「えっ」
「好きならいいじゃん。年齢だって、住む場所だって、性格だって、考え方だって、全てが同じ人を好きになるなんて無理じゃん」
「それはそうだけど、制服とスーツじゃやっぱり違いが気になるのよ。私は子供でリュウ兄は大人なの」
「それでいいじゃん。二人が気にしなければそれでいいじゃん」
「アキちゃんには分からないよ」
「分かるよ」
「どうして?」
「だって俺、中学生だよ? ユウナと三歳年下だよ?」
「えっ」
「俺はユウナに歳の差なんて考えたことはないよ? ユウナがそうさせなかった所があるけどね」
「私が?」
「そう。ユウナって子供っぽいからね」
「あっ、私は昔の私とは違うのよ? ちゃん大人になろうとしてるんだから」
「へぇ~何処が大人に?」
アキちゃんはそう言って私を頭の先から足の先までゆっくり見ます。
「そんなに見られたら恥ずかしいじゃない」
「だって久し振りなんだ。ユウナをもっと見たくて」
私は恥ずかしくなってうつむくと、アキちゃんは私の顎を持ち、上を向かせます。
私とアキちゃんは自然と見つめ合います。
「アキちゃん?」
「ねぇ、ユウナは俺じゃダメ?」
「どういう意味?」
「ユウナ」
アキちゃんと見つめ合っていると私の後ろから聞きたかった声がしました。
私はすぐに後ろを振り向きます。
「リュウ兄」
そこにはリュウ兄が機嫌が悪い顔をして立っています。
「ユウナ、何してんの?」
「ん? アキちゃんと話をしてたの」
「そう。帰るよ」
リュウ兄はそう言って私の腕を乱暴に掴みます。
「えっリュウ兄?」
私は引っ張られながら歩き出します。
「ユウナ。待って」
するとアキちゃんが私の手を掴み引っ張ります。
私は動けなくなりました。
「おいっ離せよ、ガキ」
「おじさんこそ、離してよ」
機嫌の悪いリュウ兄がアキちゃんに言うとアキちゃんはニコニコしながら可愛い顔でリュウ兄に言います。
「二人とも、どうしたの? 昔は仲良かったのに」
「昔は可愛かったから遊んでやってたんだよ」
リュウ兄はニヤリと笑ってアキちゃんに言います。
「違うだろう? ユウナを俺に取られて嫉妬してたんだろう?」
アキちゃんはムッとした顔をしながら言います。
「ユウナがお前には甘かったから勘違いしないように見ていただけだよ」
「リュウさんってユウナの保護者か何かな訳?」
二人がケンカをしているように聞こえます。
でもその声がどんどん遠くなっていきます。
あれ?
私の視界が歪んで、気分が悪くなります。
私の体から力が抜けていきます。
「ユウナ」
リュウ兄に支えられて私は倒れそうになったのに気付きました。
「リュウ兄。目が回るの。気分が悪いの」
「分かった。連れて帰るから」
リュウ兄はそう言って私を横抱きにして家へ帰ります。
「あっ、アキちゃん」
「何?」
「会えて嬉しかったよ」
「うん」
私はもう、目を開けられないほど体調が悪いけどそれだけは言いたかったんです。
リュウ兄の腕の中は安心できて眠気が襲ってきます。
「ユウナ、今日はおばさん仕事?」
「うん」
「それならおばさんが帰るまで俺の家で寝てなよ」
「うん」
「ユウナ、眠いの?」
「う、、、ん」
「安心して眠っていいよ」
リュウ兄がそう言って私の頬に頬を寄せたのを感じながら眠りました。
◇◇
暑くて目を覚ましました。
目を開けて懐かしい部屋にいることに気付きました。
リュウ兄の部屋です。
小さな頃に来ただけで久し振りです。
綺麗に布団をきていた私は暑くて布団から足を出します。
「ユウナ、起きたのか?」
リュウ兄が何かを手に持ち、部屋に入ってきました。
「リュウ兄、暑いの」
リュウ兄は布団から出た私の足を見ています。
「リュウ兄?」
「あっ、暑いのは熱があるからだよ」
リュウ兄はそう言って私の頭の下にアイス枕を置いてくれました。
「冷たくて気持ちいい。ありがとう」
「ほらっ、もう少し眠りな。後でお粥を持ってくるから」
「リュウ兄がお粥を作るの?」
「そうだけど?」
「おばさんはいないの?」
「旅行に行って三日後に帰ってくるよ」
「そうなの? 寂しいね」
「一人でも大丈夫だけど?」
「そうね。リュウ兄は大人だからね」
「いつまでもこの家にはいられない」
「どうして?」
「彼女と一緒に住みたいんだ」
「えっもう、そんなこと考えてるの?」
「ずっと前から考えてるよ」
リュウ兄は苦笑いをして言いました。
いつかはリュウ兄は私から離れていくのです。
寂しいです。
「寂しいなぁ」
「大丈夫。ユウナには寂しい思いはさせないから」
リュウ兄はそう言って私の頭を撫でてくれます。
リュウ兄に撫でられて嬉しくなります。
そしてゆっくり目を閉じます。
◇◇◇
次に目を覚ますとお母さんが心配そうに私を見ていました。
「お母さん?」
「リュウくんから連絡が入っててすぐに帰ってきたわよ。大丈夫?」
「うん」
私はいつの間にか自分の部屋にいました。
リュウ兄はいません。
リュウ兄に会いたいです。
それから私の熱は下がり、元気になりました。
次の日の朝、学校へ行く為に玄関のドアを開けます。
リュウ兄はいません。
リュウ兄がどんどん離れていくようで、心配でリュウ兄の家の玄関を見てしまいます。
このままリュウ兄の家へ行けたらいいのですがここは我慢です。
ギャップを見せれば私の願いが叶うのだから。
カナが教えてくれたのだから。
絶対に大成功するのだから。
「ユウナ」
「アキちゃん。おはよう」
私は声のする方を見てその相手を確認すると挨拶をしました。
「おはよう。もう、大丈夫なのか?」
「うん。アキちゃんは今から学校なの?」
「そう。ユウナもだろう?」
「そうだよ。一緒に行く?」
「そうだな」
そして私達は駅へ向かいます。
アキちゃんと歩いているとチラチラ周りの人達が見てくることに気付きました。
それに気付いているアキちゃんはうつむいて歩いています。
「アキちゃん。顔を上げてよ」
「でも、、、」
「大丈夫だよ。アキちゃんはもっと自信を持ってよ。みんなが見てるのはアキちゃんが格好いいからだよ」
アキちゃんはゆっくりと顔を上げます。
それでいいのです。
せっかく素敵な顔をしているのにうつむいているのはもったいないのです。
「あっ、あの子可愛い」
「本当だ。でも男の子なんだ」
「これから男っぽくなってイケメンになるわよ」
「そうよね。隣にいる女の子はそれを知ってるのかな?」
「彼女なんだろうね。可愛い学生のカップルね」
女性の会話が聞こえてきました。
やっぱりアキちゃんは格好いいのです。
アキちゃんを見ると顔を赤くしています。
「アキちゃん?」
「ユウナとカップルだって思われたみたいだね」
「そうだね。制服がそう思わせたのよ」
「制服ってすごいね」
「私は制服なんて嫌いよ」
「どうして?」
「リュウ兄とは違うからね」
「そっか。それなら制服から卒業するまで俺にすれば?」
「えっ」
「冗談だよ。俺は一週間が過ぎたらまたユウナとは離れるからね」
「そっか。一週間だけなんだよね。寂しいな」
離れればやっぱり寂しいのです。
それなのに昨日のリュウ兄は離れても寂しい思いをさせないなんて言ってどういう意味なのでしょう?
リュウ兄は何が言いたかったのでしょう。
アキちゃんと学校から帰ったら家に遊びに行くと約束をし、電車を降りました。
学校が終わりアキちゃんの家へ行くと元気なおばあちゃんが迎えてくれました。
アキちゃんもいて、三人でお話をしました。
昔に戻った気がして楽しかったです。
少し暗くなって家へ帰ります。
「アキちゃん。隣なんだから送らなくても大丈夫よ」
「何があるか分からないから。それに家は誰もいないんでしょう?」
「そうね。ありがとう」
そこからそこまでの距離をアキちゃんは送ってくれました。
「ユウナ?」
またリュウ兄がお仕事から帰って来たようです。
どうしてまた会うのでしょう?
「リュウ兄、お帰りなさい」
「ユウナ、ただいま」
リュウ兄はアキちゃんをジロジロと見ながら言います。
「ユウナ、また明日の朝は一緒に学校行こうな」
「うん」
アキちゃんがそう言って帰ろうとしています。
「ユウナ、こいつと一緒に行ってるのか?」
「あっ、うん」
「俺とは行かないのに?」
「アキちゃんは一週間しかいないの」
「だから何?」
リュウ兄がとっても機嫌の悪い顔をしています。
イライラしているように見えます。
「リュウさん。ユウナが怖がってます」
アキちゃんが助けてくれます。
「お前には関係ないんだよ」
リュウ兄はアキちゃんを睨み付けます。
「リュウ兄、アキちゃんにそんなことを言わないで。リュウ兄は大人でしょう?」
「あっそう」
リュウ兄はそう言って帰っていきました。
「すごい嫉妬だね」
「えっ」
「リュウさんは俺にユウナを取られるのが嫌なんだよ」
「そんなことある訳ないじゃない。リュウ兄には好きな人がいるのよ? 私のことなんてどうでもいいわよ」
「そうかな?」
アキちゃんはそう言って考えています。
「アキちゃん、帰ろうよ」
「そうだね。まあ、嫉妬させるのもいい刺激になるかもね」
「刺激?」
「リュウさんをこの一週間、嫉妬させようよ」
「えっ、でも」
「大丈夫。いい方向に向くから」
「それならしてみる?」
「決まりだね。それじゃあ、明日ね」
アキちゃんは楽しみと言いながら帰っていきました。
私はあの怖いリュウ兄を見るのはちょっと嫌ですがそれで何かが変わるならやってみてもいいのかもしれません。
リュウ兄。
『あなたには嫉妬をさせてさしあげるわ』
待っててよ。
読んで頂き誠にありがとうございます。
次が最終話になります。
楽しかったと思って頂ける作品になればいいなと思っております。




