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永遠の旅人  作者: すばる
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王都でのあれこれ

王都での暮らしにマリーエレンが少しずつ馴染んでいくのを私は見守っていた。

50年間虐げられ、搾取される生活を送って来た彼女は、自分の希望や意思を通す事に慣れていないし、自己肯定感が低かった。

身体は15才に若返らせたが、記憶は弄らなかったので、精神的には65才。

彼女が望めば辛い記憶を封印する事も出来た。

けれど、マリーエレンは望まなかった。

どんな記憶でも、それらがあっていまの自分がいるのだから、このままで良いと。

強い人だと思う。

恨み、嫉み、悲嘆や絶望感に、溺れ死ぬ事なく生きてこれた理由が分かった気がする。


私自身は、訝しがられない程度に薬師として商業ギルドに薬を納品しつつ、王都の探索を続けていた。


王都に来たばかりの頃、道具屋から後をつけて来た男性の正体もわかった。

衣料品を扱うプラグ商会会頭の息子ダンで、私の着ていたレンダン製の衣服に興味を持ち後をつけたらしい。

同じレンダン製の服を着てギルドに出入りしていたマリーエレンに声を掛けて質問攻めにして来た。

怒涛の質問攻めに、まだ人馴れしていないマリーエレンが涙目になっているのを助けてくれたギルド職員がカナリア。

彼女とマリーエレンは、それをきっかけに仲良くなり、友達付き合いをしている。

第一印象でダンに苦手意識を持ったマリーエレンだが、ダンはその後も何かと話しかけてくる。

「あれは恩人に頂いた物で詳しくはわかりません。」

そう言ったのだが、今度は、その恩人に紹介しろだの、あの衣装を売れだの煩わしい。

家にまで押しかけて来た時点で私の知る所となった。

レンダン製のドレスを新たに作り、それを身に着けて、とある上級貴族の関係者としてお忍びの体でプラグ商会本店に向かった。

見た目を三十代に姿変えして。

会頭室に通された私は、50代後半とみられる会頭に、保護下にある者に商会の関係者が付き纏っている事を主人が不快に思っている事、若い女性の自宅に押しかける非常識な者に主人だけではなく我々も怒りを覚えている事などを貴族言葉で告げた。

当事者が事を荒立てたく無いと願っている為、現時点で何かをするつもりはないが、そちらの対応如何ではこちらとしても考え無ければならない。

思い当たる事があったのだろう。

会頭は顔色を無くして陳謝し速やかな事態の収束を約束した。

その翌日にはダンは各地を回る商団と共に王都を出て行った。

商団は数年かけて王国内外、各地で商品の売り買いをするのだそうだ。

商会の経営に携わる為に非常に有益な経験になるが、旅には危険も多く、甘ったれた二代目三代目の子供を旅に出す商会は少ない。

プラグ商会会頭は、才能はあるが、生地やデザインの事になると猪突猛進、直情径行、周りの事を顧みない次男についてかねてから頭を悩ませてきた。

そこに今回の事態。

下手をすれば商会存続の危機だ。

貴族の一言で破綻する商会は珍しく無いのだ。

次男をすぐに呼びつけ、勘当か商団で働くかの二択を迫った。

ダンはそこで初めて自分が自覚なく引き起こした事を認識し、商団での修行を選んだ。

商団が出発した翌週、プラグ商会会頭宛てに最高品質のレンダン製生地が一反届いた。

署名は無かったが飾り文字で「迅速な対応に満足している」と書かれたカードが添えられており、会頭は安堵の余り、その場に崩れ落ちたのだった。


王都に来て数年が過ぎた。

私は当初の予定通り、図書館の書籍などを全て読破したし、王城や貴族街、聖堂、平民街の探索もやり尽くした。

アイテムボックスに保管した食材や素材も十分。

これ以上、王都で収集したいものは無い。


マリーエレンは代筆業の他に、ギルドで定期的に貴族に対するマナーや飾り文字の講座を開いたりしている。

そうかと思えば、回復魔法を時々こっそり周囲に使ったり。

掃除が大変になるからと殺風景だった部屋には、手作りの小物が増えた。

刺繍を施した匂い袋などの小物はちょっとした贈り物にも喜ばれると、小間物屋をやっている友人の店に置いて売れ行きも良いそうだ。

友人、知人も増え、憂いの無い笑顔も良くみられる。


そろそろ旅に戻る頃合いかな。



私は王都で購入した私物を整理して部屋も解約した。

商業ギルドや知り合いに王都を出る事を告げた。

マリーエレンには幸運を付与した指輪を贈った。

泣きはらした目で彼女は指輪を受け取った。



世間には、マリーエレンと同じ様に理不尽に虐げられている人は沢山いる。

その全てを助けようとか、手助けしようなどとは思わないが、マリーエレンに出会えた事、彼女に手を貸した事に後悔は無い。


彼女は死を救いだと感じることはもう無いだろう。

この先、何があっても、諦めず、一歩一歩、生きていける強さを彼女は取り戻した。

歳をとり、次に死に瀕した時、色々あったけど幸せな人生だったと、思える生を生きて欲しい。

どう死ぬかはどう生きるかと同義。

彼女の未来に幸多き事を願う。



初冬のある日、私は王都を後にした。

物語自体はまだ続くのですが、九月から多忙なため一度完結とします。

初めて書いた物語で、拙く行き届かない文章を、読んで頂いた事、深く感謝致します。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです! 物語自体はまだ続くとのことなので、楽しみに待ってます。
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