この星に生まれてラーメンを食らう、それもひとつの奇跡の形。
初投稿です!
拙い部分もあると思いますが、楽しく読んでいただけると嬉しいです。
アドバイスや感想、レビューお待ちしてます。
その星は、豊かな草木で覆われていた。
その星は、不思議な力に満ち溢れていた。
その星は、朝は子どもが走り回り、夜は鳥たちの鳴き声だけがこだました。
その星は、こう呼ばれていた。「奇跡の星」と。
期末試験も終わりが見え、蝉の鳴き声が聞こえ始めた今日、とある大学では一人の男の嘆き声が響いていた。
「ムツキぃ、どうすれば俺は彼女ができるんだぁ(泣)」
目の前でめそめそと泣いているこの男は日向ヨウ。俺と一緒に奇跡ヶ原大学に入学した、中学校からの友人だ。先ほど好きな女の子に告白して振られたらしい。
「知らねえよ。毎回毎回、情けなく泣き付きやがって。大学入って4ヶ月で6回目だぞ。流石の俺も、もう慰めてやらねえぞ」
「違う。7回目だ。1人目が近代史のユリちゃん、2人目が奇跡的経済学のマナちゃん...」
「いい。やめろ、バカ。数えなくていい」
コイツは、見ての通りバカで泣き虫だ。が、裏を返せば、素直で情が熱い…とでもいうのだろうか。まあ、気持ちのいいやつではあるが、1番の問題は、彼が彼自身の問題を自覚しているのにも関わらず、改善する気配がないことだ。
「大体さ、告白するまでが短すぎるんだよ。今日の子だって、知り合ってからまだ2週間くらいだろ?」
コイツは知り合った頃から「告白癖」があり、好きになった相手にすぐ告白をしていた。そのせいで当然、評判がすこぶる悪かった。俺からしても、あまり近づきたくはない存在だった。
「だってよぉ、好きな子の笑顔見てると我慢できなくなるんだよぉ。2週間だって我慢した方なんだぞ。なんせ、俺の最短記録は3日だ」
ヨウが何故か自慢げに指を3本立てる。威張ることではない。本当に。
「バカ。こういうのはなあ、もっとじっくり、関係を深めてから、お互いが好きってわかった時に最終確認で告白するようなもんなんだぞ。振られてトーゼンだ、トーゼン」
全く、男のくせにメソメソして情けない。いや、
youtubeで見た知識を自論のように話す俺も大概か。 ヨウの顔を覗くと、ムッとした顔でこちらを睨んできた。
「ムツキお前、フラれて心を痛めてる親友にかける言葉がそれかぁ?お前だって女の子と付き合ったことないくせに」
「お、俺のことは今いいだろ!」
つい声を張り上げてしまった。俺の叫びを合図に辺りが騒がしくなったかのようだったが、周りの視線は俺ではなく入り口の方に注がれていた。
「なんだ?...!?」
そこにいたのは1人の女の子だった。ブラックダイヤのような、美しく黒い長髪。触れれば壊れてしまいそうな華奢な体。天女の羽衣にも見間違えるほど完璧に着こなされた白衣。はっきり言おう。俺は彼女に一目惚れしたのだ。
「...ーい...おーい、ムツキ!」
突然、視界が、目を赤く腫らした男に覆い尽くされた。
「な、なんだよ」
「あ、気付いた。呼びかけても反応がないから心配したぞ」
「ああ、心配すんな。無視していただけだ」
「そりゃ酷いぜ。...それにしても...」
ヨウがいやらしく口角を上げる。
「ムツキぃ〜。あの子が気になるのかぁ?そうかぁ〜」
「うるさい。ニヤニヤするな。そんなんじゃないっての」
「はいはい、分かってますよ。でもな」
ヨウが口調を変える。
「悪いことは言わん。やめておけ。俺らとは次元が違うんだ。そもそも、きっと彼女はそんな馴れ合いをしにこの学校に来た訳じゃないぞ」
「わ、分かってるよ。黒髪は"ニル"の証だ。それに...別に気になってないし。大体、俺はニルの奴らなんて嫌いなん...」
待て。コイツ、今なんて言った...?「彼女はそんな馴れ合いをしにこの学校に来た訳じゃない」?何故、それを知っている‥.?
「お前、あの子が何でこの大学に来たのか知ってるのか?」
悪い考えが頭の中をぐるぐる回る。きっと俺は今、正常な判断ができない。友達、仲がいい、ましてや付き合ってるなどと言い出したら、お前を殺してしまうだろう。女沙汰一つで親友を手にかけてしまう弱い俺を許してくれ。机の下で手刀に力を入れた。
一方でヨウは俺の様子には気付かず、少し不思議そうな顔をして考え込んだ後、何か納得したような顔をした。
「あぁ、そうか。お前、先週のゼミ、サボっただろ。そんときに、今日から隣の大学から“ミラクリオン"の研究をしに女生徒が来るって教授が言ってたんだよ」
「なんだ、そんなことか」
一瞬浮かせた腰を下ろす。よかった。この歳で親友を手かけて警察のお世話になりたくないからな。
「それよりよう、知ってるか?この前の...あっ」
ヨウの身振り手振りした肘が食べ終えたラーメンの器に当たった。俺はとっさにテーブルから落ちていく器に両手をかざし、力を込めた。
「ウインド!」
周囲から風が集まり、一瞬のうちに、器の下に小さな竜巻のような物が発生する。器が少し持ち上がり、鈍い音を立てて床に落ちた。二人して安堵のため息をつく。
「危ねぇ〜。ありがとなぁ、ムツキ」
「全く、気をつけろ。食堂のおばちゃん、怒ると怖いって噂なんだから。いい加減、喋るとき体まで五月蝿いのどうにかしろよ」
先ほど発生した竜巻は、俺の能力による物だ。この世界には、こういう「奇跡」と呼ばれている特別な力を持ってる奴がいる。そして当然、この力を持ってる奴がいれば持たない奴もいる。この世界では持ってる奴を「ミラクリオン」、持たない奴を「ニル」と呼ぶ。見分け方は簡単で、黒髪か、否かだ。髪色は奇跡に影響される。つまり派手な奴は大体ミラクリオンだ。ちなみに俺は白に近い水色で、風を操ることができる。スカート一枚捲れるくらいがやっとだが。
「ていうか、お前のせいであの子見失っちまったぞ。くそっ」
「ごめん、ごめん。今度俺が振られた女の子、紹介するから許してくれ」
「おい、やめてくれよ。冗談でも笑えねえぞ」
ヨウがハハハと笑いながら、腕時計をちらっと見る。
「やべっ、もうこんな時間かぁ!悪い、俺次の講義始まるから行くわ。」
ヨウがガタガタと音を立てて席を立つ。が、数歩進んだところで何か思い出したようにこちらを振り返った。
「話、聞いてくれてありがとなぁ!」
やたら手をブンブン振るから、こちらもひらひらと手を振りかえす。全く、騒がしいやつだ。さて、俺もバイトあるしそろそろ帰るか。
駐輪場へ向かうため、エントランスから出たところで足を止めた。何かが落ちている。ハンカチだ。真っ白の。誰かが落としたのだろうか。辺りを見渡すと、一瞬、曲がり角で先ほど見た、艶のある黒い髪がサラサラ揺れるのが見えた。
気付いたら走っていた。第一声、なんて声をかけるかも決まっていないのに。そんなことあるわけないのに、もしかしたら、なんて胸の中で考えていた。
運動不足がたたり、約50メートルほど走っただけで息が切れた。所々足を止めながら、ようやく彼女を見かけた角まで辿り着いた。息を整えつつ角を曲がってすぐそこに彼女はいた。
「あ、あの…このハンカチ...」
気付いたのか、一瞬目が合った。
駆け寄ろうと足を踏み出したそのとき、突然鳴り響いた轟音と衝撃に体が吹き飛ばされた。その轟音は嵐の中の落雷を、衝撃はかつて恐竜を滅ぼしたとされる隕石の衝突を彷彿とさせた。
目を開けると、辺りには砂煙が立ち込め、目の前にはひしゃげた自転車が転がっていた。
なにが起きたのか理解できなかった。
幸いなことに、頭は打ったが、とりあえず俺は無事だった。近くにいたあの子も無事だといいのだが...。
「いっててて......だ、大丈夫か?!」
叫んだが返事がない。目視で確認しようにも、砂煙で辺りが見えなかった。
「ウインド!」
風を放つと、だんだんと土煙が晴れてきた。すると、人の影のような物が現れた。
「ごほっ、ごほっ...よかった。無事っぽいな。
......!?な、なんだ...アレ!?」
その人影は可愛らしい女の子のものではなかった。表面は黒く岩のようにゴツゴツしており、ひび割れたその隙間から溶岩のような赤い光が漏れ出している。手足は長く、拳は俺の頭ほどの大きさだ。頭部も人間の2倍ほどの長さがあり、上に行くほどその面積が広がっている。こんな動物見たことも聞いたこともない。だが、コイツと遭遇した人間は、例外なくこう呼ぶだろう。「怪物」だと。とりあえず逃げるか?いや、今のご時世、ルッキズムは御法度だ。案外、見かけによらず意思疎通ができるかもしれない。それならば、まずはコミュニケーションあるのみだ。
「こ、こんにちは...俺、ムツキっていうんだけど...君の名前はぁぁぁあああ!?!?」
俺が話しかけた途端、獲物を目の前にした猛獣のように咆哮を上げ、目の前の自転車を掴み、腕を振り上げた。
『ヴォア゛ア゛ア゛ア゛!!』
「ギャアアアアアアアア!!」
俺が間違っていた。こんな知性のかけらもなさそうな怪物に人間の言葉など伝わるはずなかった。というか、何で襲って来るんだ?とにかく、逃げなくては。
「くっ...あ、あれ?」
足にグッと力を入れたが、立てない。腰が抜けた。
「くそっ!こんなところで...」
怪物が腕を振り下ろす。なんとか体を転がしてかわした。しかし怪物は二撃目を構えている。腰をよじるが、身体が思うように言うことを聞かない。この様子だと、次はとてもじゃないが避けきれない。
(もう、駄目だ…)
目をぎゅっと食いしばる。その一瞬、何かに気づいたように怪物の視線が揺らぐ。
「? あっ、あんなところに…!」
視線の先にはあの女の子が倒れていた。頭からは血を流しており、意識を失っていた。
そんな彼女に、怪物は容赦なく、腕を振り上げる。
「や、やめろぉー!!」
咄嗟に叫んだ。この大声に怪物が一瞬怯む。この隙に逃げるか?いや、俺だけならまだしも、彼女を抱えて逃げ切るのは不可能だ。怯んだとはいえ、ただの一瞬だ。怪物はすぐにこちらへと標的を変え、襲いかかってきた。
「ママがね、ムツキくんは『悪魔の子』だから、一緒に遊んじゃいけないって。"うわきしょー"が感染るんだって」
「お前、そんなバカなのによく平気な顔してこの学校に来れるな。俺がお前だったら、恥ずかしくて"ジサツ"するぜ」
小さい頃、俺はいじめられていた。俺は当時通っていたクラス、いや、学校でただ一人のミラクリオンだった。心無い言葉を毎日浴びせられ、毎日、次の日に目が開けられなくなるくらい泣いた。だが俺は挫けなかった。俺の好きだったヒーローは、あいつらなんかよりも、ずっと、ずっと格好良かったから。俺はあいつらを見返してやるため、ヒーローを真似て「必殺技」の特訓をした。毎日、毎日。何十回、何百回、何千回。でも、俺はヒーローにはなれなかった。俺の能力は弱すぎたのだ。
ーーいや、俺は、ヒーローになれる。誰かを守る、そのためになら。
気付けば、俺は自然と「必殺技」のポーズをとっていた。陸上のスタンディングスタートのように腰を落とし、手を後ろに交差させ、手のひらを後ろに向けた。
「行くぞ!ウインド・ブースト!!」
集中する。入り口を絞るように、両手から突風のように鋭く空気を噴射する。右足で踏み込み、身体を前方へ急加速させる。身体が引っ張られるように突き進んでいく。これだ。今までイメージしてきた感覚だ。踏み込むごとに加速し続け、スピードが最高潮に達する。
「いっけぇぇぇえええ!!」
『ヴァッッ!?』
怪物に思い切り衝突した。怪物がよろけて足を自転車に引っ掛け、転倒する。その衝撃で、崩れかけていた分厚い壁の塊が落下し、怪物の頭部に直撃した。
『ヴォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
耳を劈くような咆哮の後、怪物の頭部が破裂し、赤い液体が飛沫する。身体がピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。
「た、倒した...」
最後の力を振り絞り、手を伸ばして女の子の息を確かめる。気を失ってはいるが、その鼓動が伝わってくる。彼女も無事だ。助かった。
「よ、かっ...た...。」
安堵したその直後、全身から力が抜け、意識が途切れた。




