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ダンジョンランド  作者: bismas65


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# 第四話 版権と衣装



 それから一週間が経った。


「終わりましたネ……」


 シアンは建物の入口から中を見渡した。


 最初に比べれば見違えるようだった。


 床を埋めていた瓦礫は撤去され。


 崩れかけていた場所はブロックリーンの抗菌コーティングで補強され。


 壊れた家具の一部にはドクター・カーペンターの絆創膏が貼られている。


 まだ廃墟だ。


 だが、廃墟の中ではかなり綺麗な方だろう。


「おおー!」


 アドバイスバルーンがふわふわと飛び回る。


「お客様を呼べそうです!」


「呼べませんヨ」


 即答だった。


「まだ危険箇所だらけです」


「そうでした!」


 元気だけは良い。


 ブロックリーンが床を走る。


「ブロ」


「お疲れ様ですネ」


 ドクター・カーペンターも近くにいた。


「本日の修復作業、完了しました」


「ご苦労様です」


 この一週間で分かったことがある。


 このダンジョン。


 思った以上に広い。


 そして遊園地跡もかなり大きい。


 今片付いているのはほんの一部だった。


「道のりは長いですネ」


 シアンはそう呟く。


 そして支配人室らしき部屋へ向かった。


 最近のお気に入りの場所だった。


 大きな机。


 革張りの椅子。


 窓。


 静かな空気。


 何となく落ち着く。


「今日の作業終了ですヨ」


 椅子に腰掛ける。


 ふと。


 本棚が目に入った。


 今までは気にしていなかった。


 掃除を優先していたからだ。


「本ですネ」


 近づく。


 経営。


 会計。


 接客。


 機械整備。


 色々並んでいる。


 その中で一冊だけ妙に気になる本があった。


『テーマパーク経営のポイント50選』


「オオ」


 面白そうだった。


 シアンは本を取り出した。


 ぱらぱらとページをめくる。


「ほうほう」


 読む。


 意外と分かりやすい。


 テーマパークを運営する上で大事なことが並んでいた。


『安全第一』


「それは大事ですネ」


 客が死んだら大変だ。


『世界観を守る』


「ナルホド」


 海賊エリアに宇宙船が置いてあったら変だ。


『価格設定を考える』


「ふむふむ」


 全部無料では運営できない。


 全部高額でも客が来ない。


 難しいらしい。


「経営は奥が深いですネ」


 感心しながら読み進める。


 そして。


 ある項目で手が止まった。


『版権に気を付けること』


「……?」


 聞き慣れない単語だった。


 シアンは首を傾げる。


「版権?」


 意味が分からない。


 そこで本棚から辞書を引っ張り出した。


 重い。


「便利ですネ」


 ぺらぺらめくる。


 そして見つけた。


『版権』


『著作物に関する権利』


『他人が作った名称、作品、キャラクターなどを無断で利用してはならない』


「エッ」


 シアンは固まった。


 数秒固まった。


 もう一度読む。


 さらに読む。


 やはり同じだった。


「エッ」


 再び固まる。


 アドバイスバルーンが近寄る。


「どうしました?」


「大問題ですヨ」


「おお?」


「ファンシーランドが使えません」


「おお?」


 意味が分からないらしい。


 シアンは説明した。


「つまりですネ」


「はい」


「他人が作った名前を勝手に使うと怒られるらしいんですヨ」


「おおー」


「だからファンシーランドはダメです」


「おおー……」


 アドバイスバルーンも何となく理解したらしい。


「では新しい名前です!」


「まだ決めません」


「おお?」


「もっと立派になってからです」


 今は廃墟である。


 名前だけ立派でも仕方がない。


「保留ですネ」


「保留です!」


 アドバイスバルーンが元気よく復唱した。


 シアンは本を閉じる。


 経営本は参考になった。


 かなり参考になった。


「安全第一」


「おおー!」


「世界観を守る」


「おおー!」


「版権にも気を付ける」


「おおー!」


 大事らしい。


 なんとなく覚えた。


 そして今後の方針を考える。


「まず、この場所をもっと知る必要がありますネ」


「探索ですか?」


「探索です」


 今まで見たのは建物の周辺だけだ。


 ダンジョン全体は全く分からない。


「明日は端まで行きます」


「おおー!」


 アドバイスバルーンが飛び跳ねる。


「冒険です!」


「冒険ですネ」


 楽しそうだった。


 しかし。


 そこでアドバイスバルーンがふと止まった。


「あ」


「どうしました?」


「人間です」


「人間?」


「端まで行ったら人間に会うかもしれません」


「…………」


 シアンは固まった。


 そうだった。


 人間がいる世界だった。


 自分はまだ一度も見ていない。


「たしかに」


「たしかにです!」


 問題だった。


 シアンは自分の姿を見る。


 黒い服。


 ……いや。


 よく見ると服ですらない。


 最初から身についていた謎の布である。


「服が必要ですネ」


「必要です!」


「服ですヨ」


「服です!」


 何故か盛り上がる二人。


 早速探し始めた。


 衣装室らしき場所。


 倉庫。


 ロッカー。


 色々漁る。


 そして。


「あ」


 シアンが見つけた。


 埃だらけの箱。


 中身は仮装グッズだった。


 マント。


 蝶ネクタイ。


 シルクハット。


 ステッキ。


「マジシャンですネ」


 ただし状態は酷かった。


 破れている。


 しわだらけ。


 色褪せている。


「これはダメですネ」


 そう言いながらも。


 何故だろう。


 妙に気になった。


 帽子を持つ。


 蝶ネクタイを見る。


 マントを広げる。


 どれも不思議としっくり来た。


「似合う気がします」


「おおー!」


「根拠はありません」


「おおー!」


 とりあえず持ち帰る。


 支配人室へ戻る。


 ドクター・カーペンターを呼ぶ。


「修復できますカ?」


「可能です」


 即答だった。


 ドクター・カーペンターは絆創膏を取り出す。


 ぺたり。


 マントへ貼る。


 ぺたり。


 帽子へ貼る。


 すると。


 少しだけ光った。


『スキル熟練度上昇』


 半透明の文字が浮かぶ。


「オオ」


 シアンが声を上げた。


 ドクター・カーペンターも単眼を瞬かせる。


『アイテムドクターLv2』


「レベルアップです」


「おめでとうございます!」


 アドバイスバルーンが拍手した。


「性能向上を確認」


「何が変わったんですカ?」


「絆創膏の修復スピードが5%アップしました。」


「便利ですネ」


 地味だが確実な進歩だった。


 ドクター・カーペンターは早速二枚の絆創膏を生成した。


 ぺたり。


 ぺたり。


 衣装へ貼る。


「明日には直ります」


「楽しみですネ」


 シアンは満足そうに頷いた。


 窓の外を見る。


 夕焼けだった。


 一週間前は何もなかった。


 自分も。


 仲間も。


 計画も。


 だが今は違う。


 アドバイスバルーンがいる。


 ブロックリーンがいる。


 ドクター・カーペンターがいる。


 少しずつ。


 本当に少しずつだが。


 前に進んでいる。


「明日は探索ですヨ」


「おおー!」


「ブロ」


「了解しました」


 三者三様の返事が返る。


 シアンは立ち上がった。


 修理中のマントを見る。


 シルクハットを見る。


 蝶ネクタイを見る。


 何故だろう。


 どこか懐かしい気がした。


「似合うといいですネ」


 そう呟く。


 そして。


 今日も眠ることにした。


 明日は初めてダンジョンの外縁へ向かう日だ。


 人間に会うかもしれない。


 何があるか分からない。


 けれど。


 少しだけ楽しみだった。


 名前のない遊園地の未来は。


 まだ始まったばかりなのだから。


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