戯曲 戦火を薙ぐは恋の焦熱
かの大陸より押し寄せるは津波の如き魔物の大群。
待ち受けるは我らが皇軍、先陣に立ち鼓舞するは我らが戦姫。
交戦のさなか、相対するは敵将たる偉丈夫。
相見えるも、引き分けること三度。
聞けば敵将は流刑となった皇国貴族の末裔。
再び皇国へ弓引くとあらば、討ち果たさねば禍根が残る。
しかし好敵手への執着は恋慕と燃え上がり、遂に戦姫は敵将を組み敷き、言い放つ。
「惚れた!
古き血に刻まれた咎など、とうに雪がれていよう!
このような下らぬ争いなど早々に切り上げ、我が夫となるがいい!」
二人は手に手を取り合い魔群の奥へと切り込むや、大将たる魔王を討ち果たし戦役を集結へと導いた。
しかし戦姫は国へは戻らず、敵将と共に新天地へと旅立つのだった。
なんともはや、一世を風靡したなどと信じられぬ筋書きである。
世を魅了した理由はただひとつ。
先の戦役の事実に照らしてみるに。
だいたいあってる。
その一点であった。
かつて名を馳せた劇作家に勅が発せられる。
能く見、能く伝えよ、と。
臣民を鼓舞し、忠を高めよ、と概ねそのような意図であるのは明らかだった。
だが、夏空と女心が定まらぬのと同じく、火のついた芸術家は始末に負えない。
駆け落ちの顛末に作家の本能を駆り立てられるまま、演出も役者も巻き込み、気炎の冷める間もなく戯曲は世に躍り出た。
ふと、冷静な者が各人に問う。
これは勅許を得ているのか?と。
皆、口を揃えてこう言った。
「これを演じないならばそれこそ罪だ。
大丈夫。本当に捕まったとしても、悪いのは俺じゃない」
こうして戯曲は世間の話題を独り占めすることとなり、駆け落ちがブームとなりトレンドとなり、まぁ要するに若者たちの憧れとなった。
実際に戦役上がりを捕まえて駆け落ちする者が現れ、それを理由に宰相が職を辞するまで。
その焦熱は冷めることを知らぬのだった。




