第八話 破滅しない悪役令嬢
ルミナリア・フォン・エルセリアは、自分の立場をよく理解していた。
理解したうえで、使えるものは使うべきだとも思っていた。
公爵令嬢。学園でも社交界でも注目を集める家柄。容姿に恵まれ、もともと目立つ存在で、しかも少し気が強く見える。攻略対象たちとも自然に接点を持てる位置にいて、物語の構造上、主人公のそばにいればいるほど印象に残る。
これほどまでに「見つけてもらうための条件」が揃った人生は、これまでなかったかもしれない。
だからルミナリアは決めたのだ。
目立とう、と。
それも、中途半端ではなく。
どうせなら、ああまたルミナリア様だ、と誰もが思い出すくらい鮮やかに。
もちろん、ただ騒げばいいわけではない。原作知識がある以上、やりすぎれば本当に破滅することも分かっている。だから必要なのは「悪役令嬢らしい華やかな存在感」であって、単なる愚かな嫌がらせではない。
上品に。印象深く。少しだけ厭味で、けれど見過ごせないくらい鮮烈に。
それがルミナリアの、今世におけるセルフプロデュース方針だった。
とはいえ、その決意は最初から完璧に機能したわけではない。
むしろ、学園生活が再開して数日後には、彼女は早くも首を傾げることになる。
おかしい。
とても、おかしい。
*
きっかけは、昼休みの中庭だった。
原作でも比較的序盤にある、ささやかな印象操作イベント。聖女候補の少女が庭で昼食を取っているところへ、ルミナリアが取り巻きを引き連れて現れ、「平民の分際で」といった空気を匂わせる。直接手を下すほどではないが、主人公の孤立感を強め、攻略対象の一人が庇うきっかけになる場面だ。
ルミナリアは、そのシーンをかなり正確に覚えていた。
なぜなら、原作小説で読んだとき、ここでのルミナリアの立ち位置が妙に印象に残っていたからだ。悪役としては小粒なのに、本人なりの理屈と矜持があって、単純な意地悪役ではないところが少し好きだった。
だから、その日、ルミナリアはかなり気合を入れて中庭へ向かった。
取り巻きの令嬢たちも連れている。完璧な姿勢で歩き、声の高さも、視線の角度も、すべて「高貴で感じの悪い令嬢」として最適解を選んだ。やるなら徹底だ。こちらにも矜持がある。
薔薇の植え込みの向こう、小さな噴水のそばに、主人公にあたる少女がいた。
原作では「聖乙女の資質を持つ平民出身の奨学生」。今はまだ、その特別さを周囲に知られ始めたばかりの頃だ。明るい茶色の髪を肩口で揺らし、やわらかな表情をした、素朴で可憐な少女。確かに、物語の中心になりそうな雰囲気はある。
ルミナリアは一歩、前へ出た。
取り巻きたちも息を呑む。周囲の空気が少しだけ緊張する。ああ、いい感じ。見られている。ちゃんと注目が集まっている。
「まあ」
ルミナリアは扇を軽く口元へ寄せ、いかにも品よく首を傾げた。
「学園の中庭とは思えないほど、ずいぶん気楽なお昼休みですのね」
我ながら、なかなかだと思った。
露骨すぎず、でも充分に棘がある。誰もが「ルミナリア様が何か言いに来た」と察する程度には印象深い。
主人公の少女――名前は確か、エミリアだったか――は少し驚いた顔をしたあと、ぎこちなく立ち上がった。
「え、ええと……こんにちは、ルミナリア様」
おどおどしていて、庇いたくなるタイプだ。攻略対象たちが引っかかるのも分かる。
ルミナリアはさらに一歩踏み込み、言葉を重ねようとした。
そのときだった。
「ルミナリア様」
低い男の声が背後から差し込んできた。
え、と振り返るより早く、付き従っていた使用人の一人が駆け寄ってきて、恭しく頭を下げた。
「先ほど、公爵家より急ぎのお手紙が届きました」
「今?」
「はい。旦那様より、至急ご確認をとのことです」
あまりに自然で、あまりに急を要する口調だったので、周囲の空気が一瞬でそちらへ持っていかれた。
ルミナリアは目を瞬いた。原作に、こんな展開はない。
けれど公爵家からの急報を無視するわけにはいかない。周囲の目もある。取り巻きたちまで「まあ、ご実家から」とざわめき始めている。
結果、ルミナリアはせっかく仕上げた悪役令嬢ムーブを中断し、その場を離れるしかなかった。
主人公のエミリアはぽかんとしていたし、取り巻きたちは勝手に「きっと大事なご連絡なのよ」と話をまとめてしまった。
手紙の内容は、拍子抜けするほど事務的だった。
母からの「今度の夜会の出席確認」と、ついでのような「お加減はいかが?」という文面。急ぎの案件ではまったくない。というか、今じゃなくていい。
ルミナリアは学園内の応接室で手紙を読み終えたあと、しばらく無言になった。
「……何これ」
思わず素が出た。
おかしい。
タイミングが良すぎる。あまりにも良すぎる。
まるで、あの場面を中断させるためだけに差し込まれたみたいだった。
けれど、そんなことがあるだろうか。偶然、たまたま、今そのタイミングで家から手紙が来て、たまたまそれを持ってくる使用人が気を利かせすぎただけかもしれない。
そう自分に言い聞かせつつも、ルミナリアは妙なひっかかりを覚えた。
原作改変、というには小さすぎる。
でも、小さいからこそ不自然だった。
*
二度目の「おかしい」は、その週末の茶会で起きた。
学園内で人気の高い攻略対象の一人――騎士団長の息子で、誠実で朗らかな青年が出席する席だった。原作ではこのあたりで、ルミナリアが主人公エミリアへ含みのある言葉をかけ、たまたま通りかかった彼が会話を聞いて庇い、好感度が大きく動く。
つまり、悪役令嬢としては非常においしい場面だ。
ちゃんと目立つ。印象にも残る。しかも攻略対象本人の前で。
ルミナリアは事前に流れを思い出し、今度こそ決めるつもりでいた。
今回は主人公もいる。攻略対象もいる。周囲の令嬢たちも多い。完璧な舞台だ。
彼女は白に近い淡いラベンダー色のドレスで出席し、遠目にも目を引くよう髪飾りを工夫した。露骨ではないが、ちゃんと華やかだ。遠目にも印象へ残る色味とシルエットを選ぶのは、もう半分癖みたいなものだった。
茶会の会場は明るい温室だった。ガラス越しの陽光が花々を透かし、丸いテーブルには細かなレースのクロスがかかっている。甘い焼き菓子の匂いと紅茶の湯気が混じる中、若い貴族たちが上品に談笑していた。
主人公のエミリアは少し緊張しながらも、周囲に受け入れられようと懸命に笑っている。その姿は健気で、確かに好ましい。物語のヒロインにふさわしい存在感だと、ルミナリアは素直に思った。
だが、それとこれとは別問題である。
彼女は優雅にカップを置き、さあそろそろ行こうかしら、と心の中で息を整えた。
今回の作戦は、露骨な意地悪ではなく「高位貴族ゆえの無自覚な圧」を演出すること。つまり、本人に悪意はないふうを装いつつ、聞いた相手がじわっと傷つく系だ。古典的だが、悪役令嬢としては王道である。
「エミリアさん」
名を呼ぶと、彼女がぱっとこちらを見る。
「はい、ルミナリア様」
「あなた、最近はずいぶん学園にも慣れてきたようですわね」
「え……ええと、みなさんが親切にしてくださるので……」
「それは素晴らしいことですわ」
そこまでは完璧だった。ルミナリアは微笑み、次の一言を落とそうとした。
――けれど、平民としての距離感をお忘れにならない方がよろしくてよ。
その、ちょうど直前で。
「ルミナリア様、こちらにいらしたのですね」
またしても、横から声が差し込んだ。
今度は使用人ではない。学園側の職員、それも女性教師だった。
「学園長がお呼びです。先日の体調不良について、一度お顔を見たいと」
ルミナリアはカップを持ったまま、完全に固まった。
また?また今なの?
周囲の令嬢たちも、エミリアも、そして攻略対象の青年までもがこちらを見ている。学園長直々の呼び出しを無視できる空気ではない。しかも内容は「体調確認」という極めてまっとうなものだ。
ルミナリアは優雅な笑みを保ったまま、内心では全力で首を傾げていた。
なんで?
どうして私がちゃんと目立とうとすると、こう絶妙に横槍が入るの?
しかも破滅回避寄りの方向で。
結果、その場でも彼女は悪役令嬢ムーブを途中で諦め、会場を離れるしかなかった。
学園長室で「もう無理はしないようにね」と穏やかに言われただけで終わったとき、ルミナリアは内心で天を仰いだ。
「……おかしいわよね」
帰りの廊下で、無意識に呟いてしまう。
後ろを歩いていた侍女が「はい?」と首を傾げたので、ルミナリアは「なんでもないわ」と微笑んだが、納得などできるはずがなかった。
偶然にしては、二度続いている。
しかもどちらも、自分が原作通り「悪役として目立ち始める瞬間」だけを、器用に潰してくる。
目立つことそのものは妨げていない。
ただ、「後々破滅に繋がる悪役ムーブ」だけが絶妙に発動しない。
まるで、そこだけを避けるように。
*
三度目で、ルミナリアはほぼ確信した。
誰か、いる。
自分の動きを見ていて、原作の流れを知っていて、しかも自分が破滅する要素だけを潰している誰かが。
そうでなければ説明がつかない。
三度目の場面は、階段だった。
原作では、エミリアが不注意で階段から落ちかけたところを、ルミナリアが冷たく見下ろし、その場に通りかかった宰相子息がエミリアを助ける――という、かなり印象の悪いシーンである。ルミナリアは直接突き落としたわけではないが、見殺しに近い態度をとることで悪評が強まる。
ルミナリアは、さすがにそこまではやるつもりはなかった。
前向きに目立ちたいとはいえ、いくらなんでも階段落ちイベントに関わるのは危ない。あれはちょっと劇薬すぎる。だが、原作知識の確認のために、そのタイミングで近くにいるくらいはしてみようと思ったのだ。
学園の中央階段は昼休みになると人通りが多い。磨き込まれた手すり、陽光の差し込む高い窓、階下から上がってくるざわめき。ルミナリアは踊り場のあたりで、何食わぬ顔をして立っていた。
すると予想通り、下からエミリアが急いで駆け上がってきた。手には教材らしい本を抱えている。どう見ても足元がおぼつかない。
来る。
ルミナリアは息を詰めた。次の瞬間、エミリアの足がわずかに滑る。
あ、と思った、その瞬間。
エミリアの身体が傾くより先に、横から伸びた手が彼女の腕をしっかり掴んだ。
「危ない」
低く落ち着いた男の声。
黒に近い濃い髪。無駄のない動き。学園の制服ではなく、護衛や従者に近い簡素な装い。
ルミナリアは一瞬、息を止めた。
その人影は、エミリアを支えたあと、すぐに一歩引いた。
「お怪我は」
「だ、大丈夫です、ありがとうございます……!」
エミリアは頬を赤くして礼を言っている。だがルミナリアは彼女を見ていなかった。
今の人、誰?原作にいた?
少なくとも、この階段イベントでエミリアを支えるのは宰相子息だったはずだ。もっと華やかで、もっと目立つ登場だった。今のように、一瞬だけ現れて、必要最低限のことだけして、空気に紛れるみたいに消える人ではない。
ルミナリアが思わずそちらを見たときには、すでにその人物は階段の影へ退いていた。護衛か従者が主人の用事を済ませたような、驚くほど自然な身のこなしで。
その後、原作通り遅れて現れた宰相子息が「今、誰か……?」と怪訝な顔をしたことで、ルミナリアはますます混乱した。
誰か、がいる。
しかもかなり有能で、場の流れを壊しすぎないようにしながら、肝心の破滅だけを消している。
その夜、ルミナリアは自室で長椅子に沈み込み、深く息を吐いた。
「……なるほど」
そう呟いて、テーブルの上のティーカップを見つめる。
「私の他に、原作を知っている誰かがいるのね」
思い返せば、偶然と片づけるには出来すぎていた。
家からの絶妙なタイミングの手紙。学園長の呼び出し。階段での先回り。どれも派手ではない。でも、原作のルミナリアが“破滅へ一歩近づく小さな積み重ね”だけを、驚くほど正確に折っている。
もし原作を知っている誰かがいるなら、ありえる。
それが誰かは分からない。
でも――
そこまで考えたところで、ルミナリアははっとした。
原作を知っている。この世界にいる。
自分の破滅フラグを潰すほど、こちらを見ている。
その条件に当てはまる人間なんて、ひとりしか思いつかない。
「……まさか」
胸がどくんと鳴る。
あの人?でも、そんな都合よく?
いや、都合がいいとか悪いとかではない。何度も生まれ変わって、何度もすれ違ってきた二人だ。今さら「そんな偶然ある?」なんて言っても仕方がない。
むしろ、そうであってほしいと思ってしまう。だって、自分を見ていてくれる誰かがいるなら。
こんなふうに、破滅だけを器用に避けてくれる誰かがいるなら。
それは、あの人であってほしい。
そう願うのは自然だった。
けれど、願いと確信は違う。
ルミナリアは気持ちを落ち着けるように紅茶を一口飲んだ。香り高く、少しだけ渋い。まだ結論を急ぐべきではない。会えば分かる。たぶん。少なくとも、そうであってほしい。
そしてもうひとつ、はっきりしたことがある。
自分は見られている。かなり近くで。
それだけでも十分な収穫だった。
*
その数日後、公爵家からひとりの護衛が新たに配置された。
学園内外での安全強化のため、とだけ説明されたが、ルミナリアには心当たりがあった。落馬事故のあとで周囲が慎重になっているのだろう。公爵家の娘としては当然の配慮だ。
護衛は、学園帰りの馬車の前で初めて紹介された。
夕方だった。陽が傾き、校舎の白い壁に金色の光が差している。馬車の扉のそばに控えた侍従長が恭しく一礼し、ルミナリアへ向かって口を開いた。
「ルミナリア様。本日より、身辺警護の補佐として一名増員されます」
「そう」
ルミナリアは鷹揚に頷いた。公爵令嬢としての反応を崩さないようにしながら、内心では少しだけ興味があった。
もしや、このタイミングで出てくるということは。
「ゼインと申します」
低い声がした。顔を上げた、その瞬間。ルミナリアの心臓が、ひどく強く鳴った。
黒に近い濃い髪。夜を思わせる灰青の瞳。整った顔立ちなのに、妙に静かで、余計な華やかさがない。立ち姿には隙がなく、でも威圧感で押すのではなく、まるでそこにある影のように自然だった。
初めて見る顔のはずだった。なのに、胸の奥で何かがざわついた。
懐かしいような。苦しいような。泣きたくなるような。
でも、断言できるほど鮮明ではない。
これまでの人生で彼と再会した時のような、身体が即座に「この人だ」と知る感覚は、まだ来なかった。ひどく近い場所まで来ている気配はあるのに、あとほんの一歩、何かが届かない。
ゼインと名乗った青年は、ルミナリアの視線をまっすぐ受け止めた。
「以後、お傍に控えます」
それだけを、落ち着いた声音で言う。
丁寧で、簡潔で、完璧な護衛の挨拶だった。
ルミナリアは瞬きをひとつしてから、令嬢らしくわずかに顎を引いた。
「よろしく」
喉の奥が少しだけ掠れそうになったのを、どうにか抑える。
名前。
ゼイン。
それは、あまりにも都合がよすぎる一致だった。
最初の人生で恋をした騎士と同じ名前。何度も生まれ変わる中で、顔も身分も違った彼と違って、今回は名前まで同じ。
偶然だろうか。
それとも――。
問いかけは胸の中で止まった。
ゼインはそれ以上何も言わず、一歩下がってルミナリアの乗る馬車の脇に控えた。その動きは無駄がなく、やはり妙に目立たない。さっきまでそこにいなかったみたいに、空気へするりと溶ける。
けれどルミナリアにはもう、どうしても気になって仕方がなかった。
馬車が動き出してからも、窓越しに見える彼の気配を何度も意識してしまう。
もし、この人が。もし、本当にあの人なら。
だったらどうして、こんなにも静かな顔をしているのだろう。
もっと何か、あるはずじゃないの。
そう思うのに、彼はただ完璧な護衛としてそこにいるだけだった。
*
それからの日々で、ルミナリアはさらに困惑することになる。
ゼインは有能だった。驚くほど有能だった。
ルミナリアが歩けば少し先を見て、危険があればさりげなく避けさせる。体調が万全でない日は馬車の揺れが少ない道を選ばせる。学園で人混みに入れば、自然な位置取りで視線を遮る。過干渉というほどではないのに、必要なときには必ずそこにいる。
しかも、ルミナリアの行動を妙に先読みする。
寒そうにしていれば外套が差し出される。階段を急ぐと少しだけ歩幅を合わせてくる。人混みでは、こちらが立ち止まる前に自然と進路が空く位置へ移動している。疲れている日は、言葉をかける頻度まで控えめになる。
観察されている。そして、かなり細やかに気を配られている。
なのに。
なのに、その理由だけが分からない。
公爵令嬢への忠誠、と言えばそうなのかもしれない。優秀な護衛なら、このくらいできてもおかしくないのかもしれない。
でもルミナリアの胸の奥は、もっと別の何かを感じ取っていた。
ときどき、ゼインがひどく苦しそうな目で自分を見ることがあるのだ。
ほんの一瞬だけ。
こちらが気づく頃にはもう消えているけれど、そのたびにルミナリアの心臓は落ち着かなくなる。
知っている目だ、と思う。
何を、と問われると答えられない。
でも、遠い人生のどこかで、ああいう顔を何度も見た気がする。
言いたいことを飲み込み、近づきたいのに距離を取って、でも目だけはどうしようもなくやさしい、あの感じ。
ある日の帰り道、ルミナリアはついに馬車の中で小さく息を吐いた。
「……本当に、何なのかしら」
独り言のつもりだった。
だが馬車の外を並走していたゼインは、聞こえたのか聞こえないのか、特に反応を返さなかった。
それがまた少しだけ腹立たしくて、少しだけ切なくて、ルミナリアは窓辺に頬杖をついた。
夕焼けに染まる街並みが流れていく。黄金色の光の中で、馬車の窓に映る自分の顔は、どこか不満そうだった。
悪役令嬢として派手に目立とうとしても、破滅フラグだけ器用に折られる。
おまけに護衛として現れたゼインは、やけに有能で、やけに距離が近いくせに、決定的なことは何ひとつ言わない。
どう考えても、おかしい。
そして、そのおかしさの中心にたぶんこの男がいる。
ルミナリアは唇をわずかに尖らせた。
いいわ。そこまで隠すなら、こっちも見極めてやる。
どうせ私は、何度失敗しても諦めない女なのだ。
見つけてもらうのを待つだけじゃなく、自分から探しに行くことだって、もうずっと前から覚えている。
だったら今度も、そうするだけ。
この破滅しない悪役令嬢人生の裏で、誰が糸を引いているのか。
そしてその先に、ずっと探してきた人がいるのか。
ルミナリアは馬車の揺れに身を任せながら、静かに瞳を細めた。
次こそ、捕まえる。
そう決めた彼女の横顔は、夕陽の中でひどく美しく、そして少しだけ猛々しかった。
それはもう、ただの悪役令嬢の顔ではなかった。
何度も届かない恋の先で、ようやく相手の気配を掴みかけた女の顔だった。
ご覧いただきありがとうございます!




