第一帖
目の前にうず高く積まれているのは、都の流行を牽引するような色鮮やかな最高級の絹織物や、異国の商人から取り寄せたという珍しい香木、そして職人が精魂込めて打ち出した細工の美しい宝飾品の数々だった。
滑らかな手触りの絹は、私の小さな体などすっぽりと包み込んでしまうほどに分厚く、艶やかな光沢を放っている。香木からは、頭の芯が痺れるような甘く重たい香りが漂い、部屋全体を支配していた。
陽の光を浴びてきらきらと光るそれらの豪奢な品々を、私は感情のすっぽりと抜け落ちた、ひどく冷たい瞳で見下ろしていた。
七歳という、まだあどけなさが残るはずの年齢の少女が向けるには、到底不釣り合いな氷のような視線だ。しかし、私の目の前で満足げに目を細めている男にとって、私の内心の冷たさなどどうでもいいことなのだろう。
私の実の父親であり、右近衛大将という高位にある男、葛城景冬。
三十代半ばを過ぎてなお、誰もが振り返るほどの優美な顔立ちと、権力者特有の余裕、そして抗いがたい色気を漂わせる美丈夫である。彼は濃い紫を基調とした高価な装束を隙なく着こなし、完璧な外面の良さを保っていた。彼の切れ長の瞳に映っているのは、愛しい娘の姿ではなく、私という道具を手に入れた自分自身の有能さに対する陶酔だ。
家を繁栄させることと、己の享楽のみに生きるこの傲慢な男は、私の頭をひどく愛おしげに撫でた。
「沙羅、私の愛しい娘よ。お前は本当に美しい。この葛城の家をさらに高みへと導く、至高の宝だ」
鼓膜をくすぐるような、甘く、とろけるような声音だった。
彼は私の異常なまでの物覚えの良さ、和歌や書道における神がかり的な才覚、そして何より、亡き妻の面影を残すこの容姿に並々ならぬ価値を見出している。この娘を磨き上げれば、いずれ帝の寵愛すら我が手にできると確信し、打算からくる過剰な特別扱いを始めているのだ。
毎日毎日、こうして途方もない額の貢ぎ物を与えては、まるで自分自身の所有物の価値を確認するように甘やかしてくる。
私は、父親のその欲望に満ちた視線を真っ向から受け止めながら、子供らしい無邪気な笑みを顔に貼り付けた。
「お父様、ありがとうございます。とっても嬉しいです」
「そうか、そうか。お前が喜ぶ姿を見るのが、私にとって何よりの幸せなのだよ」
心にもない言葉を並べ立てる父親の整った顔を見つめながら、私は内心でただひたすらに冷たく嘲笑っていた。
よくもまあ、白々しい嘘がつけるものだわ。あなたが愛しているのは、私という道具がもたらすであろう巨大な権力と、自分の所有物としてのこの姿だけでしょうに。
どうして私は、自分を殺した実の父親を相手に、愛娘のフリをしてこんな馬鹿げた遊戯を仕掛けているのだろうか。
すべては、私がまだこの男の娘ではなく、葛城家の正妻だった頃へと遡る。
前世の私は、決して身分の高い家の出ではなかった。
都の端にある静かで質素な屋敷で、季節の移ろいや庭に咲く名もなき花々を眺めながら、ただひたすらに和歌を詠み、書をしたためるだけの穏やかな日々を過ごしていた。世間のしがらみから切り離されたような孤独な空間だったが、墨の匂いと紙の擦れる音だけが私の慰めだった。
ただ、少しばかり器量が良く、歌の才に恵まれていた。本当に、ただそれだけのことだったのだ。
しかし、ある日、私が何気なく詠んだ一首の歌が巡り巡って、当時の景冬の目に留まってしまった。
美しいもの、価値のあるものを何よりも愛好する彼は、私の歌から高い教養と類まれな美しさの気配を感じ取ったのだろう。彼はわざわざ私の寂れた屋敷まで足を運び、そして私を見初めた。
身分違いも甚だしい縁談だったが、右近衛大将という権力者からの熱烈な求婚を、後ろ盾のない弱小貴族である私の実家が断れるはずもなかった。
なにより、当時の景冬の振る舞いは、世間知らずな乙女の心を奪うには十分すぎるほどに情熱的で、優美だった。贈られてくる和歌には私を称賛する甘い言葉が並び、夜這いに訪れる彼の振る舞いはひどく優しかった。
私は葛城の家に、正妻として迎え入れられた。
嫁いだばかりの頃の景冬からの寵愛は、それはもう狂おしいほどだった。
彼は私を自らの権力と富の象徴であるかのように扱い、最高の衣食住を与えてくれた。
季節が変わるごとに誂えられる、目も眩むような美しい絹の着物。見たこともないほど豪奢な調度品で飾られた私室。そして、夜ごとに耳元で囁かれる甘い愛の言葉。
美しいものを愛でるのが好きな彼は、私という存在を自らの手で飾り立て、独占することに無上の喜びを感じているようだった。
まるで、手に入れたばかりの美しい鳴き鳥を、黄金で作られた鳥籠に入れて愛でるように。
彼の愛が、純粋な私個人への本質的な共感や愛情ではなく、自身の所有物に対する無自覚な美への依存に過ぎないということに、若く愚かだった当時の私は気づくことができなかった。
それどころか、私は彼を心から愛していたのだ。
貧しい暮らしから一転、信じられないほどの愛と富を与えてくれた夫に深く感謝し、彼のために完璧で美しい妻であろうと懸命に努めた。
そんな満ち足りた日々の中で、私は彼の子を身籠った。
懐妊を告げた時の景冬の喜びようは尋常ではなかった。彼にとって、家を繁栄させるための優秀な血を残すことは至上命題だったからだ。
お腹が大きくなるにつれ、彼はさらに私を特別扱いし、私の足が冷えないようにと異国から取り寄せた分厚い絨毯を敷き詰め、都で一番腕の立つ専属の医師を何人も控えさせた。
彼が私のお腹にそっと耳を当て、まだ見ぬ我が子に語りかける姿を見るたびに、私の心は温かな愛情で満たされていった。
そして、幾度も意識を手放しそうになるほど長く苦しい陣痛の末に、私はついに第一子である長男を産み落とした。
血と汗の匂いが充満する部屋の中で、元気な産声が屋敷中に響き渡った時の、胸がいっぱいになるような多幸感を、私は今でもはっきりと覚えている。痛みに耐え抜いた末の圧倒的な安堵と、自分のお腹の中から新しい命が生まれたという神秘的な感動。
疲労と汗でぐしゃぐしゃになった私の顔を、景冬は美しい絹の布で優しく拭い、そして産湯に浸かったばかりの小さな赤子を、まるで壊れ物を扱うようにそっと抱き上げた。
「よくやってくれた。私とそなたの、大切な跡取りだ」
景冬の目には、確かに喜びの涙が光っていた。
彼は赤子の小さな手を自分の長い指でそっと握りしめ、誇らしげに、そして高らかに宣言したのだ。
「この子は香香丸と名付けよう。この子と共に、葛城の家はさらに栄えるだろう。お前は私の誇りだ、沙羅」
その時の彼の満面の笑顔に、嘘はなかったと今でも思う。
自分の血を引く正統な世継ぎの誕生を心から喜び、命がけで産んだ私に深い感謝を捧げてくれた。
愛する夫と、目に入れても痛くないほど愛おしい、小さな小さな息子。香香丸の柔らかな頬に初めて触れた時の、あの指先の震えるような温もり。私が母親になったのだという強烈な実感。
私と香香丸は、間違いなく温かな幸福の絶頂にいた。
私は、葛城の家で、最愛の夫と愛息と共に、一生を添い遂げるのだと信じて疑わなかった。
この美しく、穏やかで、喜びに満ちた完璧な日々が、永遠に続くと思っていたのだ。
あの日、冷酷な現実によって、すべてが理不尽に奪い去られるまでは。










