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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第二部 魔王軍襲来編
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序章 女子大生、怪しげな集会に参加する


…… 葉月達が中止になった会議をしている頃 ……

『千葉県某所 私立・百瀬ももせが丘大学』


「では次に、霧生泉<キリュウイズミ>さん。発表をお願いします」

「はい」


 教授に呼ばれて、席を立つ。サッと、机の上の資料を確認する。

 うん、あれもこれも、用意している。パソコンの準備もOKだ。


 ペットボトルのお茶を少し口に含み唇を濡らす。

 皆の視線を感じながら、少しずつ話し出す。


「では、発表を始めていきます。ウチの研究テーマは、『白百合島の歴史について』です」


 白百合島は、今から五十年程前、海底火山の噴火によって生まれた天然の島。

 発生当時は島の規模こそ大きかったものの位置が悪く排他的経済水域に影響を与える事が無かった。


 そのせいか、大変地味な扱いであり、ほんの三十年程前まではただの田舎の島というのが多くの人の認識だっただろう。

 

 だが、ある事がきっかけに状況は大きく変化する。


「それがあの有名な鉱石。『リリー・クリスタル』です」


 リリー・クリスタルとは、一番最初に島に上陸した調査隊の一人が、やがて白百合山と呼ばれる事になる山で発見した鉱石。


 中には、百合の花の様な紋様が入っており、『白百合』という島の名前はここからついたと言われている。

 当初、調査員はこれをただの綺麗な石ころだと考え、家族へのお土産にと家に持ち帰った。


 それを玄関に飾っていた所を、偶然、調査員の友人であった学者が見つける。

 「こんな石は初めて見た、是非研究したい」という学者に調査員は了承し、研究がスタート。


 そして、研究の結果、この石は全く未知の鉱物であると判明。『リリー・クリスタル』と命名された。

 更に研究が進み、あるとんでもない事実が明らかになった。


 それが、この石は『未知のエネルギーを帯びている』という点。

 石そのものの成分構成に関しては何の変哲もないただの珪石であるというのも学者が頭を抱えた原因の一つだろう。


 何故、エネルギーを帯びているのか?

 

 未だに解明はされていないが、新しいクリーンなエネルギーの出現は世界中の注目を白百合に集めた。

 

 当然日本政府もこの研究に着手し、白百合は田舎から一転。

 鉱山関係者が多く移住し、町が出来た。


 鉱石をいち早く本土に送る為、巨大な橋『ホープ・ブリッジ』が出来た。

 町は時が経つにつれ、どんどん大きくなって、東と西、二つに分かれる事になった。


 今や、白百合は最先端の島であり、自然と科学が融合した、オシャレかつスタイリッシュな場所へと変貌し、そのワークスタイルに憧れた芸術家や、投資家等も続々と移住してきている。


「つまりまとめとしては、白百合は元々、今の様なイメージではなかった。しかし、リリー・クリスタルの発見により、全てが変わった、という事です」


 ウチの言葉に教授が頷き、皆に拍手を促す。

 まばらな拍手が教室を包んだ。


 ウチはその場で一礼をして、何か質問はありますか? と尋ねる。

 早速、一人の女子が立ち上がった。確か、名前は…………えっと。


 駄目だ、思い出せない。どうも日本人の名前はおぼえにくい。


「えーとぉ、白百合と言えばぁ、最近UMAによる事件や、『奇跡の子』杠葉月さんとかがニュースになってますよねぇ? 何か歴史でそういう伝承とかなかったんですかぁ?」


 甘ったるい喋り方をする。

 ただでさえ、日本語の聞き取りは難しいのだから、もう少しまともに話して欲しい。


 とりあえず、なんとか質問の意図は理解できたので、回答する。


「先程申し上げた通り、白百合の歴史は僅か五十年ちょっとしかありません。少なくとも、ウチが調べた中では、その様な話は全く無かったです。個人的な見解を言わせて貰うなら────」


「貰うならぁ?」

「…………いえ、何でもありません。データの伴わない推論なんて、唯の妄想ですから。他に質問はありませんか?」


 立ち上がる人はもういなかった。

 教授がもう一度拍手を促す。


 乾いた音が響く中、静かに椅子に座った。

 

「では次に────さん。発表をお願いします」 


 教授が次の人間の名前を呼ぶ。

 うん、やっぱり全く分からない。


 ウチは窓から外を眺めて少し息を吐く。

 この退屈な時間をどうやって潰そうか、ぼんやりと考えていた。




「では、今日のゼミはここまでにしましょう。残った人の発表は来週にします。では、解散!」


 教授の言葉と共に、みんな動き出す。

 席を立って、友達とお喋りをしたり、スマホをいじりだしたり。


 ウチは黙々と帰りの支度を進める。


「あ~霧生さぁん! ちょっとぉ待ってぇ?」

「え?」


 名前を呼ばれて顔を上げると、先程質問をしてきたあの甘ったるい女が話しかけてきていた。


「なんです? ウチになにか?」

「いやぁ今、ゼミの皆でぇ飲みに行こうって話出ててぇ。霧生さんも良かったら一緒に──」


「今日、ですか?」

「うん。そうだよぉ」


「すみませんが、今日はこの後外せない用事があるので……」

「あー……そっか」


「すみません」

「うん、じゃあえっとお疲れぇー」

「ええ。お疲れ様です」


 カバンを手に教室を出る。

 ドアを閉めきる前に、声が聞こえてくる。


「霧生さんってホント付き合い悪いよね」

「陰キャの根暗だかんねあいつ。あんたもよく誘ったわ」


「ま、アタシ優しいし?」

「あいつハーフだからって調子乗ってるよね絶対! 金髪碧眼の私カワイーとか思ってそう」


「親がスウェーデン人とか言ってたね、自己紹介で」

「大体なんなん? 『ウチ』って? どうやって日本語勉強したんだよ超キモイわマジ」


「マジキモイよね! 『えーウチのー……研究はー……』」

「あははは! 似てる似てる!」

「アハハハハハ────」


 笑い声を背中に教室を後にする。

 ウチがこのゼミで浮いてしまっているのは自覚している。


 でもそれを解消しようとは全く思わない。

 彼女らの評価なんて、これから起こる事を考えればとても些細な問題だ。 

 

 腕時計を見ると、予定より少しだけ遅くなってしまっている。

 早く行かないと、皆を待たせてしまう。


 ウチは少し早足気味に大学を後にした。




…… 四十分後 ……




「えっと……2の14……確かこの家だったかな?」


 表札を確認して、チャイムを鳴らす。


「はーい」


 可愛らしい声が返ってくる。


「霧生泉です」

「ああ泉ちゃん! ちょっと待ってね」


 数秒して、ドアが開いて、女性が顔を出した。


「泉ちゃん、こんにちわ! 遅かったわねえ」

「こんにちわ美玲さん。すみません、ゼミが思ったより長引きました」 


「もうみんな集まってるわよ?」

「そうですか」


 他愛ない話をしながら、家の中に入る。

 流石は有名女優、『海野美玲』の自宅。


 中々の豪邸だ。もう何度かお邪魔しているが、入る時は少し緊張してしまう。


 美玲さんについてリビングに入ると、うるさい電子音が耳に飛び込んでくる。

 どうもゲームをプレイしていたみたいだ。


 テレビの中では怪獣とお相撲さんが決死の戦いを繰り広げており、画面の前では赤く髪を染めた大人の女性と、真っ白い髪の女の子がそれぞれコントローラーを握っている。

 

「このっ! こいつ!」


 大人の女性が鬼の形相でコントローラーに指を叩きつけ、それにシンクロする様に怪獣が炎を吐く。


 女の子が鼻歌を歌いながら指を動かす。

 お相撲さんは信じられないほど軽快に動き怪獣の攻撃を綺麗に躱していく。


「はい、必殺ー♪」 


 派手な演出と共にお相撲さんが渾身の張り手!

 怪獣がよろめく!


 追撃の猛ラッシュ! ラッシュ! ラァァァァッシュ!

 哀れ……怪獣は星となり、夜空の向こうに消えていってしまった。

 

「ぬあああ!? また、やられたああ!?」

「イエーイ! アタシの勝ちー! ぷぷぷ、サヤさんってば、ほーんとざこざこだよねえ?」


「ぐうう……ムッカつくううう! もう一回やらせろ!」

「はいはい、雪ちゃんも沙耶ちゃんもそこまでにして。泉ちゃん来たわよお?」


 美玲さんが手を叩いて二人を止める。

 雪は元気よく返事をして椅子に座る。沙耶さんも渋々といった様子でコントローラーを放り投げ、着席。

 

「ウチ待ちだったんですか? 一人見当たりませんけど」

「あの子は転校の手続き中。会いに行ってくるみたいよお? ────“ユウシャ”様に」


 美玲さんがテレビのリモコンを操作する。画面がゲームから、ニュース番組へと切り替わる。

 そこには今、日本中から注目を集めている女子高生が映っていた。


「“杠葉月”……!」


 私の呟きに、美玲さんが妖しく微笑む。


「さあ、始めましょうか? 我ら……“魔王軍会議”を」


 みんな、各々一枚ずつ、カードを取り出す。

 天井の豪勢なシャンデリアに照らされたカードは、黒く、輝いていた。


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