一章 女子高生、こんな時期に転校してくる
『東白百合高等学校 二年B組教室』
「突然だが、今日は転校生を紹介するぞー」
朝のホームルームで担任の吉原先生が、開口一番そう言った。
教室中に起こるざわめき。「え? この時期に?」と言った声が多数上がる。
それもその筈、時は現在、七月十八日。
夏休みまで後五日というちょー中途半端な時期である。
こんな日に転校してくるなんて、一体どんな事情を抱えているんだろーね?
名探偵葉月ちゃんの目がキラリと輝く。うーむ……これは事件の匂いがしますぞ、ワトソン君。
「よしそれじゃあ、中に入ってくれー」
教室がざわつく中、ガラリと扉が開いて、一人の女性が入ってくる。
皆、息を呑んだ。
その女性が、余りにも大人っぽかったからだ。
170センチはあるんじゃね? って背の高さ。
ジムのトレーナーさんですか? って疑いたくなる様な、筋肉質ですらりとしたスレンダーなぼでー。
前髪はきっちり整えられており、後ろ髪は低い位置で縛られている。
時雨顔負けの、ザ・大人の女性って感じで、もう制服を着ている事に違和感しかない。
女性はチョークを手に取ると、黒板に名前を書いていく。その筆跡は達筆。印刷したみたいな美しさ。
名前を書き終わると、くるりとこちらに向き直る。
「白銀志保<シロガネシホ>と言う」
名は体を表す……とはちょっと違うけど。黒板に書かれた綺麗な文字は彼女の性格をよく表してると思った。
凛とした声色。堂々として、同い年とは思えない位に、落ち着きがある。
「暫くの間、よろしく頼む」
短くそれだけ言うとぺこりと頭を下げる。
「みんな、仲良くしてやってくれなー」
「せんせー! 白銀さん来たけど、『班分け』どーなんの?」
茶髪に染めたギャルさん(名前知らない)が先生に質問する。
班分け……ってのはまあ、あれですよ。
女子高生において最も重大な例のイベントの班ですよ。
そう! その名も……『修学旅行』の班!
うちの学校は夏休み明けすぐの九月五日に修学旅行があるのだ。
当然、行動する班とかその他諸々の細かい事は、もうとっくに決まってしまっている。
だからまあ、疑問が出るのも当たり前っちゃ当たり前の話だよね。
ちなみに私の班は五班。
時雨も一緒の班だから、ちょっとした旅行気分。
正直、結構楽しみなんだ。
「それなんだが、丁度他より一人少ないグループがあったよな。そこに入ってもらおうと思ってる。確か、『五班』だったよな」
へー……五班かあ。
って、いやウチじゃんそれ!?
……なーんてね。
ふっふっふ。この名探偵には、転校生の姿を見た瞬間から、ピンときてましたよお、ええ。
我が五班の人数が一人少ない事は重々承知している。となれば、そこに転校生を捻じ込むのは必定というもの。
ええ、ええ。実に簡単な推理ですとも。
ま、今更誰が加わろうと大して変わりはしないさ。
どーせ、時雨以外の有象無象なんて、名前も知らん奴らだしね。
転校生の相手なんてその人達に任せておけばいいんですよお、ええ。
…………って、思ってたんだけどなあ。
「杠葉月、だったな。同じ班で尚且つこうして隣の席になったのも何かの縁だろう。これからよろしく頼む」
「あ、は、はい……よろしく……」
席替えがあるなんて聞いてないんですけど?
しかも奇跡的に隣になるなんてどーなってんの、これ?
…… 一方その頃 ……
『東白百合高等学校 一年A組教室』
「みなさーん! 今日は重大なお知らせがあります! なんと……転校生が来ました!」
皆さんお久しぶりです。橘菫です。
朝から南ちゃん(担任の先生)の機嫌がやたらいいと思ったらですよ。まさかまさかの来ましたよ! 転校生!
「ゆみみ、転校生! 転校生だよ!」
隣の席に座っているゆみみの肩をバシバシと叩くと、頬杖をついたまま五月蠅そうに私を横目で見てきます。
「叩かなくても聞こえてますよ。そんなにはしゃぐことですかね……全く」
「まーた、ゆみみはクール気取っちゃって……そんなだから友達いないんだよ?」
「余計なお世話ですよ……! それに友達なんて一人いれば十分です」
「えええ!? ゆみみに友達がいたのぉ!? だれ? だれぇ!?」
「……ごめんなさい。どうやら私の勘違いだったようです。友達なんていませんでした。だから二度と話しかけないでくださいね、橘さん」
「あはは! 拗ねた拗ねた! もーごめんってばー」
私がご機嫌を取ろうと拗ねたゆみみに抱き着くと同時にがらりと教室のドアが開いて、例の転校生が入って来ました。
どうやら転校生は女の子の様です。
髪は長めで、少し毛先に癖があるのか、くるんと曲がってる。
背は少し小さく、ゆみみよりちょっと低いくらい。
でも目はそれと裏腹に大人っぽく見えます。
(不思議な雰囲気の子だな)
というのが、私の第一印象でした。
「それじゃ、自己紹介してくれるかな?」
南ちゃんの言葉に、転校生はこくりと頷く。
「凛音……江藤凛音<エトウリンネ>……です。よろしく……」
すっごい可愛い声! 羨ましい! ゆみみとは大違い!
「なんでいちいち棘があるんですか? 人の事を貶さないと褒める事も出来ないんですか?」
「ねえねえゆみみ! お昼、転校生も誘おうよ!」
「ええ……いや、別に構いませんけど……何でそんなにアクティブ何ですか?」
「だって面白そうじゃん!」
「江藤さんの席は、新しく置きやすいし一番後ろにしよっか。どこがいいとかある?」
南ちゃんの質問に、転校生がすっとある人物を指します。
その指は、真っすぐに私の隣……ゆみみを指していた。
「ゆ、ゆみみ! ご指名! ご指名だよ!」
「……真ん中ですからね。黒板が見やすいだけでしょう」
「何言ってんの! フツー真ん中なんて選ばないよ! 先生から丸見えで寝にくいじゃん! ただでさえ、ゆみみ小さくて壁にならないのに……!」
「その考え方がフツーだったとしたら日本の将来が不安になりますね、とても」
南ちゃんが机と席を設置。
ちょこんと座る転校生。
何か、こうしてみるとお人形さんみたい。背筋もぴっしりしてるし。
「私、橘菫! こっちは相棒のゆみみ!」
「誰が相棒ですか、誰が……弓美春です。よろしくお願いします」
「これからよろしくね、凛音!」
「いきなり名前呼び捨てですか? 馴れ馴れしくないです?」
「えー……駄目かなあ?」
「嫌だったら断ってもいいんですよ?」
凛音は、私達を見て少しだけ、笑った。
「……大丈夫。これからよろしく……菫、美春」




