五章 女子高生、女子高生の中で男のロマンに出会う VSマシーナ その1
「さあ馬鹿な事言ってないで行くよハヅキ!」
「うー……なんか釈然としない」
まあここは気持ちを切り替える所だよね。
早くこの女の子を助けなきゃだし。
という訳で今からは真剣にやっていこう!
……いや別に今まで真剣じゃなかった訳じゃないんだよ?
あくまで、気持ちの問題ね? 気持ちのさ。
なんて心の中で誰に対して言ってるんだかよく分からない言い訳を呟きながら改めて辺りを見渡す。
なんというか、不思議な場所だね、ダンジョンって。
私の周りは高い石壁に仕切られた大きな部屋になっていて、そこから回廊が奥に向かって続いている。
天井がなかった。
空を見上げればきらきらと輝くお星さまが見える。
中空には巨大な丸い月が幾つも浮かんでおり、その月は皆同じ模様をしている。
即ち、弓道の的である。
的が、星々の間を、所狭しと並んでいるのだ。
「ダンジョンは人の心の迷いから生まれる。その性質上、人の心を色濃く映し出す。多分、この子は何かあの的に対して並々ならぬ思いがあったんじゃないかな?」
成程。
妖精の言葉に私は頷く。
「私、なんとなくこの子の気持ちが分かったよ……自分の比較対象が本当の天才だった時、どうしようもなく自分がみじめに感じて、やってきた努力が全部無駄に感じて、進む事も戻る事も、誰かに頼る事さえ出来なくなっちゃうものだよね」
しかも優しいんだもんねーあいつ。
それがまたこの子を苦しめたんじゃないかな。
「なんかねちょっとだけ……やる気が出てきたよ」
「それは良い事だねハヅキ! さあ進もう。この奥にモンスターがいる筈だよ! そいつさえ倒せばこのダンジョンも消えるはずさ!」
私は妖精と共に、部屋を出て、回廊の奥へと進んでいった。
…… 暫くして ……
『弓美春のダンジョン 最奥の部屋、前』
「疲れた……なんでこんな迷路になってるんだここ……」
どれくらい歩いたんだろうね?
代り映えのしない景色の中を右に曲がったり左に曲がったり、登ったり下りたり……。
時間の感覚がもう全然ないや。
「ダンジョンとは、えてしてそういうものだよハヅキ」
「あー……もう歩きたくないー」
「情けないなあ……普段からごろごろしてるからそうなるんだよ」
飛んでる奴に言われたくない!
こっちはもう足が棒みたいなんだっての。
ただでさえ私は、運動は苦手だって言うのにい……目の前のぷかぷかと気持ちよさそうに空中遊泳している生物が憎いであります! 隊長!
「うううー……変身すればすぐなのにいいい」
「それは駄目だって言ってるじゃないかハヅキ。力を使いすぎるとまたぶっ倒れて病院送りだよ? 変身は体力を使うんだから、温存しないと」
「わ、分かってるよ……」
一番最初にオークを倒した時はどーも力の加減がよく分かってなかったみたいで、倒した後すぐに気絶しちゃったんだよね。
「まあもうこの部屋で最後みたいだよ、ほら中央にボスがいるだろう?」
「ボス?」
言われて顔を上げる。
確かに、目の前の通路の先は、部屋になっているみたい。
部屋の大きさは、最初に私がいた場所位の大きさで結構広い。縦横百メートル以上はあると思う。
妖精の言う通り、中心に何か巨大なものが鎮座している。
「なにあれ……巨大ロボット?」
思わず口にだしてしまった。
多分これを見た百人が百人とも同じ感想を抱くと思う。
鋼鉄の身体。光るモノ・アイ。
丸っこくて可愛らしいデザインとは裏腹に、右手にはビームサーベル、左手には物騒なマシンガンを携えている。
腕が妙に取れそうなのはあれ、ロマンなのかね?
やっぱり戦闘ではやっちゃうのかね? あの、例のあの技をさ。
「あれは、マシーナだよ!」
「マシーナ?」
「魔法で動く兵器の事だよ。神話の時代の産物で、古い遺跡なんかでよく見かける。でも驚いたな……あれは、“ユニークモンスター”だよ」
「ユニークって……まあ確かに見た目はユニークだよね。あんまりモンスターって感じじゃないし……というか生物じゃないし」
「ユニークモンスターは通常のモンスターよりも強大な力を持っているんだ。あのマシーナも通常より三倍は強化されてると思っていいよ」
「私、今回は色に関しては何も言わないからね。絶対。今決めた」
「ユニークモンスターは一体一体にその恐ろしさを表す固有の名前がついているんだよ」
「へーじゃああの巨大ロボも?」
「もちろん! その名も──」
「その名も?」
「“究極合体『マシンロボ機械兵』マークⅢ”!」
つよそう。
すっごいつよそう。
究極だぜ? 合体だぜ?
しかもしかも!
『マシン』で『ロボ』で『機械』だぜえええええ!?!?!?
もうどれだけ俺達をワクワクさせてくれるんだ!?
“究極合体『マシンロボ機械兵』マークⅢ”は!?
まさに男のロマン! 今ここに最強の兵器が誕生した!
さあいけ、それいけ! いざ、発進せよ! “究極合体『マシンロボ機械兵』マークⅢ”!
俺達、男のロマンをのせて──。
「──じゃなああああい! 誰が男だ! 誰が! 私は女だ! ぴっちぴちの女子高生だあああああ!」
「ハヅキ、ぴっちぴちって表現はおっさんくさいよ……」
なにが“究極合体『マシンロボ機械兵』マークⅢ”だ!
誰だこんなアホみたいな名前つけた奴は!?
センスの欠片も感じないぞ!?
「はしゃいでるのはいいけど、そろそろ倒さないと。育ちきって外に行かれたら町に被害がでるよ」
「分かってるよ! くっそーなんか腹立ってきた! このイライラをぶつけてやる!」
「いくよ! ハヅキ!」
「“変身”!」
説明しよう!
私が持ってるどーみてもポイントカードな、この勇者の証“ジョブ・パスポート”。
これを左腕に装着したデジタル腕時計……“ワークベンダー”にかざしてスキャンする事で!
『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ユウシャ”!』
ワークベンダーの歌と共に、光が私を包んで──。
葉月ちゃんはユウシャにジョブチェンジ出来るのだ! すごい!
「よっしゃー! 先手必勝! 一気に行くよ!」
「待って! ハヅ──」
私は回廊を駆け抜け、ロボに向かって突っ込んだ。あの図体なら懐はお留守とみた。
中に入り込めば勝ったも同然よ!
走る私に気付いたのか、ロボがこちらを向く。
そしてでかい左腕をおろし、これまたでかいマシンガンの銃口を回廊に向ける。
「そんなもの、私が全部避けて──」
言ってから気付く。
あれ? ここ狭くね?
左右は高い石の壁に囲まれている。
……逃げ場なくね?
「ちょっとま──」
ガガガガガガ!!!
奴のマシンガンが火を噴いた。
薬莢の弾ける音が、周囲に反響する。
押し寄せる銃弾の嵐は一発一発が私の身体なみにでかい。
とても避けきれない。
私は剣を抜いて、銃弾をたたっ斬りながら急いで後退し、何とか来た道を引き返し、回廊の奥に逃げ込んだ。
「はあはあ、し、死ぬかと思った……」
「もー人の言葉を最後まで聞かないからだよ!」
「う……ごめん」
とは言うものの、これじゃあ近づけない。
奴は完全にこっちに気付いたようで、銃口を回廊に向けたまま動こうとしない。
多分一歩でも踏み出せば蜂の巣にされる。
さっきは退きながらだから相対的に速度が下がって剣で防げたけど、前に進もうと思ったら、まず見切れない。そのままお陀仏だろう。
「何か弱点はないか……? 何か……ん?」
ロボの向こう側……何かある。
……いや、よく見たら、あれ、人、じゃないか……?
黒く長い髪の女の子。あれは──…………。
「し、時雨……?」




