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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第二話 ダンジョンと“冒険者<ギルドライバー>”
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六章 女子高生、女子高生の中心で愛を叫ぶ VSマシーナ その2


「な、なんで時雨がここに!? 妖精、どういう事!?」


 部屋の中からこちらの回廊に向かってマシンガンの銃口を向けるどっからどーみても巨大ロボなユニークモンスター“究極合体『マシンロボ機械兵』マークⅢ”。


 その向こう側、足元の辺りに一人の女の子が倒れている。

 あの長い黒髪、高校生離れしたスタイルは間違いなく時雨だ。


「うーん……ここに入っているって事は……ああ、やっぱり」

「やっぱりなに!?」


「あの子、持ってるみたいだねー“ジョブ・パスポート”」

「時雨がジョブ・パスポートを?」


 ジョブ・パスポートは後六つあるって言ってたっけ。

 私が偶然手に入れた様に、時雨も手にしてしまったって事か……?


「偶然か必然か……勇者に選ばれた。いずれにしても興味深いね……」

「時雨……! とにかく、助けないと!」

「ハヅキ!? 突っ込んだって──」


 妖精の静止を振り切って、回廊を飛び出し、駆け抜ける。

 

「止まってらんないっての!」


 今はまだロボはこちらに気を取られていて時雨には気が付いていない。


 でもいつ気が付くかなんて分かんないじゃんか!

 また、あの時みたいになるのはもうごめんだっての!


 ロボのモノ・アイが妖しく光る。


 再び、激しい音をたてて、銃弾の雨がこちらに飛来する。

 でも私だって、無策で飛び込んだ訳じゃない!

 

「こんにゃろおおおおおお!!!」

 

 私は走りながら左右の壁を蹴り、上へ上へと昇っていく。

 そう。左右に道がないなら、上下へ避ければいい!


 幸いこの場所に天井はない。

 これなら、攻撃を避けきれる!


 壁を利用して、高速で高さを変えて敵の狙いをずらしていく。

 私の動きにロボはついてこれていない。

 滅茶苦茶な位置に弾を放っている。


「もらったああああああ!!!!」

「ダメだハヅキ! それじゃあ──!」


 よし! ロボはもう目の前だ。

 この位置からなら剣で斬れる!


 誤算だったのは、そう考えるのは私だけじゃなかったって事。


 私が、背中の剣を抜き放ったと同時に、奴の右腕が動いた。

 マシンガンにばっかり気を取られて忘れていた。

 そういえば持ってたね、ビームサーベル。


 振り下ろされる、圧倒的な熱源。

 私は咄嗟に剣を構えて防ぐ。


 剣が折れそうな程、熱い。

 火花をあげて、軋んでいる。


「ふ……ぎぎぎぎい……!」


 膂力が違いすぎる。

 鍔迫り合いにさえなっていない。


 奴が剣を振りぬくのと同時に、私の身体は、ラケットにぶつかったボールみたいに弾け飛んだ。


「がっ! ぐ……う……!」


 地面に激突した衝撃で、肺から空気が漏れる。

 全身に激痛が走る。


「ハヅキ! 逃げて!」


 相変わらず無茶を言う妖精だよね。

 そんなすぐ身体動かないっての。


 指先に力を込めただけで、骨が軋む。

 身体が悲鳴を上げてるってこういう事を言うのかもしれない。


 何とか顔を上げると、遠くで銃口が輝くのが見える。

 やばいね。これは、マジで死んだかもしんない。


(ここで私が死んだら……どうなる?)


 時雨が死ぬよね。


(何かこの状況……前に似てる)


 あの初めて変身した日、オークと戦った時の事を思い出す。

 あの時と違うのは、今度は時雨だけじゃないって事。


 私がここで死んだら、時雨が死んで……このダンジョンを生んだ女の子も、このまま目覚める事はないんだろうな。

 おまけにモンスターが外に行ったら、町が壊れてもっと多くの人が犠牲になる。


(ユウシャって……損な職業だねまったく……!)


 守らなきゃいけないものがどんどん増えていくじゃないかくそう。


「だから……こんな所で、死ねるか……!」


 胸にあるジョブ・パスポートが静かに光を放つ。

 身体の中心から力が湧きだすのを感じる。


 ガガガガガガガガガッッ!!


 また、薬莢の弾ける激しい音が、壁に木霊して、辺りに響く。

 容赦なく降り注ぐ弾丸を前にして、私は倒れこみながら、右手を突き出す。


「轟け! イカヅチよおおおおお!!!」


 雷光が私の前方を包み込む様に展開する。

 稲妻の盾が生み出すエネルギーが、唸りを上げながら、銃弾の直撃を防いでいく。


「妖精! 私が引き付けてるから、今のうちに時雨を! あんたなら外に出せるでしょ!?」


 時雨さえここから出してしまえば、急ぐ必要もなくなる。

 持久戦に持ち込んで、敵の弾切れを狙ったり、いっそのことここでの討伐を諦めて、外で撃退する手もある。


 学校は壊れるかもしれないけど、今は夜で人もいないしね。


「ハヅキ……分かった! 任せて!」


 妖精が角から飛び出し、通路のすみを駆け抜けていく。

 今まで見たこともない様な猛スピード。普段からあれぐらい気合いれてやれっての。


「く……!」


 腕が段々痺れてきた。

 雷を維持するのがこんなに辛いとは思わなかったよちくしょう。

 

「早くしてよ……! あんまり持たない……!」


 思いっきり、歯を食いしばる。

 ここは根性見せるところだぞ! 頑張れ私!




☆☆☆ ☆☆☆




 何か、声が、聞こえる、ような。


「……え。……きて。……! ……起きて!」


 思わず飛び起きた。

 耳元で叫ぶ可愛らしい声に、私の意識は無理やり覚醒させられる。

 

「な……なにが……」


 ゆっくりと今までの出来事を思い出す。

 確か、変なカードを拾ったと思ったら……弓道場が火事になっていて、美春を助けにいったと思ったら火事じゃなくて……?

 

「頭……痛い……!」


 ここは何処だろう? 気が付けば、石造りの床に倒れこんでいた。

 美春の姿も見当たらない。


「よかった! 起きたみたいだね!」

「え?」


 声のする方に顔を向けると、ふわふわと空中に浮かぶ小人がいた。


 美しく整った金色の髪、宝石の様に澄んだ青い瞳は、大きさも相まって人形を想起させる。

 汚れのないきれいな桃色のドレスを着ていて、背中からは翠色の羽が顔をだしていた。


 その姿はまるで……物語の中の『あの』、生物に似ている。


「貴方は……妖精さん?」

「ボクは“女神”! ユウシャを助けに異世界からきたんだ!」


「女神……? ユウシャ……?」

「キミはあんまり驚かないんだね。ハヅキなんて最初に出会った時は、それはもう酷かったのに」


「貴方が葉月の回りを飛んでるのは分かっていたから」


 最近、葉月の回りを飛んでる存在がいる事に私は気が付いていた。 

 てっきり、悪霊か何かの類に憑りつかれてしまったのかと思った。


 葉月が精神病を患ったり、爆発事故に巻き込まれたのもそのせいかと考え、密かに除霊の仕方なども調べて、近々有名なお寺にお祓いに連れて行こうか計画していたのだが、まさか“女神”と名乗られるとは思わなかった。


「成程……まさに、選ばれし者。勇者の力の持ち主って訳だね」

「?」


「ねえキミ。ハヅキが好き?」

「うん」


「そっかあ。なら良かったね! キミを助けに来たのは他ならないハヅキだよ!」

「え……?」


「ほら、あそこで頑張ってるでしょ?」


 妖精さんがある場所を指さす。


 その時、私はようやく今自分が直面している状況に気が付く。


 私の程近く、見上げると首が痛くなりそうな大きな人型の機械が動いている。

 昔、お父さんが見せてくれたアニメで似たものを見た事があったような気がする。

 

 その機械は左手に持った長銃を絶え間なく撃ち続けている。

 目標は、前方通路の向こう。


 機械に比べるととても小さく、私と同じくらいの大きさだろう。

 時折、何かが激しく明滅し、光を放っている。


 遠くてはっきりとは分からない……だが。

 この妖精さんの言葉を信じるならば……あの光の正体は……。


「葉月……なの……?」

「そうだよ! キミを助けたいって言って頑張ってるんだ」


「葉月が私を……」

「でも、あのままじゃあ長くは持たない。多分、そのうち潰れて死んじゃうんじゃないかなー?」


「死ぬ……!?」


 状況は、余りに現実離れしすぎている。

 夢なのではないか、とも思う。


 私は見た事ないが、明晰夢、という意識がはっきりした夢がある、とも聞いたことがある。

 ……でも、だとしても。


「……キミ、ハヅキを助けたい?」

「そんなの、当たり前でしょう!」


 例え、夢だったとしても、あれが本当に葉月なら、目の前で死んでゆくのを眺めるなんて、そんな事、耐えられない!


 私の言葉に、妖精さんはにっこりと微笑んだ。

 そして、空中でくるっと一回転し、何やら呪文を唱える。


「これは……?」


 妖精さんの呪文に合わせて、私の左腕が、輝きを放つ。

 気が付けば、黒と白の調和した、腕時計をはめていた。

 ウサギの様な模様が入っていて、とっても可愛らしい。


「それはワークベンダー。ジョブ・パスポートという特殊なカードをスキャンする事で、愛を力に変えるのさ。キミは持ってる筈だよ、戦う為の力を」

「カード……? ひょっとして、これ?」


 私は、先程拾った、アサシンと書かれた黒いラインの入ったカードを出す。

 妖精さんは笑ったまま静かに頷く。


「ハヅキへの想いをパスに込めるんだ! そしたらキミもギルドライバーに“変身”出来る!」

「葉月への想い……! 時雨、行きます! “変身”!」


『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “アサシン”!』



☆☆☆ ☆☆☆




「く……!」


 妖精は何やってんのかね!?

 葉月ちゃんそろそろ限界なんですけど……!


 段々、腕の痺れを隠し切れなくなってきた。

 作戦では、時雨の避難が完了次第、このままバリアを展開しつつ後退する予定だったんだけど……。 

 うん、非常にまずい。もう戻るだけの余力ないかも。


 銃弾の雨はやむ気配すらない。

 ひょっとして、弾切れとかしない感じなのか?

 いよいよ死が目の前に迫ってる気がする。 


 死……か。

 ダンジョンに入った時、馬鹿みたいなやりとりを妖精としたけど、今度は冗談じゃない。

 今この身体が震えるのは、体力の限界からくるものかな? それとも……怖い、のかな。


「ぐ……っ!」

 

 やばい。

 本格的にバリアを維持出来なくなってきた。

 まだ、時雨がいるってのに……!


「情けない! 私の馬鹿! 馬鹿葉月! もうちょっとぐらい耐えろってのお……!」

「……もう、頑張らなくていい。前にも言ったよね、葉月」

「え……?」


 きらり、と視界の端で閃光が走った。

 閃光は巨大ロボの左腕に真っ直ぐ進むと、そのまま貫く。


 次の瞬間、突風と共に、空間を斬撃が走った。

 ロボの腕が真っ二つに斬り裂かれ、バチバチと回線をショートさせながら、地面に落ちていく。


 腕が落ちた事で、銃も止まった。


「一体何が……?」


 私は雷の展開を中止して、現状を把握しようと目を凝らす。


「お待たせ、葉月」

「──時雨!?」


 うそ……なんで、時雨が……それにその恰好は……!

 

 時雨の恰好は……ものすっごく簡単に一言で説明するならば……『黒いスクール水着』。


 全身がぴっちぴちの黒タイツで包まれている。

 手には革の手袋。銀色のナイフを握りしめている。腕を斬ったのもこれかな。相当な切れ味だね。


 足には黒い二─ソックスと、長めのブーツ。

 首元には赤いスカーフが巻かれていて、その上から、チョーカーを嵌めている。




 …………どう見てもプレイ中の変態です。

 本当にありがとうございました。


「葉月……私オシャレにはあまり詳しくないけれど、その恰好は外出するにはちょっと恥ずかしいと思うよ」

「お前に言われたくないわ! 鏡見てこい、馬鹿!」


 確かに露出とかは私の方が多いかもしれないけど!


 なんていうか、時雨のあの格好は身体のラインがくっきり見えるんだよね。

 時雨のスタイル抜群な、むちむちわがままボディであれやられると……うん、エロい。


 並ぶと、まだまともな服で良かったなって思う反面、どうしてだろう? このそこはかとなく漂う圧倒的敗北感は。


「ハヅキ! 無事でよかったよー!」


 のんきなセリフと共に帰ってきた妖精。


「ちょっと妖精!? これは一体どういう事!?」

「えっへん! 凄いでしょ! シグレにも戦う力があったからね。ギルドライバー“アサシン”の誕生ってわけ!」


「『えっへん!』じゃない! 私外に出せって言ったよね!?」

「『今すぐに』とは言われてないからね」


「そんな屁理屈を……!」

「なんでそんな怒るかなあ? むしろ褒めてほしいよ。シグレが変身してなかったらハヅキは今頃バラバラになって死んでるよ」


「ぐぬぬ……!」


 悔しいいいいい! でも、確かにその通りだと思う。

 実際、時雨の姿を見た時は、凄く安心しちゃったから。


「妖精さん、ありがとう」

「えへへ! シグレはいい子だねえ!」


 なんか二人で盛り上がってるし……!

 時雨は、本当に分かってるのかね?

 変身した事の意味をさ!


「大丈夫だよ、葉月」

「え?」


「私を、心配してくれてるんだよね? これから戦わなきゃいけない事に」


 時雨は私の目を真っ直ぐ見つめている。

 長いまつ毛の奥、大きな黒目が、私の姿を捉えている。


「私は、むしろ今まで戦えなかった事の方が悔しい。葉月が傷ついていたのに、何も出来なかったなんて……そんなに辛い事は無いから。私は大丈夫だよ……だって────」

「だって──?」


 時雨は一度言葉をきる。

 そして、こっちをみつめたまま、何でもない事の様に、いつものトーンで言った。




「私は葉月を愛しているから」

「はい!?」


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