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「わたくし、”鷹司響”と申します」
名前の部分をやけに強調しながら、手を胸辺りに置いてこっちを見る。
いや、それよりもまた、出会ってしまった……。
強気そうな目に自信たっぷりな表情。俺と姉の間では女版天逢坂と呼ばれていたこの子は……
雫ちゃんのライバル、鷹司財閥の社長令嬢、鷹司響!!!
まさか。まさか同じクラスな上、隣の席だとは。
……うーん、正直あんまり得意なタイプじゃないんだよな。偉そうなところとか、姉を思い出すし。
でも。
やっぱり直接見ると、すげー美人。綺麗なプラチナゴールドの髪の毛を手で払う仕草すら様になっている。
あまりジロジロ見ると失礼なので、俺は姿勢を相手へと向け、挨拶をした。
「初めまして、西原伊織と申します」
「自己紹介は結構ですわ。貴女の事はもう十分存じておりますから」
フンとそっぽを向きながら言われてしまった。
あ、そういえば鷹司響って、何故だか外部からの生徒を毛嫌いしてんだっけ?明確な理由はゲームで語られてなかったけど。
「初日から随分と廊下ではしゃいでいらっしゃったようですけど、学び舎であのような行為は慎んでいただきたいですね」
「あ、申し訳ありません。以後気を付けますね」
あちゃー、やっぱりあの場面見られてたか。注目されてたしなあ。
と言っても、俺は全然悪くないけどね。完全に巻き込まれた形になるんだけども。
「貴女と、もう一人。朝河さん、でしたかしら。今まではああいった行為が許されてたかもしれませんけど、この学園では通用しませんわよ?」
おほほほほ、と漫画のテンプレみたいに高笑いする。フィクションの中だけだと思ってたけど、初めて目の当たりにした。意外と違和感が無いのは相手が鷹司響だからなのだろうか。
「天逢坂様のお手を煩わせないよう、気を付けて下さいね」
フフンと笑い、見下すような目をされた。
わあ、またしてもテンプレ。ってかこの子天逢坂信者だったのかよ!
このゲームの主役である雫ちゃんと、そのライバルキャラである鷹司響。
基本のシナリオは、雫ちゃんが男キャラと親密度を上げていき、恋愛を成就させる人気乙女ゲームなのだが、親密度を上げていくと必ず邪魔に入ってくるキャラがいる。それがこの鷹司響だ。
乙女ゲームには珍しい特殊な設定なんだけど、恋愛相手が天逢坂じゃなくても必ずライバルポジションにいる。現に俺がプレイしてた時も3人程別キャラを攻略してみたけど、必ずこの子が何かしらの邪魔をしてきてたし。
ただ単純に雫ちゃんを目の敵にしているだけであってそのキャラを本当に好きになっているって訳じゃ無さそうだ。天逢坂に対しても、憧れが強いような気がするし。
そう分析してみると、意外と可愛らしい所もあるんだな、と何故だか関心を抱いてしまった。ちょっと興味湧いてきたな。
ニヤケ気味だったのがバレたのか、思いっきり苦虫を噛み潰したような顔をされたが。