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担任が来るまで、まだ少し時間があるようで俺は暇つぶしに何かしようと鞄を漁る。前の席の生徒達は皆それぞれ会話を楽しんでいるようで、なかなか話しかけ辛い。コミュ障な自分が憎らしい。
スマホでもいじるか、と考えたが、誰一人としてスマホを手元に出していなかったので止めておいた。もしかして校則でダメとかあり得そうだ。
つーか現代人ならスマホくらい弄り倒せよ!俺なんか現実では大人なのを良い事にソシャゲに課金しまくりのどうしようもないゲーム中毒者だったぞ。
そんな事を思いながら鞄を漁っていると、手に何かが当たった。
「(ん?)」
チラと鞄を覗くと、スマホとオーガニックのリップの他に、一冊の本が仕舞われていた。
紺色の上品なブックカバーに包まれていて、題名を知ることは出来なかったが。
生徒の中には、教科書を読んでいる子や、伊織と同じく持参した文庫本を読んでいる子も居るようだったので、俺は安心する。
よし、暇つぶしはこれで決まりだ。元々漫画もゲームも小説(主にラノベ)も好きなので、これはかなり有難い。
早速俺は表紙を捲る。
一頁目には大きな余白の真ん中に『蛍に鳴く』とタイトルが書かれていた。名前的には文学小説っぽい。流石にお嬢様はラノベとか読まないのかな?
次頁を捲ろうとすると、手が滑ってしまい誤って本の終盤まで飛ばしてしまう。うお、と内心吃驚したが表情には出さないよう気を付ける。
飛ばした頁の間には伊織が読んだ印なのか、透明な金魚の栞が丁度挟まっていた。
開かれて盛り上がった本にポツンと挟まれていると、透明な栞から文字が透けて見えて、まるで文字の川を泳ぐ金魚みたいでとても綺麗だった。
……っと、いけない。悠長に眺めてたけど、こんなところで小説の盛大なネタバレを食らったらまずい。しばらくはこれが俺の暇つぶしなんだから。
俺は字を読まないように栞を引っこ抜く。窓から差し込んだ光がキラキラと反射する栞をマジマジと見つめていると、隣から声が掛かった。
「貴女、西原伊織さん……ですわよね?」
凛とした涼しい声に思わず顔を上げた俺は、声の方向へと視線を向ける。
……って。まさかこの女の子は……!




