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14 もう一人

14 もう一人


「ケンジ!」

 大きな音とともに家のドアが開けられる。

 一瞬にして家の中をぐるりと睨みつけたのは、やってきた鬼の形相の客。

 しかし、その鬼の形相も部屋の隅で放心しているケンジを見て、毒気を抜かれたらしい。

 やってきた客――マリナは呆れたような表情で彼に近づいた。

「何か一言言ってやろうと思ったけど、アンタの顔見たら、そんな気も失せたわ」

「マリナ……ぼ、ボクは……」

「よくわからないけど、そんなところでアホみたいな顔下げてないで、椅子にでも座りなさい」

 マリナに担がれ、ケンジはようやく椅子に座る。

 フィーナが出て行ってから二時間ほど経過しようとしていただろうか。その間、ずっと部屋の隅で放心していたのである。

 硬い床に座り続けていたので、ケツは痛いし、心も痛いし、半分生きる屍と化していた。

「庁舎で姉さんの様子がおかしかったから、アンタのところで何かあったと思ったんだけど、こりゃ思ったより複雑そうね」

「複雑なもんか。ボクがヘマをしたってだけだよ……くそっ、現世にいた頃からドン臭いのは直ってないのか」

 この世界へ来てマナを摂取し、身体能力は向上しているはずなのだが、肝心なところでミスをしてしまうのは、もはや魂に刻まれた呪いか何かなのではなかろうか、とすら思ってしまう。

「まぁまぁ、何があったかは知らないけどさ。とりあえずご飯でも食べて、私に話してごらんなさいな」

「ご飯……そうか、フィーナさんが作ってくれたのを、そのままにしておいたんだった」

 テーブルの上には昼食の準備が中途半端な状態で終わっている。

 食器は並べられているものの、食べ物は用意できていない。きっと暖炉の鍋を覗けば、フィーナの作ってくれたスープがあるはずだ。

「お腹が減っていると、人間は悪い方向へ考えが向くって聞いたわ。とにかく、まずはご飯を食べることよ」

 いつになく優しいマリナに準備してもらい、ケンジは何とか遅めの昼食を摂るのであった。


****


「あー、なるほどね」

 ご飯を食べている間、ケンジは先ほど起こった出来事について、マリナにちらほらと説明をしていた。それを聞いて、マリナは深くうなずく。

「そりゃアンタが悪いわ」

「うっ……わかってるよ。全部ボクが悪い」

 どれだけ『事故だ』『本意ではない』と弁明しても、結果だけ見てしまえばケンジが無理やりフィーナを押し倒したことになる。

 加えて言えば、ケンジは町を救う使命を帯びたストライダーだ。そんな立場であるケンジがフィーナを押し倒したとなると、どうだろう? フィーナに残された選択肢とはいくつあるだろうか?

 この世界の女性も、易々と身を預ける女性というのは軽んじられる。いわゆる尻軽女としてさげすまれるだろう。だが、相手が町を助けてくれるかもしれない人間だとなると、無碍に扱うのもはばかられるはずだ。

 ストライダーの機嫌を損ねて、町を見捨てられたなら困るのはフィーナだけではない。

 それを考えると、フィーナはあの時、ケンジを押しのけることなど出来るはずもなかったのだ。だからこそ、彼女はケンジを受け入れる素振りを見せたのである。

 つまり、ケンジは相手の弱みに付け込んで女性を手篭めにしようとした、と思われてもまったく仕方がないのであった。

「アンタ、正直引くほど下衆なことしたわよ」

「やめてくれ。ボクだってめっちゃ後悔してるし、きっと君の立場だったらボクもドン引きすると思うけど、今は心が弱ってるんだ。そんな視線でボクを見ないでくれ」

 マリナの視線はとげとげしい。いや、いっそどんな鋭利な刃物ですら再現できない切れ味をもってケンジの心を切り刻むかのようですらあった。

 このままそんな視線に晒され続けていたら、廃人と化してしまうかもしれない。

「まぁ、アンタが自分のやったことを悔いているなら、誠心誠意謝るしかないんじゃない? 姉さんも鬼じゃあるまいし、きっと誠意が伝われば許してくれるわ」

「ホントにそう思う? フィーナさんがボクのことを虫以下の存在のように扱い始めたら、ボクはきっと立ち直れないと思うんだ。上手く行かなかったら、誰が責任を取ってくれる?」

「そのウジウジしたところ、本気でぶん殴りたいくらいイラつくわ」

「君はもうちょっと歯に布着せる言い方ってのを覚えてよ。ボクのガラスのハートは傷つきやすいんだぞ……」

「アンタのメンタル強度のことなんか知らないわよ。とにかく、アンタに出来ることなんて、とりあえず頭が磨り減るぐらいに地面にこすり付けて謝り倒すぐらいしかないでしょ? やれることが限られてるなら、すぐに実行しなさい。今すぐ」

 マリナの物言いはぶっきらぼうで暴力的でもあったが、しかし単純でわかりやすくもある。

 変な婉曲表現を交えず、真正面から思い切り正論をぶち当ててくる彼女の言葉は、今のケンジにとってはある意味ありがたかったかもしれない。

「うん、そうだね。とりあえず、一度庁舎に行ってみる。フィーナさんに謝ってくるよ」

「ええ、そうしなさい」

 ケンジは食器を空にした後、それをチャチャッと片付けて勢い良く外へと飛び出して行った。

 今すぐにでもフィーナに会って謝りたい。その一心だったのだろう。

 彼を見送りながら、マリナは小さく笑う。

「不本意だった、か。アイツなら、今までの奴らとは違うのかもね」


****


 一方その頃、フィーナは町の中をとぼとぼと歩いていた。

 庁舎での仕事をしていたのだが、それに身が入らず、小さいながらもミスばかりするので、町長であるグラナルから、ちょっと頭を冷やして来い、と言われてしまったのである。

 そのため、気持ちを落ち着けるために町のパトロールに出ていたのだが、それでも心の中は混乱したままである。

「ケンジさんがあんなことをするなんて……」

 頭の中をぐるぐるしているのは、先ほど起きた事件のことばかり。

 今までいい人だと思って接していたケンジが、急にフィーナを押し倒した。その事実がどうしても頭から離れない。

 おそらくではあるが、あの事件はケンジの本意ではないのだろう。

 しかし、それに確証がもてない。

 もしかしたら、ケンジも『あわよくば』を狙っていたのではないか、と自分の中にある疑念が首をもたげるのだ。

 ケンジを信用したい気持ちは確かにある。だが、それよりも疑ってしまう自分のほうが強かったのだ。それがとても恨めしい。

「私はこんなにも人を信用できなくなっていたのね」

 自分の中に強く根ざした疑念の心が、とてつもなくショックであった。

 そんな失意のフィーナが伏し目がちに町を歩いていると、俄かに人通りが多くなったように感じられた。

 気がつくと、大通りの広場付近にまでやってきていたようだ。

 人口が増えてきたレデニアの町では、住人以外の人間の出入りも多くなっていた。

 ゆえに、町のメインストリートである南通り、ひいては大通りの中心である広場には多くの人が集まるようになっている。

 その光景はレデニアの全盛期の記憶のようでもあり、フィーナにとっては嬉しいものでもあった。

 しかし。

「おいおいおい、これは傷物じゃねーかよぉ」

「それをこんな値段で売りつけようなんて、酷い商売しやがるぜぇ?」

 広場に人が多いのは、単に大通りであるから、と言うわけでもなさそうであった。

 人だかりの一部から、柄の悪い声が響いてくる。

 フィーナが覗き込むと、とある行商人の露店にて冒険者らしき二人が難癖をつけている最中であった。

 冒険者の手には果物が握られており、そこには確かに若干の痛みがある。

「馬鹿を言わないでくれ! それが傷物なのはわかっているからこそ、他の品物よりも大分値引きしているじゃないか!」

「カーッ! こんなもんを売りつけようって根性が信じられないって言ってるんだよ! こんなもん、タダでよこせっつーんだよ!」

 冒険者の一人が行商人の荷台を蹴り飛ばす。

 重たい音がして、荷台がぐらりと揺れた。

「な、何をするんだ! 買う気がないならすぐにどこかへ行ってくれ!」

「買う気ならあるぜ? だが、こんなもんを商ってる店なら、どんな傷物がまぎれてるかわからないからなぁ。せめて安心して買い物が出来るように、全品値引きぐらいしてもらわないと」

「そんな馬鹿なことが出来るか!」

「だったらこの品物、全部調べることになるなぁ? そうじゃないと安心して買い物が出来ねぇもんなぁ? それとも、買ったモンに傷があったら、返品してもいいのか?」

「このっ……」

 冒険者の言葉はほとんど言いがかりである。だが、商人のほうにも確かに問題があった。

 一つでも傷物をまぎれさせておけば、こんな状況になることぐらいは想像にかたくない。それをわかっていてなお、傷物を混ぜて商いを行っていたのは、あの行商人もそれほど良い商売人ではないという証拠であった。

 人が多く出入りするというのは、それだけ怪しい人間も出入りするということである。柄の悪い冒険者も質の悪い行商人も、この広場に出入りしているということは、レデニアが今のところ、そのレベルの町であるという評価の表れだ。

 そもそも瘴気が近くまで迫ってきている上、ドラゴンが近くに住み着いている町など、普通に考えれば魔境に近い場所である。そこに寄ってくる人間の質も推して知るべし。

 場末の町へやってくる人物としては、あんな冒険者も行商人も、仕方がないことであった。

 フィーナもその辺は承知していたことだ。この程度のトラブルは想定済みであるがゆえに、有志の警備員を町中にも警邏させている。

 しかし、今は丁度タイミングが悪く、誰もいないらしい。

「仕方ない……ここは私が」

 自分の頬をたたいて気合をいれ、フィーナは事件の渦中へと歩み出る。

「お話は聞かせていただきました。この場は私が預かります」

「お? なんだ、アンタ?」

 フィーナの登場で、冒険者二人はそちらに顔を向ける。

 冒険者二人はどちらもフィーナより遥かに身長が高い。彼女を見下ろすように、視線を向けるその様子は、強い威圧感を受けても不思議はないだろう。

 しかし、フィーナはそれに対して一歩も退くことなく立ち向かう。

「私はこの町の運営を預かる庁舎の職員です。広場で揉め事を起こすのは止めていただきますわ」

「役人か……へぇ、アンタみたいなのがねぇ?」

 口元をゆがませた冒険者の一人は、品定めをするかのようにフィーナを眺める。

 その下卑た視線を全く物ともせず、フィーナはもう一歩前に出る。

「この商人さんは、私たち庁舎の許可を得て商いを行っているのです。商品に不備があったのは事実のようですが、彼の商売の邪魔をするのは認められません」

「邪魔だなんて心外だぜ。俺は気持ちよく買い物をしようとしたんだ。だがもろもろの事情があってそれも叶わなくなった。そこで妥協案を持ちかけた。簡単な話だろ?」

「あなたたちが食料を求めているのならば、他の店を紹介できます。彼の店以外にも店はありますしね。それでも彼の店に難癖をつけて安く仕入れようというなら、こちらも相応の対応をしなければなりません」

「相応の対応、ね? 何をするってんだ、お嬢さん?」

 フィーナの目の前に屈強な男二人が立ちはだかると、壁と形容してもおかしくないぐらいの圧迫感だ。気を抜けば押しつぶされてしまいそうですらある。

 しかし、フィーナも退かない。

 こんな冒険者風情に気後れしていては、町の運営など夢のまた夢である。

「強制退去、ぐらいのことはさせていただきます」

「それをアンタがやるってのか? その細腕で?」

「出来ないとでも思ってるんですか?」

「へぇ……やってみろよ」

 町の広場に剣呑とした空気が立ち込める。

 冒険者二人とフィーナを中心として、一触即発の状況が形成されてしまった。

 フィーナにとっては、これは下策である。力比べで冒険者二人に勝てるはずもない。もうちょっと上手く話を運び、穏便に退去していただくのがベストだったはず。

 この失敗もまた、ケンジとの事件が影響した所為であろうか。

 だが、こうなってしまったからには仕方がない。どうにか切り抜けなければならない。

 しかも庁舎の権威を落とさないように、だ。ここで冒険者や商人に舐められるような対応をとってはならない。フィーナは庁舎の看板を背負って介入したのである。下手な対応をしたなら庁舎の沽券にかかわる。

 政治を行う者にとって面子というのはかなり大事なものだ。それを損なうことは許されない。

 ゆえに弱気に出ることは出来ない。

 だからといって、フィーナに出来ることなど限られているのだが……いったいどうするべきか。勝算が全く見出せなかった。

 フィーナがどうするべきか悩んでいると、結論が出る前に冒険者がズイ、と歩み出る。

「やってみろっつってんだろうが、オイッ!」

「……ッ!」

 目の前で怒声を上げられ、フィーナの身体は反射的に硬くなる。

 ビビるな、と念じても恐怖は取り払えなかった。

「お? お嬢さん、震えてるのか?」

「くははッ! 威勢がいいのは口だけかよ!」

 冒険者二人の耳障りな笑い声に、フィーナは顔をゆがめる。

 このままではいけない。だが、どうすることも出来ない。

「おい、お嬢さんよ。こっちも冒険者稼業をやってんだ。冒険者ってのも面子は大事でよぉ。女に舐められたとあっちゃ、商売上がったりなんだ。……どういうことか、わかるな?」

「俺らにも面子があるんだ。ちょっとは痛い目見る覚悟くらいあるだろうな?」

「ちょっとこっちに来てもらおうか」

 男の手がフィーナに伸びる。

 その手を払いのけて逃げ出すのは簡単だ。だが、そうすることも出来ない。そんな無様な姿をこんな往来の多い中で見せるわけにはいかないのだ。

 かといって男たちを倒す術もない。万事休すであった。

 フィーナはどうすることも出来ず、男の手が迫る中、諦め半分で目を閉じ、身を硬くする。

 ……しかし、男の手がフィーナに触れることはなかった。

「ちょっと待った」

「……あ?」

 フィーナが目を開けると、男の手が誰かに掴まれている。

 確認すると、フードつきのマントを羽織った見知らぬ誰かが、その状況に介入していた。

「なんだ、テメェ……」

「邪魔しようってのか?」

「邪魔……というより、助太刀かな。ちょっとこの状況は見捨てておけない」

 介入してきた男の声は、見かけのスラッとした体躯に見合わず、少し幼い印象を受けた。

 少年といって差し支えないほどの年齢なのだろうか。目深にかぶったフードで、その表情を窺うことはできないが、恐らくはフィーナよりも若いのだろう。

 だが、その細腕は冒険者の手をがっちりと押さえ込んでいるようである。

「て、テメェ……」

「このまま何も言わずに立ち去るならよし。そうでないなら、ここからは俺が相手になる」

「舐めやがって、ガキがッ!」

 冒険者の一人は、抑えられていないほうの腕を振りかぶり、少年へと殴りかかる。

 その豪腕から繰り出されるパンチは、少年に大打撃を与えるのに申し分ない破壊力を有しているように見えた。

 しかし、少年は冒険者の拳を難なく受け止める。

「な、なに……ッ!?」

「なるほど、了解した。闘りあうってことだな」

「うぉっ!?」

 少年の言葉のあと、不思議なほど軽やかに、大柄の冒険者が空中を舞った。

 ぐるりと円を描くように空中で回転した冒険者の身体は、そのまま地面へと叩きつけられる。

「ぐへっ……」

 強か背中を打ちつけた冒険者は苦しげな声を上げ、痛みにもだえた。

 さらにそこへ、少年の追撃が襲い掛かる。

 倒れた冒険者の顔面に向けて、容赦ない鉄拳が降りかかった。

 ゴッ、と鈍い音がして、冒険者は動かなくなった。

「て、テメェ、調子に乗りやがってッ!」

 残ったもう一人は、頭に血を上らせ、帯びていた剣の柄に手を伸ばした。

 もはや引っ込みがつかなくなったのだろう。だが武器を抜いてしまえば、相手の命を奪うところまで事件が発展してしまう可能性が高い。

 町の中で刃傷沙汰など、治安の乱れもいいところだ。

「ま、待って! それは……」

 フィーナが止めに入ろうとしたのだが、それよりも早く少年が動く。

 剣を抜こうとしていた冒険者の腕をがっちり押さえ、彼の抜剣を事前に止めていたのだ。

「ぐっ……!?」

「剣を抜くのなら、もう一度確認させてもらう」

「なんだとぉ……」

「俺と、殺しあうつもりなんだな?」

 少年の放つその言葉に、冒険者は息を呑んだ。

 年齢にして一回りは違いそうな少年が、冒険者を威圧していたのである。

 少年の身のこなし、そして単純な力は冒険者のそれを凌駕していた。それは冒険者の腕を押さえているその手から充分に感じ取れる。

 このまま続ければ、最悪、命を奪われる。冒険者の男はそう感じた。

「今なら見逃す。すぐにここから去れ」

「……ッ!」

 何も言い返すことが出来なくなった冒険者。

 少年はゆっくりと彼の腕を離し、フィーナを背にして立つ。

 その様子を恨めしげに見ながら、冒険者は気絶していた相方を担ぎ、その場からすごすごと立ち去っていった。

 冒険者の姿が見えなくなった頃、野次馬からちらほらと拍手がこぼれた。

 それは瞬く間に大歓声となり、少年を称える賛美となった。

「すごいぞ、少年! よくやった!」

「スカッとしたぞ!」

「若いのにすごいわ! 感動しちゃった!」

 周りから沸く、少年を褒め称える声に、しかし少年はばつの悪そうな顔をしていた。

 傍で見ていたフィーナは、そんな様子を見ながら、少年の手をとる。

「ありがとうございました。助かりました」

「あ、えっと……」

「私はフィーナと申します。この町で役人をしております。よろしければお名前を教えていただけませんか? お礼もしたいのですが……」

「すみません、俺、ちょっと用事がありますので」

「え? あ、あの!」

 少年はフィーナの手を振り払うと、すぐに走り去ってしまった。

 後姿はすぐに見えなくなり、追いかけることも出来なかった。

「あの人……どこかケンジさんに似てた」

 すでに消えてしまった少年の姿を見送りながら、フィーナはそんなことを呟く。

 上手く言えないが、少年のまとっていた雰囲気のようなものが、ケンジに似ているような気がしたのだ。

「そんなわけない、か。私の気のせいよね」

「フィーナさん!」

 すると、そこに聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 やってきたのはケンジ本人。人垣を割ってフィーナへと近寄ってくる。

「フィーナさん、あの、ボク……」

「ケンジさん……やっぱり、あの人は」

 ケンジが現れたのは、少年が走り去ったのとは逆側。

 まず間違いなく、あの少年とケンジは別人であった。

 ならば、彼はいったい……。

「フィーナさん、ボク、謝りたくて……」

「え? あ……いえ、大丈夫です」

「え?」

「あれはきっと事故だったのでしょう?」

「は、はい、そうなんです! ボクは、えっと……」

「大丈夫です。ちゃんと、わかってますから」

 いつの間にか、フィーナの心に渦巻いていた嫌な気持ちが晴れていた。

 きっと、先ほどの少年のお陰であろう。

 いつかまた、偶然か何かで出会うことが出来れば、その時にはきっとお礼をしよう。

 そう思って、フィーナはまた、いつもの生活へと戻っていくのだった。


****


『人前で目立つ行為は避けるように、と言ったはずですが?』

「仕方ないじゃないですか、あれは。俺だって、好きででしゃばったわけじゃありませんよ」

『だったらもう少し慎んでください。あなたは――』

「わかってます。……たまに町に出て気晴らしするぐらい許してくださいよ」

『……まぁ、あまり小言を言っても起きてしまったことを消し去れるわけでもありませんからね。次からは気をつけてください』

「すみませんでした。……それで、今日はどうしますか?」

『では、新しいブレイヴを授けましょう』

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