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ブロローグ2

 葬儀が終わり、母さん達が泣いている姿を見ていられなくて、私は外に出た。


 「さてさてさーて。これからどうしようかなぁ」


 立ち直りが早いのが、私の数少ない特権の一つだ。

 ふよふよと宛もなく見知った道を行ったり来たりする。

 しっかし、真っ暗な道を漂ってると、自分の体が微妙に光っている気がして地味に怖いな。

 本当に幽霊なんだなあ、なんて空中で華麗に宙返りを決めてドヤっていると、突如後ろから声をかけられた。


 「やっと見つけたぞ。全く、苦労を掛けさせるな」


 びくりと大袈裟な程驚き、まさか霊能力者か!? 退治しに来たのか!? と恐る恐る振り返り、その姿に見惚れる。

 純白の、身体の線が丸見えな美しい丈長のワンピースに、膝裏まで伸ばした月明かりで輝く金髪、その額には虹色に輝く綺麗な雫型の宝石が付いたアクセサリーーー確かヘアネックレスって呼ばれてる物だった気がするーーを着けていた。

 だが、そんなもの達なんか霞む程の美しい美貌。

 整った目鼻立ちに青い瞳と小さな唇。恐らく、化粧などの小細工は一切使っていないのだろう。真っ白な肌に豊満な胸、綺麗なくびれにきゅっと締まったお尻。

 もう憎らしいを通り越していっそ惚れるくらいだ。


 本当に綺麗な人は、飾る必要がないんだな……。

 ぼーっと見つめていれば、形の良い眉がきゅっと寄せられ、不機嫌そうな声が桃色の唇から発せられた。


 「何をぼけっとしている?早く来い」


 そう言うや否や、裸足も同然の足でぺたぺたと近付き、私の腕を引く。


 「へ? え? ど、どこへ…!?」


 それに我に帰った私は、意外に早い速度で歩く女の人に引かれ、躓きながら慌てて質問する。

 そんな質問に、女の人はまた怪訝そうな顔で振り向くとそっけなく答えた。


 「どこって、冥界だ冥界」


 そして、その言葉と同時に目の前に現れる巨大な両扉。

 女の人は未だに状況が理解出来ていない私を気にせずその前でピタリと止まると片手を翳した。直後に感じる地響きと轟音。

 扉が完全に開けば、女の人はまた歩き出しずかずかと扉の中へと入ってしまう。対する私は、女の人に腕を引かれている為に拒否権など無く。そのまま引きずられるようにして扉の中へと連れ込まれてしまった。



………

……



 いつの間にか瞑っていた目を開ければ、そこは質素な空間が広がる何もない部屋だった。

 白一色で統一された部屋には、事務机の様なそれより一回り程大きな机が一つと、その後ろに何だか座り心地が良さそうなふんわりとした革張りの一人掛けソファが置いてある。そして机の上には、白一色の中でそれだけ目立つ赤っぽい色の木槌がちょこんと置かれていた。

 裁判官が、静粛にっ! とか言って叩くやつだね。結構うるさいんだよねあれ。日本じゃ使われてないから、実際見るの初めてなんだけど。

 そんな現実逃避じみた思考に浸っている間に、部屋に入ると扉はまた音を立てて閉まっていく。

 いつの間にか手を離していた女の人が私の目の前にある事務机に近付き、その後ろにあるソファへと腰を下ろす。

 座る時、よっこらせ、と聞こえた気がしたけど気のせいだと思いたいな……。


 「さて、まずは謝らせて欲しい。すまなかった」

 「へ?」


 唐突に始まった謝罪にポカンと呆ける。

 え、ちょ、ちょっと待って。私この人に何かされたっけ? 全く記憶にも自覚にも無いのだが…?

 そんな気持ちを悟られでもしたのか、私の疑問の答えを聞く前に教えてくれた。


 「実はアレ、私がやったんだよ」


 ア…レ…? アレ……とは?

 そんな事一つしか思い当たらない。

 あの突き飛ばされた一件だ。あれ以外に何かあるだろうか? いや無いだろう。


 「たまたま外界に遊びに来ていた際にあの子供を見かけてな。いやー、丁度近くにお前がいたから有難く使わせてもらったぞ。しっかし、驚かせて助かってハッピー! な演出をしたつもりが、まさか死ぬとはな。お前も運が無い奴だ!」

 「は、はぁ……」


 目の前で、カラカラと楽しそうに笑う女の人に腹が立たない訳ではないのだが、元来の性格故に苛立ちという感情がそこまで湧かない。


 もともと弟以外では怒鳴った事も、それこそ腹が立ったという経験もない。

 いつも人の目や感情に怯えていたせいか、“誰かに対して感情をむき出しにする”という行為を今までにした事がなかった。これをしたら相手がどう思う、これをしたら自分はどう思われる、そんな事ばかり気にしていたから、家族にしか、特に弟にしか当たれなくて、毎日反省してたもんだ。


 私がそう曖昧に返せば、まだ喉奥でくつくつと笑いを転がしながらも話を続ける。


 「まあ、ハッキリ言えばお前の死は手違いという事だ」


 あ、やっぱり某漫画の主人公そっくり。なら生き返る為の試練とか何とかが……。

 そこまで考えて、女の人の次の言葉でその思考はガラガラと崩れ落ちる。


 「ただ、お前を生き返らせる事は出来ない」

 「えっ!?」


 まさか、生き返らせて貰えないなんて予想外だった。

 やはり私は“今更生き返りたいとかないからいいけどさ”なんて思いながら未練たらたらだ。

 情けなくも困惑と縋るような表情で女の人を見つめてしまう。


 「そう慌てるな。別に、このまま死者として生まれ変わる準備ができるまで冥界で暮らせなどと言っている訳ではない」


 あれ、やっぱり死んだ人って生まれ変わるまで冥界で暮らすんだ……じゃなくて!


 「え、じゃあ、つまりはどういう…?」


 ますますよくわからないという思いを乗せながら女の人を見れば、女の人は白い歯を見せてにかりと笑った。


 「代わりに転生させてやる」


 細く長い足を綺麗に組み、机に両肘を当てて手の甲に顎を乗せながら、にこにこと楽しそうに私の態度を伺っている女の人。

 対する私は、


 え、え、ぇえ!? ちょ、ちょちょちょっと待ってちょっと待て!! 今転生だと!? 転生させてやると言ったのか!? 我ら二次元オタクの最大の夢である転生だと!?

 脳内で絶賛混乱中であった。

 ま、待て待て落ち着け雪音よ。こういうのは別に異世界とかそういう場所では無い可能性が高……


 「転生先は、お前が好きな二次元とやらのよくある設定の場所だ。妖精や精霊、魔物や悪魔なんかがいて、もちろん魔法も適正があれば使う事が出来るぞ」


 混乱中の私が面白かったのか、またくつくつと笑いながらそんな事をのたまうこの人。

 あ…これはもう……この人を疑うとか私自身がどうかしてるぜっ……。

 もはや悟りを開いたような心境に陥った私はもう何でも許せそう。というか殺してくれて有り難いとさえ思っちまう……。

 異世界転生なんて二次元オタクの最大の夢だからな。同胞達の無念を私が晴らしてやれるかもしれない…!! うんっ!


 「で、早速転生してもらう訳だがその前に、」


 女の人は立ち上がると、未だうふうふあははと惚けている私に近付き、視線を合わせる為に腰を曲げて私の顔を覗き見た。


 「うわっ!」


 いきなりの超至近距離に精巧な作りの人形のような顔が現れ、つい後退ってしまう。そんな私にまた笑いながら、形のいい唇を動かす。


 「お詫びにと言っては何だが、一つだけお前の願いを叶えてやろう。何を願う?」

 「ね、願い…?」


 待ってましたこの時を!! そんなもの、あれしかないだろうあれしか!!


 「わ、私の…私の願いは……チートな男主人公になりたいです!!」


 声高々にそう宣言すれば、爆笑された。


 「あはははははっ!! そうかそうか! ある意味予想の範囲内というか何というか! では、本当にそれでいいんだな? 悔いはないか?」

 「はいッ! 大丈夫です!」

 「そうか」


 爆笑した際に出た涙を指で拭いながら、女の人はまた近付いて来て今度は腕を伸ばして私の額に手を翳してきた。

 不思議に思いながら自分の額を見つめていると、そこからぼうっと淡い光が発せられ、それは徐々に大きくなる。


 「私をここまで笑わせてくれたのはお前が初めてだ。褒美にもう一つ、私からプレゼントをやろう。きっと泣いて私を崇めるだろうな!」


 光に意識を飲まれる中、そんな女の人の楽しそうな声が、どこか遠くで聞こえた気がした。

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