第4話 フルバースト
<海賊たちの反撃>というミッションがある。
これは、<Wizard Soldier Online>の中で存在していたミッションの一つである。街に侵攻しようとした海賊たちを迎撃しろ、という内容であり、今回のこの騒動は間違いなくそれに準ずるものだ。
要塞へと侵攻する部隊と沿岸部に侵攻する部隊の二つに分かれているのがその証拠だ。
当然。
ハルトは<Wizard Soldier Online>時代にそのミッションを経験している。これから起こる流れも全て解る。それらの情報を全て統計し、まずこの戦闘においてハルトが行わなければならない事は、既に彼の中ではハッキリしていた。
(まず向かうべきなのはあそこか。アレはまだ完成していないから時間的にギリギリになるが......)
海賊たちが使用しているWSは<パイレツァ>と呼ばれる水陸両用タイプの機体である。海賊たちは<パイレツァライド>と呼ばれる水上滑走用ユニットと併用して<パイレツァ>を運用する。よって、海賊たちの主となる戦場は水上ではあるが、陸上での戦いも行う事がままある。
<パイレツァ>はグレーのボディカラーに人型のシルエット。腕部と脚部、胸部装甲が少し厚みがついており、頭部はバンダナを被ったようなデザインになっている。右手にはカットラス型のブレードが装備されている。
沿岸要塞から出撃してきた機体が接近しているのを確認すると、街の外壁へと侵攻していた海賊たちのWSが四機、その場から離れて要塞から出撃した機体――シルバの駆るWSを取り囲んだ。
「いきなり活気づいているがどうかしたのか? 普段はビビったように要塞には近づかない癖によォ」
『うるせえ! 今おまえらの要塞に戦力が無いのは解りきっているんだよ!』
「なるほど。バカにしちゃあ考えたらしいな。が、虫のように壁にへばりつくだけじゃ何もできないぜ」
『てめぇ......そんな口を叩けるのは今の内だぁ!』
<パイレツァ>の内の一機が飛びかかってきた。現在、シルバが搭乗しているのは<カーディア>の改修型である<カーディア改>である。<カーディア>の持っていた両腕の盾は新たに改修され、<A.I.P.F>の展開が可能になっている。
「ガキ共が」
<カーディア改>は身をかがめ、右腕の盾で跳びかかってきた<パイレツァ>を受け流す。次に、残りの<パイレツァ>三機がいっせいに仕掛けてきた。まず二機を<A.I.P.F>を発生させた大型シールドで受け止め、そのまま弾き飛ばして残りの一機にぶつける。三機がひるんだところで素早く腰のマシンガンを取りだして連射する。
放たれた弾丸は全て的確に<パイレツァ>の一機のコクピットを撃ちぬき、爆散した。
「次だ」
最初に受け流した<パイレツァ>が再び襲い掛かってきた。それを見たシルバは大型シールドからダガーを取り出し、右手に装備する。次に、左腕のシールドからほんの一瞬だけ<A.I.P.F>を発生させる。大型シールドから六角形の光の盾が展開する。
カットラスとシールドが激突する。
直後。
「!!」
シールドから迸る魔力がカットラスを一瞬にして弾き飛ばした。その隙を狙って<カーディア改>は<パイレツァ>を蹴り飛ばし、地面に転倒させてから機体を片足で踏み抑え、銃口を足元の<パイレツァ>に向ける。
瞬間、マシンガンから弾丸が迸る。
ゴッ! と。
海賊の機体が爆散した。
「俺も伊達に歳を重ねたわけじゃねえよ」
バキッと<パイレツァ>の残骸を踏みつぶし、一歩。また一歩と海賊たちに近づいていく。
「さて。さっさと逃げ帰った方がいいんじゃねえか?」
二つの爆炎が迸るその中間で、銀色の亡霊が二匹の獲物を見据えていた。頭部を少し傾け、改修されたことで色が変わった頭部センサーの赤い光がギラリと光っていた。
複数でかかっても勝てないと読んだのかじりじりと残りの二機の<パイレツァ>が後ずさる。
『く、くるな!』
「あ?」
――ただの命乞いか? そう思い、再び一歩近づこうとした瞬間だった。
『こ、この沿岸部に上陸した際に、街の外壁に爆弾を仕掛けた!』
「......!」
確かに、シルバがこの場に到着した際にあの海賊たちは外壁部へと侵攻していた、アレはただたむろしていたわけではない。恐らく爆弾......それも頑丈な街の外壁を吹き飛ばせるだけの威力を秘めたものだ。
この状況下で下手な脅しは逆効果だと相手は知っているはずだ。よって、この言葉は真実である可能性が高い。 ――さて、どうするか。
シルバがそう考えた瞬間だった。
フッと地面に人型の影が映る。そう思った次の瞬間だった。
ズンッ! と、どこからか放たれたワイヤーアンカーの先端が<パイレツァ>の胸部――つまりコクピット――を貫いた。暗いグレーの色をした巨人が爆ぜる。
そして、<カーディア改>の隣に漆黒の戦士が着地した。
「......お前にしてはなかなか遅かったじゃねえか」
ニヤリとシルバが楽しそうな笑みを見せる。その視線の先には圧倒的な戦闘力を持つ少年の駆る実験機、<タケミカヅチ>が出現していた。
「申し訳ありません。ちょっと用事を済ませていました。それに、シルバさんならこの程度の相手ならば余裕でしょう?」
「違いねえ」
海賊は、突如として現れたイレギュラー......いや、ターゲットの一つである実験機の登場に困惑していた。援軍がたった一機。確かに要塞部への戦力を割かなければならないのは解る。だが、たった一機というのも変だ。そもそもこの場に最初に現れたのが<カーディア改>一機だけという時点でおかしい。
『な、なんだ、お前は⁉ こっちには爆弾が......』
「その爆弾っていうのはこのガラクタの事か?」
<タケミカヅチ>が無造作に放った黒い鉄の塊。それを見て海賊がぎょっと目を見開く。
それこそがまさに、彼らが仕掛けた爆弾そのものだった。
『なっ、は⁉ そ、んな? 味方が? セットしておいたはずなのに? 連絡も、無かったのに?』
通常、いざという時の切り札である爆弾をセットした辺りには護衛がつく。そして何者かが爆破を阻止しようと動けば、敵襲が来ればここで戦っている者たちにも連絡が来るはずだ。だが、それが無かったということは。
連絡をよこす暇もなく、実にアッサリと――殺られてしまったということだ。
「ああ、それならここに来る途中で潰しておいた。案外楽だったぜ」
『なっ⁉』
「にしても、こんな威力の爆弾、どこで手に入れた? 通常のルートでは手に入らないものだが」
『ま、て......! こんな短時間でその爆弾を無力化したのか⁉ 一体どれだけの高度な解体魔法が必要になると思っている⁉』
そう。
これはとある傭兵を名乗る男から手に入れた北の大陸で製造された特殊な爆弾だ。解体魔法の術式もかなり高度かつ複雑になり、この大陸ではその解体魔法を扱えるだけの人物はそう多くない。違う大陸で製造されただけに解体に必要なプロセス、術式もこの大陸の物とは全く違うということも関係している。
ましてやこんな短時間でそれが出来るとなると数えきれる程しかいない。
敵の部隊を瞬時に殲滅し、短時間で爆弾を無力化......最低でも一国のエース級の技量は必要だ。
「そうか? そんなに難しくは無かったけどな」
かつてハルトが達成したミッション、<海賊たちの反撃>ではこういった爆弾イベントがあった。敵を倒したのち、<海賊たちが仕掛けた爆弾を無力化せよ>というミッションが新たに追加されるのだ。当初はどこに仕掛けたのか場所が解らず、仲間と共に沿岸部中を駆け回ったものの、今回は一度経験しているミッションなだけあって比較的容易だった。まさか、敵を倒す前に未然に爆弾を無力化出来るとは思わなかったが。
<爆発物解体>の魔法スキルが完全習得だったことも大きいだろう。
強いて言えば一番厄介だったのは爆弾のある場所まで走っていかなければならないことだっただろうか。しかも敵に爆発させる隙さえ与えず秒殺するのも楽と言えば楽だが厄介と言えば厄介でもあった。
『こ、この野郎――――!』
自暴自棄になったのか、<パイレツァ>はカットラスを大きく振りかぶりながら突進してきた。ハルトはため息をつきながら、華麗に大ぶりの一撃をかわすと、すれ違いざまに漆黒の刃を一閃。
次の瞬間、<パイレツァ>の胸部装甲が両断された。
さきほどまで刃を振りかざしていた巨人は、一瞬にして赤い炎と共にただの鉄屑に成り果ててしまった。
外壁部で作業をしていた者たちも全てハルトが殲滅してしまった為にこの辺りに存在していた海賊たちは全て殲滅してしまったことになる。
「あとは要塞の防御が気になりますね。いそぎましょう」
「そうだな......まあ、あまり心配ないとは思うが」
「?」
沿岸要塞には海の敵を迎撃する為のシステムがある。例えば魚雷発射施設や長距離砲などがそれにあたる。
とはいえ。
この世界の最強の兵器であるWSにそれらを当てるのは難しい。
それらの兵器が初めて効力を発揮するのは味方WSによる足止めがあってこそなのだ。勿論、最近は技術も進歩して精度も日々上昇しつつある。しかし、手数が少ない今日の場合は沿岸要塞の装備も威力半減といったところだろうか。そう海賊たちが読んだ。それは間違ってはいない。少なくとも、最近までは。
『オラオラオラオラァァァァァ!』
『ヒャハハハハハハハハハハハ!』
<パイレツァライド>は水上からサブマシンガンを連射しながら翻弄するかのように沿岸要塞側の攻撃をかわしていく。要塞側も迎撃システムとWS総動員で対処に応じているが数が少ないが故に苦戦している。
要塞側の攻撃は虚しくも海面に直撃し、水柱があがるだけだ。
その状況下で。
沿岸部に紅蓮の巨人が地面を踏みしめて現れた。
海賊たちは水上バイクのような形をしたユニットである<パイレツァライド>を器用に操り、要塞から放たれる砲弾を巧みにかわしながら接近する。沿岸部からの弾幕も薄い。いくらあの赤い実験機が高性能だとはいってもたった一機ではどうする事も出来ない。
海賊たちはそう予想した。
だが、それは間違いだった。
読み違えた、油断した、と言ってもいい。
彼らは忘れていた。
沿岸要塞には<血の赤>というエースがいたことを。
「......目標確認」
言うと。
ユリは<カグツチ>の砲門を開く。腕部のガトリングガン、胸部、脚部のミサイル、そして肩部の<コンヴァージェンスキャノン>とバックパックの<コンヴァージェンスランチャー>。
肩の<コンヴァージェンスキャノン>が砲門の向きを水上の敵に向け、バックパックにある二門の<コンヴァージェンスランチャー>がアームによって腰の部分から展開される。更に<タケミカヅチ>の予備パーツから新たに政策された頭部のフェイスカバーが開き、<放出口>にもエネルギーが蓄積されていく。
遠距離魔導砲<炎神の息吹>。
<タケミカヅチ>の物とは違い、<放出口>から放たれるエネルギーは完璧に収束し、<カグツチ>の持つ武装の中では最大の威力を持つに至っている。
「.....発射」
ユリは躊躇いもなく、一斉射撃を行う。直後に、<カグツチ>から一斉に赤い光が迸った。
<A.I.P.F.>によって束ねられたエネルギーが紅蓮の矢となって敵を一掃する。ミサイルによる一撃は連鎖的な爆発となって水上に広がっていく。
爆発。爆発。爆発。
確実に、的確にWSの残骸が増えていく。炎の海は広がり、駆け巡り、拡散していく。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
<カグツチ>は吼える。
咆哮と共に<カグツチ>の全身から放たれた一撃は見事に敵を殲滅させた。
水上には轟々と赤い炎が燃え上がっている。
元々、これを機に要塞を攻略しようとしていた海賊たちはこの要塞部分には約四十機もの戦力を揃えていた。だが、今の<カグツチ>の一撃で、たった一度の攻撃で、大半の戦力が殲滅された。
「ば、バカな......魔力が、収束している? こんな技術、まだどの組織も開発できていないはず......⁉」
呆然と。
ただ、呆然とする。
ただの海賊ではある彼らだが、少なくとも騎士たちの技術力がどの程度なのかはWSを見れば大体解る。だからこそ、この実験機の持つ技術力が異常なのだ。いや、異常なのはこの機体を開発した者たちか。
<カグツチ>の一撃によって主導権を得た要塞側の戦力は反撃を開始した。
要塞の装備が威力を発揮し、次々とかろうじて残存する海賊たちを追い詰めていく。
どちらが優勢なのかは目に見えていた。
そして。
海賊の方のリーダーも、引き際は心得ていた。
「ぜ、全機撤退! 撤退だ!」
沿岸要塞の圧倒的な戦力を目の当たりにした海賊たちは、撤退と言う行動をとらざるを得なかった。
何故ならば、このまま戦闘を続けても全滅するのはこちらだということは解りきっているのだから。
「へぇー。あれが新しい実験機か。なかなか面白いじゃねぇか」
空中でシドは最後まで戦闘の様子を眺めていた。最初は沿岸要塞側の戦力を侮っていたが、あの新型の実験機が予想以上の破壊力を秘めていたことがわかったので、見た価値はあった。
海賊たちに渡した爆弾がまさかあんなにもアッサリと無力化されるのは思いもしなかったが。
「まぁ、爆弾の件で完全な歓迎ムードとはいかなくなっただろぉが......問題ねえか」
真下では海賊たちが撤退していくのが見える。残った海賊の数は十六。今回投入した数は約五十。この数だけで、海賊たちがどれだけ本気だったか伺える。わざわざ他の海賊たちと結託してこれだけの数を揃えたのだ。それがこのありさまだと知られれば今回襲撃した海賊たちの風当たりは相当強くなる。
「さぁてと、ここからが本番だ」
ニヤリとシドは不気味な笑みを浮かべると、ワイバーンを操って海賊たちを追った。




