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第2話 戦士との再会

 あの後、ユリに案内されながら一行は<ストックキャニオン>の中を再出発した。前方に<カグツチ>、後方に<タケミカヅチ>、その間に馬車と大型トレーラーというような陣形をとっている。

 マリナはトレーラーの中で<カグツチ>の中にいるユリと端末を通じての会話を始めていた。


「それでユリちゃん。どうしてこんなところに?」

『......定時連絡でマリナたちが近くまで来ていることが分かったから一足早く調整が終わった<カグツチ>で試運転がてら迎えに行こうとしてた。でもその途中でビーストが襲い掛かってきて、戦闘を始めようとした直後にマリナたちがここを通りがかった』

「そういうことだったんだ。最後の細かい調整はまだだったけど、どうだった? かぐたんの様子は」

『......かなり良い。気に入った。さすがマリナ』

「そっかぁ。よかったぁ~」


 にぱっと向日葵のような笑顔を咲かせるマリナの表情には素直な喜びが現れていた。やはり技術者として、現場のパイロットから良い評価を受けるのは嬉しいことらしい。

 アイリスは馬車の中でそんな通信会話を聞きながら、端末に移る<カグツチ>のデータに再び目を通していた。一度、目を通しておいたものなのだが、現物を見た後の確認の意味をこめている。


「やはりもっとも注目すべきは両肩の<コンヴァージェンスキャノン>、バックパックの<コンヴァージェンスランチャー>、でしょうか」


 この<コンヴァージェンスキャノン>こそが、<A.I.P.F.>の技術を応用して新開発された射撃武器である。

 これは射撃系魔法、つまり魔力をエネルギーの弾として放つ武器である。実弾よりも威力は当然高い上に、実弾と違って予備の弾倉などによる重量を軽減する事が出来る。

 これまでの研究で魔力を動力源ではなく攻撃の為のエネルギーとして利用出来ないかということは各国の科学者たちが考えてきたことだった。しかし、魔力を攻撃エネルギーとして放つことは出来てもコントロールし、<収束>させることが出来なかった。

 <タケミカヅチ>に試験的に導入した、近距離波動砲<雷神の息吹ソールブレス>が良い例だ。

 攻撃エネルギーの放出は出来た。しかし、収束しないが為に威力も拡散し、射程も狭い。

 そこで、マリナが考え出したのが攻撃エネルギーを<A.I.P.F.>で包み込んで収束させてしまうという物だ。そのアイデアから生まれたのが両肩の<コンヴァージェンスキャノン>と、本来ならば<カグツチ>のバックパックに装備させる予定の<コンヴァージェンスランチャー>である。

 <コンヴァージェンスランチャー>の細かい最後の調整はマリナの手がなければ完成せず、その他諸々の事情も混みでこうしてグラジオラスに向かっているのだった。


「<コンヴァージェンスランチャー>のパーツは今運搬中だから、向こうについたらさっそく組み立ての作業に入るね」

『ん。わかってる』


 やはり二人は知り合いらしく、その会話に淀みは無い。その辺りが気になったアイリスがマリナに質問した。


「マリナさんとユリさんはお知り合いなんですか?」

「うん。そうだよ~。私とユリちゃんは元々今の所属とは違う場所の所属だったんだけど、そこで友達になったんだよ~」


 どうやらマリナがハクロ基地に所属する前の話らしい。ということはかなり前からの知り合いというわけだ。


「あら?」


 アイリスがふと窓の外に視線を移してみると、グラジオラス要塞所属の別部隊とすれ違ったのが見えた。そのまま見ていると、グラジオラス要塞方向から来たWSの部隊と何度かすれ違った。


「手が離せない時期とは聞いていましたが、これだけの数のWSを投入しているとなるとよほど大規模な計画のようですね」


 アイリスの疑問に<カグツチ>のコクピットの中のユリが答える。


『ここ最近は特に忙しい。もうすぐしたら正式な通知と計画案がハクロ基地にも届くと思うけど、つい最近になって<ストックキャニオン>の中に<大地の恵みガイアギフト>が発見された』

「新しい<大地の恵みガイアギフト>が?」


 この世界の街や村には大なり小なりほぼ必ず<大地の恵みガイアギフト>を利用した補給施設が存在する。魔力はこの世界をまわすためのエネルギーであり、そしてそれが無限に溢れ出てくる<大地の恵みガイアギフト>は一つあれば都市一つが出来上がる。

 つまり新たな<大地の恵みガイアギフト>が発見されたというのはそれだけ重要で重大な事実なのだ。

 これからはグラジオラスから隊を定期的に派遣・交代しての警戒任務が続くだろう。


「グラジオラスの近辺で発見されたということはこれからグラジオラスはもっと豊かになるかもしれませんね」

『......うん。きっとそうなると思う。だけど、それを実現する為にも今はとても重要な時期』


 新しい<大地の恵みガイアギフト>が発見されたことはハクロのようなここから離れた所からならばともかく、この辺りに住む者ならば知ることはそう難しくはない。都市一つをまわしていけるだけのエネルギーを持つ<大地の恵みガイアギフト>が見つかったとなれば――いや、この世界に住む者ならばどれだけ<大地の恵みガイアギフト>というポイントが重要かを知っている――発見されたとなれば、それを狙う者たちがいてもおかしくはない。

 よって、まずグラジオラス側としては補給施設を建てて、その周辺にWSの護衛を配置し、拠点防衛用の武器などを設置して、護りを強固にする必要がある。補給施設の周辺にWSや兵器を配置するとなれば直接エネルギー供給を受けることが出来るので実質的にエネルギーは無限になるというメリットも存在する。

 そもそもアイリス達が機体の受け取りに出向くことになったのはグラジオラス側が機体の輸送に人員を裂けなかったという理由が最も大きいだろう。<ストックキャニオン>を突破するにはそれなりの準備と人員とWSが必要だからだ。


『作業は急ピッチで進められてるから、一週間ぐらいはかかると思う』

「という事はこの一週間が勝負、ですか」

『最近は<A.I.P.F.>技術の発達によって防御という面に関しては前よりは心配はなくなったから、護衛に関してはそう難しくはないと思う』


 ここ最近、対ビースト戦にしても対ドミナント戦にしてもブルースターは戦闘において優勢にたちつつある。大きいのは魔力防御シールド<A.I.P.F.>の普及による為だ。量産が開始されたばかりでブルースターが治める<アンスリウム大陸>全土に行き渡っていない。それはドミナント側の大陸に派遣しているブルースターの騎士たちの方への配備が優先されている為だ。


「<大地の恵みガイアギフト>っていえばさあ、北と南の大陸は発生ポイントが少ないんだっけ」

「ええ。北の大陸と南の大陸は私たちやドミナントの東と西の大陸に比べて地形的な関係なのかどうか詳しいことは解りませんが、<大地の恵みガイアギフト>の発生ポイントが少ないようです。その代り、中立地帯となっている北と南の大陸から私たちはドミナントと平等に支援されたり支援したりという関係を保っていますが......なぜ急に<大地の恵みガイアギフト>のことを?」


 現在、世界は四つの大陸と四つの勢力に分割されている。

 東の<アンスリウム大陸>を治める<東国ブルースター>。

 西の<ジギタリス大陸>を治める<西国ドミナント>。

 南の<サルビア大陸>を治める<南国ムスペル>。

 北の<フィンブル大陸>を治める<北国ヴェトル>。

 元々、それぞれは一つの小さな国だった。しかしそれらは独自に発展を遂げ、徐々に勢力を増大させ、一つの大陸を治めるまでにもなった。そして東と西の大陸の勢力はそれぞれを侵攻し、侵略を始めた。その原因となったのはこの世界の唯一のエネルギー資源である<大地の恵みガイアギフト>だ。

 東と西は地形的な条件のせいなのか、詳しい事はわかっていないが<大地の恵みガイアギフト>の発生ポイントが多い。比べて北と南は少ない。北と南の両大陸すべての<大地の恵みガイアギフト>を足しても東の半分にも及ばないだろう。そして東と西が激突したのは多大な量の<大地の恵みガイアギフト>を独占する為だ。

 そこで、北と南はすぐさま中立を名乗った。<大地の恵みガイアギフト>の数が負けているということはそれだけ地力が東と西に比べて劣るということであり、東と西、どちらか一方に攻め込まれた場合には敗北する可能性が大きい。よって、東と西が争っている間に中立の立場としてそのどちらにも支援し、支援を受けたりしている。

 東と西の戦争が終結した時に少しでも矛先を向けられないようにするために。

 だが、今となっては北も南もかなりの力をつけてきているときく。ブルースターとドミナント、双方の技術提供を受けているためだ。

 もし、東と西のどちらかが北と南の大陸に牙をむけばすぐにもう片方の勢力に北と南はつくだろう。よって、現状としてブルースターもドミナントもそう簡単に北と南に戦争をしかけるようなことは出来ない状態である。

 閑話休題。


「ん? いや、北の大陸の噂を思い出しちゃってさ」

「噂?」

「うん。<世界の記録ワールドレコード>への案内人の噂」

「<世界の記録ワールドレコード>ってこの世界のどこかにあると言われている、あの?」


 アイリスでも、<世界の記録ワールドレコード>の噂......というより伝説の事は耳にしたことがある。

 というより、ここ最近の研究で真実味が増してきたことが発覚して世間が盛り上がった伝説だ。


 この世界のどこかに、この世界のあらゆるものを記録した<何か>があるといわれている。その<何か>こそが、<世界の記録ワールドレコード>である。

 <世界の記録ワールドレコード>には人や物、地形や気候、様々な現象や物質などが情報データとして記録されており、<世界の記録ワールドレコード>を手中に収めた者は世界の全てを知り、世界の全てを意のままに操り、異世界の扉をも開くという。

 最新の研究の結果でただの伝説であった<世界の記録ワールドレコード>が真実ではないか? というような結果が出たらしい。アイリスは詳しくは知らないが、噂好きの世間としては今でもその話題で盛り上がっているようだ。

 閑話休題。


「そうそう。んで、私が耳にした噂によると、その<世界の記録ワールドレコード>の場所はこの北の大陸のどこかにいると言われている案内人に案内してもらう事で初めて姿を現すとか何とか!」

「マリナさん......研究で信憑性が出てきた<世界の記録ワールドレコード>の方はともかく、研究者なのにそんな不確かな噂まで信じるんですか?」

「えー。だって面白いじゃん。それに真実かもしれないでしょ~? 」

「案内と言う時点でかなり怪しい気がしますが」


 そもそも仮に<世界の記録ワールドレコード>が事実だったとしれ、その場所を知るのが人と言う時点で案内人の噂の方はかなり怪しいことになりそうだ。そもそも世界のすべてを知り、世界のすべてを意のままに操れるような物の場所を知っていて、そのまま放置しておくだろうか?

 人である限り、欲からは逃げられない。

 そして人は、その欲一つで醜くなれる。こうやって、ブルースターとドミナントが戦争をしているように。


「でもでも、<世界の記録ワールドレコード>だって<魔鉱石>だって元々は都市伝説から始まったモノだよ?」

「あらゆる物質を創り出し、創り変えることの出来る石......<魔鉱石>、ですか」

「そうそう」


 <魔鉱石>とは、<大地の恵みガイアギフト>の源。魔力の源である。その石からは無限に魔力が生み出されており、近年の研究で<大地の恵みガイアギフト>は<魔鉱石>の集合体であることが判明した。

 もしも、この<魔鉱石>をWSに搭載することが出来ればWSは無限のエネルギーを得ることになる。しかし、肝心の<魔鉱石>を<大地の恵みガイアギフト>から取り出す技術は未だ確立されていない。

 <大地の恵みガイアギフト>内部は高濃度、高密度の魔力の塊であり、人間が生身で入ると体が持たない。かといって、WSや作業用の機械が触れると原因不明の反応を起こし――話によるとWSや作業用機械がとり込まれた・・・・・・らしい。

 現在の人間に出来るのは<魔鉱石>から生み出された魔力を人間に害が無いように変換し、溜めることだけだ。


「......まあ、<世界の記録ワールドレコード>や<魔鉱石>のことを出されると反論は出来ませんが」

「でしょでしょ? そうでしょ~?」

『......マリナは相変わらず噂好き』

「だって噂を集めるのは私の趣味だもん!」


 そうした話をしつつ、一行は進む。予定よりやや遅れたものの、昼頃に新メンバーを加えた<魔術師の実験プロトウィザード>は<要塞都市グラジオラス>に到着した。

 対ビースト用の巨大な壁に囲まれた街の中は名前からつくイメージとは裏腹に中はとても綺麗な街並みだった。

 芸術品のようなデザインの民家や建物が街を形作るその様はこの街一つそのものが芸術品のように見える。とはいえ、ここからさらに先。街の沿岸部に建っている武骨な要塞がなければ、の話だが。


 正門を潜り、内壁部に沿うように作られている騎士団用経路を通る。普段はこの経路を通ってWSは移動する。しかし、緊急時には正門付近にあるグラジオラスの第二基地から兵を出すか、街中にある緊急用WS通行経路を通るかで対応する。


 <カグツチ>の最終調整は沿岸要塞内部の格納庫で行われる。ここで<コンヴァージェンスランチャー>の組み立てと搭載、機体調整を行う。

 格納庫につくや否や、マリナはさっそく<カグツチ>の最終調整に取り掛かった。


「さてと、それじゃあ働きますか!」

「マリナさんは休まなくてもいいんですか?」


 長旅直後にも関わらず元気いっぱいの幼女の体力を心配したハルトが言うが、マリナはけろっとした顔でそれを拒否した。


「ううん。私、ぜんぜん疲れてないよ! それにはやく<かぐたん>をいじくりまわしたいしね。うへへへへへ。じゅるり。おっといけねぇ」

「あ、そうですか......」


 だらしない顔をして涎を垂らしている目の前の幼女はこうして文章だけ見ると抱くイメージとは裏腹に、現実にはまったく卑猥には見えない。むしろイメージが崩壊を起こしている。沿岸要塞の騎士団長と挨拶をかわし、説明を受けたアイリスのもとにハルトが向かう。


「お嬢様、長旅でお疲れになったでしょう。とりあえず今日は部屋でお休みになってください」

「そうですね。マリナさんはともかく、他の皆さんはお疲れでしょうから。部屋を用意してくださっているそうなので、まずはそこに移動します」

「了解しました」

「それじゃあ、その部屋には俺が案内させてもらおうかね」


 と、二人の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ってみると、そこにいたのは一人の騎士。いや、戦士といった方が的確か。


「シルバさん?」

「久しぶりだな、坊主に嬢ちゃん」


 頬に刻まれた傷に銀色の髪。飄々とした雰囲気を持ち、筋肉質で肩幅の広い体。

 ニヤリとした表情を二人に向けるのは<銀色の亡霊シルバーファントム>の二つ名を持つ男、シルバ・アリク。その人だった。






 要塞内にある宿泊用スペースを案内するシルバの後を<魔術師の実験プロトウィザード>の面々が続く。


「メガロのあの攻防戦以来か。元気してたか?」

「ええ」


 ここで「シルバさんもお元気でしたか?」とは聞かない。彼は以前の戦闘で多くの仲間を失ったばかりだからだ。そのことでグラジオラスの護りにも若干の不備が出たようだが、今こうして中を案内されているということは何とか無事やっているようだ。


「気ぃ遣わなくてもいいぜ。仲間が死ぬことなんざ戦場では珍しくねェ。ま、あの時は相手が規格外過ぎたけどよ」

「......シド」


 メガロを襲い、あの攻防戦そのものを仕組んだ存在。シド。あれからシドの足取りはまったく掴めていない。

 ビーストを操ることが出来る兵器の存在は既に情報として上に報告しているものの、その影も形も全く掴めていない。


「まあ、今はそのことを考えても仕方がねえ。目の前の敵に集中しなきゃな」

「目の前の敵って、やはり<ストックキャニオン>で発見された<大地の恵みガイアギフト>のことでしょうか?」

「そうだ。ユリから聞いたのか?」

 シルバの問いかけにハルトは頷く。


「<大地の恵みガイアギフト>が発見されたっつーことは、あそこを狙う敵が出てくるだろうからな。とりあえず、警戒すべきは賊共か」

「もし賊の手に<大地の恵みガイアギフト>が渡れば......」

「あまり良いようには使わないだろうな。やつらが平和主義者だったら問題ないんだが、そんなやつが賊なんてやらねぇだろうしな」


 とはいえ、今の<大地の恵みガイアギフト>周辺には沿岸要塞から派遣された騎士たちによる強固な護りで警戒を固めている。


「まっ、とりあえず今、一番警戒しなきゃならんのは沿岸要塞ここだな」


 現在、沿岸要塞の護りはその殆どを<大地の恵みガイアギフト>の護衛に割いている。故に本拠地である沿岸要塞の護りは手薄だ。


沿岸要塞ここの護りなら、宿泊費として自分が微力ながら手を貸しますが」

「そりゃ有りがたい。いくら要塞の迎撃システムがあるとはいえ、海賊バカ共あいてに今の人数はちょいと不安なんだよ」


 ただでさえ、メガロの一件でかなりの戦力を失ったのだ。ここは新たに発見された<大地の恵みガイアギフト>を利用して戦力の回復を図りたい沿岸要塞側としては多少、本拠地の護りを手薄にしてでもポイントを護りたいところなのだろう。


「......正直に言えば、休んでほしいところだが......仕方がないか。畜生」

「? 自分なら大丈夫ですよ」

「いや、そういうのもあるが、まあ、その、なんだ。俺個人の事情だから気にすんな」

「はぁ。そうですか」


 案内された部屋は、確かに中々のものだった。高級とまではいかないが上質な宿となんら遜色はない。あの武装された武骨な外観からは想像できない、外の街と同じような雰囲気の部屋だった。ハルトはまず、持っていたアイリスの荷物を運び入れる。

 外の海の景色を眺めながら、アイリスはシルバに素直な感想を漏らした。


「素敵なお部屋ですね」

「気に入ってもらえたなら何よりだ」

「お嬢様、荷物はこの辺りに置いておきます。何かあれば、隣の部屋に自分がいますので、何でもお申し付けください。シルバさん、食事はどうなっているのでしょう?」

「ん? ああ、食事は食堂でとってくれ。時間は七時から十時までだ」

「ではお嬢様、食事はどの時間になさいますか?」

「えっと、それでは七時からにしようかしら」

「わかりました。では七時前にお迎えに上がりますので部屋でお待ちください」

「ええ。ありがとう」


 淡々としたやり取りを終えると、シルバが呆気にとられたような表情をしながら、


「なんだ、そうしていると本当に使用人みたいだな。てっきりお二人さんは付き合っているのかと思ったぜ。オジサンは」


 シルバの何気ない一言にハルトはきょとんとし、アイリスは顔を真っ赤にする。


「なっ、なななななななな、何を言っているのですか⁉ .................そ、それは、その......私だってそうだったらいいと思ってますけど......でもでも......」

「御冗談を。自分如きがお嬢様をお付き合いをするなんてそんな恐れ多い。お嬢様のような魅力的な女性は自分如きでは釣り合いませんよ。身の程は弁えてます」

「......」


 一時は顔を真っ赤にして慌てふためくアイリスだったがハルトの一言によってバッサリと切り捨てられてしまったことですうっと頭が冷えた。というより「まだ言うかコイツは」とでも言いたそうな顔をしている。

 そんな二人のそれぞれの反応(アイリスの独り相撲にも見えなくもない)を見てくつくつと笑うシルバにアイリスは思わずむすっとしてしまう。


「く、くくっ......。いや、すまんね嬢ちゃん.....見ていてあまりにも面白すぎて」

「ええそうですか。そうでしょうね」

「いや本当にすまん。それでこいつの鈍さこれはマジなのか?」

「そうですよ。マジですよ。ずっとこんな調子ですよ」


 そのアイリスの言葉についに耐えきれなくなって噴き出したシルバと、更にむすっとした表情をとるアイリスの間でハルトは一人、状況が分からずじまいのまま立ち尽くしていた。



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