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Anomaly02: 変幻自在の屋敷

1999年8月、デルタイ・テンカン国・ホロガンド市の市場。内戦中だというのに賑やかな街の中で、少女がアイスクリームを頬張っている。

「クソガキくん、いったいそれで何杯目よ?」

エルネアは子守代が経費で落ちるかを考えている。

「エミエとお呼びなさい、おばさん!」

王妃とサイコメトラーが取っ組み合いを始める。少し経って、互いに息を切らしたころ、エルネアが今回のアノマリーを説明する。

「『変幻自在の屋敷』、所有者はカインバ・カント・ホログ。しかし、管理はその息子のマフ・カント・ホログが行なっているわ」

エミエはタブレットでプロファイルに目を通す。

「わらわたちの目的は屋敷のカラクリの特定?」

それを聞いたエルネアはため息をつく。

「いいえ。屋敷の金庫を開けること。さしずめ、親子間の金銭トラブルってところかしら」

「第三小節」に舞い込んでくるトラブルはアノマリーの解析ばかりではない。もはやなんでも屋といったところか。それでも、エルネアにはアノマリーを追跡しなければならない理由があった。


「お待ちしておりました。イェラマンさま、エミエさま。わたくしは『変幻自在の屋敷』の主、マフ・カント・ホログでございます」

二人はマフの説明を聞き流すと、早く金庫へと案内するように促す。マフは笑顔のままで懐からスプーンを取り出す。

「『変幻自在の屋敷』は、わたくしの霊力が暴走してしまった結果生まれてしまったのです、このように」

スプーンが自ずと曲がる。あまりにも古典的な手品にエルネアたちは失笑する。マフはスプーンを手落とすと、木の枝を折り、念を込める。すると、木の枝はナイフに変わっていた。

「次は拳銃を、ってところかしら」

エルネアがエミエを背後に匿う。

「いいえ。この屋敷に入ったら最後、生還する保障はないということです」

エルネアはマフから金庫の鍵を受け取ると、二人は彼の忠告に構わず屋敷へと入っていく。


屋敷の中にはひどく殺風景な、古びた木造の廊下が広がっていた。扉を開けると、奥にまた別の扉が存在する。

「右手法、右側の壁に手をついて、ひたすら壁沿いに進むという方法よ。これなら、遠回りになっても、いつかはゴールに辿り着くわ」

エルネアが先を急ぐ。

「ちょっと待って、後ろの方からやましい感じがする」

エミエは振り返って来た道を戻る。すると、玄関に至る廊下がなくなっている。エルネアは来た道に印を置いてみるも、戻ってみると部屋ごと印がなくなっている。

「そういえば、木の枝のトリックはなんだったの?」

エミエはすでに疲れ果てていた。ここには腰掛ける椅子の一つも存在しなかった。

「単純な視覚誘導よ。手から落ちるスプーン、落下の衝撃音、意識は地面に向けられていた。おおかた、ナイフははじめから木の上に置かれていたのよ」

エミエは几帳面に来た道をメモしているが、役に立たないことを悟ると、メモを破り捨てようとする。

「待って!」

エルネアは閃いた。エミエにメモを続けるように指示する。


二人はついに金庫のある部屋に辿り着く。

「スライディングブロックパズルってやったことあるかしら。箱の中から小さい箱を取り出すゲームのことよ。いくら壁を動かしたって、屋敷の外枠は変わらない。だから、いつかは限界がくる。そうでしょう?」

エルネアは壁に向かってわざと大声で話す。すると、壁を動かしていた屈強な男たちが出てきて、二人を囲む。

「『力技』だとよく分かりましたね」

マフが二人の前に現れる。手には拳銃が握られている。

「一つは家具が一つもないこと。壁を動かすときに邪魔になるでしょう。もう一つは、暖色と寒色の照明。これだけで、部屋の印象が大きく変わるわ」

エルネアが看破して見せるも、危機的状況には変わりない。そのとき、エミエに直感が走る。

「なにか、やばいのがくる」


外壁が爆発する。

「どっかーん⭐︎まいど〜、殺し屋で〜す♡さあて、惨殺RTA、始まるよ〜!!」

女装した青年が瓦礫を蹴破ってくる。「緑天から」キュビ・エイリン、五天の裏切り者にして、過激派テロ組織「キュビ・フラウゼット」の首領。二丁の拳銃「黒月」が次々と敵を撃ち倒していく。

「さて、そこのお二人さん。さっさと金庫をあ〜けろ♡えーりんちゃんはそこの中身が知りたいのだ、えっへん!」

エルネアは硝煙に身を隠して金庫を開ける。中に入っていたのは金銭ではなく、大量の薬品だった。

「やっぱり、えーりんちゃんは名探偵だったのだ!『モート』、九地からレシピを盗んで作ったドーピング剤が、緋天ちゃんチームに盗まれていたとは、ぷんぷん!」

ヴァラリアが考案し、九地が作り出したドーピング剤「モート」は、五天に奪取され、傘下のカルト宗教「エアベン」の信者を使って実験が繰り返されたのち、「氏族連合」へと売り払われていたのだった。「腐らない遺体」とは、氏族連合軍の兵士被験体一号だったのだ。

氏族連合とて一枚岩ではない。五天との繋がりが露見すれば、カインバ公爵のような反五天勢力が一気に連合から離反する。モートは、なんとしても「第三小節」が持ち帰らなければならない。


「キュビ・エイリンさん。これは五天と氏族連合が裏で通じていた物証です。わたしたち『第三小節』に回収させてください」

キュビはエルネアに銃口を向ける。

「へえ、えーりんちゃんに逆らおうっての?」

今度こそ、万事休すかに思えた。エルネアは知恵を働かせる。金庫の中に別の小さな鍵があることに気がつく。おそらく、アタッシュケースの鍵だ。まだ、なにを隠している?そして、それはどこにある?

「『視線誘導』だ!」

エミエが声を上げる。金庫の上、死角となるそこにアタッシュケースがあった。中には、エアベンの人体実験の報告書が入っている。

「大⭐︎収⭐︎穫!これを持って帰れば、もっと楽しい遊びができそうじゃん!?」

キュビはアタッシュケースを拾い上げると、マフを引きずっていく。

「その薬はい〜らない!だって使い古しだもん⭐︎」

狂気の笑い声が遠ざかっていく。


後日、テンカナンド市のカフェ。エミエは「報酬」のケーキを頬張っていた。

「これは『天使』というより『餌付けされた犬』ね」

エミエはもぐもぐとなにか言い返しているようだが、エルネアの耳には届かない。

息子の仕業とはいえ、ホログ公爵家が五天からドーピング剤を購入していたことが露見すれば、公爵家の恥となる。テンカン国は情報の秘匿と引き換えにホログ公爵家の氏族連合からの脱退を要求した。ホログ公爵家に続く氏族や同じくドーピング剤を購入していた氏族の離反も秒読みだ。となれば、デルタイ内戦の戦況は大きく変化するだろう。

「エミエ、学校に通ったことは?」

エルネアの問いに、エミエは首を横に振る。長らく天使として担ぎ上げられてきたのだから、当然だろう。エミエは少し悩んだあと、水を飲み干してから、ぼそっと呟く。

「学校、行ってみたい」

エルネアはそれを受け止めると、To Doリストに「エミエの入学」と書き加えた。

『共和国物語』というシェアユニバース作品を書いています。

https://soshuko.github.io/RePubReader

架空世界/架空国家/架空言語/架空鉄道

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