追加記録 雪色を纏う
これはヒエイ隊における、冬の作戦の一幕の記録である。
「こうしていると、貴官の白さに磨きがかかりますな」
静かに降る雪は、待機中微動だにしないヒエイの体に積もり。白い鱗はさらに真っ白に染まっていた。
「本官も貴官の色に近づけて光栄であります」
隣に座っているわけではない。何台も戦車やら装甲車を挟んでの会話である。しかしモガミは確かにヒエイの方に顔を向けて、ヒエイもまた呆れたような流し目だけモガミに向けていた。
ある日、モガミはヒエイのもとを離れ別働隊として潜伏を行うことになった。
ヒエイの目のはるか先。新雪の中に潜り込み、白い偽装布を被りカモフラージュしたモガミの姿があった。
『敵機動部隊エンゲージまで残り五分。戦闘態勢取れ』
『了』
届くのは、作戦のための命令だけであった。
それがどうしてか、ヒエイの演算に揺らぎをもたらしていた。
あの鮮やかな緋色が、雪に溶けて消えてしまいそうで。白は死者のための色、という話も無意識に思い出され。己の冷気が、体の中にまで染み入ってくるような感覚であった。
またある日の、補給時間にて。
「本官、実は雪は苦手だったのであります。冷たい雪に触れて、そのまま自分も冷たくなって、動かなくなってしまったらと思うと、肝まで冷えてしまうのであります」
冷たい海の底に沈んだ仲間の骸を拾い上げたのだって、一度や二度ではないから。屍は冷たいものだと、本能が理解しているから。
「しかし不思議であります。貴官のそばで戦うようになってから、冷たさというのが全く怖くなくなったのであります」
雪を降らし続ける、くすんだ白い空を見上げてモガミは言った。
「むしろその冷気を背に受けて、貴官が近くにいると感じられて。どこか嬉しくすらあるのです」
変わった奴だ、とヒエイは思った。しかしいつものことなので、誰かに言いつける必要もないと判断した。……モガミは自分のためだけに独り言を言っているのだと、やや傲慢な自認を得たのである。
「まるで世界が貴官の色に染まっているようで。本官、少々浮かれているのであります」
貴艦の体色の場合、浮かれているというより浮いているというのが正しいのではないかとヒエイは思ったが。無粋すぎると笑われてしまいそうだと判断し、沈黙を維持した。
そしてまた、モガミは白い偽装布を被った。どこか嬉しそうな顔を奇妙に思いながら、ヒエイは視線を送っていた。
「花嫁というのは、白いヴェールを被るものらしいのです。いかがでしょう?それらしく見えるでしょうか」
部隊移動中、急にそんなことを言い出すのだからヒエイは返答に困った。
「……理解に苦しむ」
そうか、と無下に肯定するでもなく。知らん、と投げ出すでもなく。一言のうちに、理解しようとしている努力と甘さがにじんでいて。モガミはそれが嬉しくてたまらなかった。……冷たくて、言葉も態度も足りてないのに。ほんの時折そんな誠実さを見せるからこそ、モガミはヒエイに惚れ込んだのである。
「……」
モガミの後ろを歩きながら、ヒエイはその背中を見ていた。
彼女が吐いた息が純白のきらめきとなって風に流れて、口元にかかって。冷たいのに、どこかあたたかいような、バイタルが乱されるような。
触れぬまま感じる温度感に、ヒエイの演算はまた若干揺らいだのであった。




