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13.砕

 四月七日。ヤマト隊は指定エリアで警戒を行っていた。

 護衛はユキカゼを筆頭に、駆逐艦級が四頭。重巡洋艦級が二頭。空母は三隻、いずれも速力のある小型艦。この編成に、ユキカゼは違和感を覚えた。

 

 メイミィから大型ミサイルが放たれた通知が届いた。規模からして、核ミサイル。通常兵器では迎撃できない超大型規格。その軌道上にヤマト隊が配置されたのは偶然ではないと、ユキカゼは悟った。

 ヤマトの進水が繰り上げられた理由。外部器官も硬化不十分な中、取って付けた艤装でヤマトがここにいる理由。全ては、これを迎え撃つため。ヤマトを捨てて、本国を守るため。

 案の定、ヤマト以外の全員に撤退命令が下された。


「おまえは、最初から知ってたアルか」

「……よく分かんないけど……知ってた気がする……生まれる前からずっと……」

 ヤマトは本部から送られた衛星座標データから、射撃軌道演算を開始した。

「……その顔、該当データ無い……記録……」

 ユキカゼは、沈黙していた。暗い海底に、表情は影を深く負っていた。

「……大丈夫……教えられたこと、覚えてる……撃って、帰る、撫でてもらう……疲れて、寝ちゃいそう……どうしよう……」

 ヤマトはよく理解していないまま、発熱器官を起動した。

「おまえが眠そうなのは、いつものことアル。ちゃんと起きるヨロシ」

「……ユキカゼさん、起こして……」

「しゃーねーアル、一回だけ声かけてやるから、一発で起きるヨロシ」

「……ん、ありがとう……」

 ユキカゼの声はいつもよりどこか暗く、優しかった。




「……どうして、今、撫でてるの……?危ないよ……?」

 

 


 こうして、ヤマトを残しユキカゼは帰投した。




 その後、ヤマトは敵艦隊から爆雷、ミサイルを計六〇〇〇発以上受けた。防御甲殻のないボディは激しく損傷し、予定よりも早い段階でヤマトは砲撃体勢に入った。そのため、より長距離でミサイルを捕捉し、撃ち抜かなければならなくなり。サンプルデータの不足により照準は安定せず。より高威力での砲撃が必要となった。

 そこで司令部は、ヤマトに能力上限解放(アンロック)を命令した。それを実行すれば、自分の熱量で焼け死ぬことになるとヤマトは知っていた。ユキカゼが、散々そう教えたためである。しかし、ヤマトに拒否権はなかった。


『敵国に粛清を。祖国に鉄血の義を。能力上限解放(アンロック)


 ズキ、とした痛みがヤマトの頭に走る。同時にその頭上にヘイロー……青白く輝く光の輪が出現した。

 巡洋艦級以上の個体は、普段はその能力を制限された形で任務を行っている。遺伝子組み換えでもたらされたその能力に、肉体が耐えられないためである。

 しかし司令部が許可を行えば、その枷が一定時間解除される。それが能力上限解放(アンロック)


 今回の場合、時間指定もされておらず。ヘイローの展開直後に既に黒い亀裂が発生しており。これが正しい手順を踏んでいないことは明白であった。


 そんなこと、ヤマトは知らない。気にも留めない。もともと自分は生まれてはならないものだと、自覚していたから。


『発射』

 ヤマトは、生涯最初で最後の一撃を放った。発熱器官で蓄積されたエネルギーを、吐く。真っすぐに白くまばゆく、暗く濁った海を掻き消す。急激に気化した海水に、爆風が起こる。未熟な喉は焼けて爆ぜて、血と熱を漏らす。下顎は、溶け落ちた。


 ヤマトの熱線を受けて、はるか上空で炸裂したミサイル。その威力は想像を絶するものであり、一万メートル以上離れたヤマトにまで火球は到達した。


 熱と衝撃で破られ、剥がれた外表。海底にへばりつく肉と骨の欠片。ヤマトの影は、白く焼け残されていた。瞼は焼けて潰れて、割れた頭蓋からのぞく脳漿から、それがかろうじて頭部だと分かる状態であった。


 ああ、怒られちゃうな、とヤマトは思った。欠けた脳では、もうユキカゼの声も思い出せなかった。ただひたすらに、体が眠りを欲していた。

 ユキカゼさんはきっと起こしてくれる。

 声が聞こえたら、きっと思い出せるはず。

 声が聞こえたら、絶対起きるから。

 急いで追いかけるから、それまで待っててね。

 そんな嘘を大事に抱えて、ヤマトは眠りについた。


 きっと起こしてもらえる。そう信じて疑わない、寝顔のような死に顔であった。








 六時間後、ユキカゼにヤマトの訃報が届いた。



「……寝ぼすけ」



 

 どこかの誰かが騒ぎ立て謳う喧噪の中。ユキカゼは誰に聞かせるでもなくそうこぼした。

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